スマートシティのサービス市場、1000兆円規模に - 日本経済新聞
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スマートシティのサービス市場、1000兆円規模に

モビリティーや医療分野が拡大

全世界で進行する環境配慮型都市「スマートシティ」のプロジェクトによって、新たなサービスが生まれつつある。例えばスマートメーターやスマートグリッドの整備が進むと、供給側から需要調整をうながすデマンドレスポンス・サービスや、リアルタイムの節電アドバイスといったサービスが生まれる。電気自動車(EV)が普及すれば、充電サービスや、搭載電池の再利用といったサービスも盛り上がりを見せるに違いない。

こうしたスマートシティのハードウエアの上で展開される新サービスの世界市場はいったいどのくらいの規模になるのか――。日経BPクリーンテック研究所がこのほど市場規模を算定したところ、2030年までの累積で約1000兆円に達することが分かった(図1)。

これは『世界スマートシティ総覧 事業・サービス編』の発行に当たってまとめたデータで、現時点で先行的に始まっているものや、実現に向けた方向性が見えているサービスについて今後の展開を推定し、積み上げたものである。日経BPクリーンテック研究所は2011年10月13日に、世界スマートシティのハードウエアの市場規模が2030年までの累計で約4000兆円になると発表した。今回のサービス市場は、前述のようにその上で展開されるものだが、太陽光発電システムやBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)の保守・運用など、ハードウエアに直結したサービスは含めずに算定した。

最大市場はエネルギー分野

今回の『世界スマートシティ総覧 事業・サービス編』では、スマートシティによって生まれる新しいサービスをまず8つに分類し(大分類)、それぞれを36項目に細分化して分析・予測することで市場規模を算定した。8つの大分類とは、(1)行政サービス、(2)ホームネットワーク、(3)医療・健康、(4)生態系サービス、(5)スマートビレッジ、(6)マーケティング、(7)モビリティ、(8)エネルギーである。本記事のグラフでは、このうち規模の大きな行政サービス、ホームネットワーク、医療・健康、モビリティー、エネルギーの5つの分野の数字を示し、残りをその他としてまとめた[注1]

[注1] 生物多様性の確保や、屋上緑化といった生態系サービスの分野は、都市づくりの一環としてハードウエアに近い形で投資されるため、今回の「スマートシティが生み出す新サービスの市場規模」においては算定に含めなかった。

サービス市場1000兆円の内訳を見ると、やはりエネルギー分野が全体の28%の約280兆円で最も多い(図2)。スマートシティの主たる目的は二酸化炭素(CO2)排出量の削減にあるので、エネルギーに関するサービスメニューが多くなるのは必然といえる。例えば前述のデマンドレスポンスや、省エネのコンサルティングといった、エネルギー消費をいかに削減するかというサービスを中心に今後、広がりを見せていく。エネルギーは生活に不可欠な基盤であり、家庭や企業など顧客の幅が広いことも市場のポテンシャルをさらに拡大しそうだ。

エネルギー分野に続いて大きくなるのは行政サービスで、約20%を占めると見込む。経費削減とサービス品質の向上を狙って、行政サービスの民間企業への委託が世界的に増えるからである。例えば人口が約10万人の都市、米国ジョージア州のサンディスプリングス市では、ほぼすべての分野の行政サービスの民間委託を実現している。市の職員は10人以下に抑え、残りの100数十人は民間企業に所属している。これにより業務を効率化し、サービス品質を維持しながら経費を削減した。米国ではこのような動きが急速に広がっており、今後は米国だけでなく世界に広がる可能性が高い。それだけ行政分野における経費削減は世界的な問題になっている。

3番目に大きくなるサービス分野は、ホームセキュリティやホームオートメーションなどのホームネットワークである。エネルギーの効率化のためにHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を設置し、家庭の状況が定期的に送信されるネットワークが構築されれば、そのネットワークを利用して、セキュリティなどの家庭向けサービスが提供されやすくなる。

将来はモビリティー分野が拡大

モビリティー分野のサービス市場はEVの普及に伴って急拡大し、2030年にはスマートシティ関連サービス市場全体の約19%を占めるまでに成長する(図3)。同様に医療・健康分野も、生涯カルテの整備や健康管理サービスなどの普及で市場が拡大し、2030年には構成比が10%近くに達する。

医療・健康分野では、先進国などで高齢化が進むのと同期するように新サービスが生まれていくが、市場規模として見ると、エネルギーやモビリティーに比べて広がりは小さい。

例えば日本では電力サービスがほぼ全世帯に普及し、自動車の世帯普及率は80%以上と高いのに対し、昨今の健康ブームの追い風はあっても体重計や血圧計の世帯普及率は30~40%程度にとどまる。医療・健康はすべての人に関係する問題ではあるが、そこにおけるサービスに支出するかというと、意識はまだ意外に低い。このことから、医療・健康分野のサービスは1世帯当たりの単価を上げることが市場拡大のポイントになりそうだ。

モビリティーや医療・健康のサービス市場が拡大する一方で、エネルギー分野とホームネットワーク分野のサービス市場は2015年から2030年にかけて構成比が下がる。2030年の時点で、エネルギー分野のサービスは最大市場を確保するが、ホームネットワーク市場はモビリティー分野に抜かれて4番目になる。

(日経BPクリーンテック研究所 菊池珠夫)

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