「自粛よりビジネス、信じて前へ」ジャパネットたかた・高田明社長
日経MJ創刊40周年記念シンポ

【基調講演】
東日本大震災で多くの人の生活が変わった。ジャパネットは4、5年前からエコ(環境)が大事だと言い続けており、エコに対応した商品しか売れないとのメッセージを出してきた。今は節電意識の高まりで扇風機が前年の10倍売れている。消費という軸でみると、震災は消費者を変えた。
企業はエコに対応した商品を求めていくことが大切だが、既存の商品もしっかりとらえることが必要だ。両方を大事にしながら商品戦略やマーケティングに取り組んでいくことが重要だ。
震災後は元気の出る話をあまり聞かない。日本経済はどうなっていくかという大きな不安があるためだ。地震、津波、原発、風評被害の4つの問題が発生したが、いま日本を覆っている問題は経済活動の自粛で、この考え方には反対だ。米国は(米同時テロが起きた)「9.11」の2日後に国が「自粛はいけない」「やるべきことはやろう」とメッセージを出して力強く復活した。
10分で全商品売り切れ
当社も10日間はテレビショッピングの番組を自粛するつもりだった。だが本当に被災地のことを考えていくのであれば、企業としての仕事を頑張り通すしかないのではないかと考え、3月16日に番組を一部再開しようと社内で提案した。単に放送を再開するのではなく、テレビ1500台とランタン1000個を用意し、それらの売り上げのすべてを義援金にしようと提案したのだ。
午前9時半に番組がスタートし、冒頭ですべての売り上げを全額義援金として被災地に送る旨を視聴者に伝えた。すると商品の紹介が終わらないうちに10分で全部の商品が売り切れた。コールセンターには次々に電話が入ってきた。「本当にわたしたちの気持ちが被災地に届くのか」と。その時に私たちはビジネスを進めながら支援に取り組まないと、本当の支援にはならないと確信した。自分たちが信じること、企業が信じることを突き進むべきだ。
テレビ通販のスタジオがある長崎県佐世保市からほぼ毎日、日本全国に番組を発信しており、マーケティングが日々変化していることを感じる。今の時代はIT(情報技術)の進化で商品のサイクルが早過ぎ、世の中の変化も早い。今日売れた商品が明日も売れる保証はまったくないのが今の世の中だ。
20年前から情熱変わらず
番組づくりにかける情熱と仕事への取り組み方の姿勢は、20年前のラジオ通販をやっていた時とまったく変わらない。この商品を何人に買ってもらえるかという一念だけだ。100個しか売れなかったら、100人にしか伝わらなかったということだ。
伝えるために何が足らなかったのか。その課題を書き出していく。まずは自分の説明の仕方に問題がある。自分の語りが足りなかったのなら、どうして足らないのかを考える。本を読み、商品の知識を身につける。商品に触ってみる。そのうえで、どうやってうまく伝えるかを練り直す。番組には台本がない。いつも30回ほど撮り直す。たった60秒の中に人生やビジネスが凝縮して詰まっているといっても過言ではない。
商品の展示も重要なポイントだ。スタジオに商品をどう並べるかで番組の印象が全然違う。若いスタッフには「並べ方が悪い」「商品が主役になっていない」と指摘する。
さらには商品のチェック。この商品は本当にお客の立場に立った商品か。値段が私たちが提供している商品に見合っているか。いろいろな課題が10個、20個と出てくる。それらを1つずつつぶしていくことが、60秒のショッピング番組だ。これは企業の組織体の問題であり、社員教育や企業の理念にもつながる。
伝えたいからハイテンションに
番組で商品を紹介しているときに私のテンションが高いとよく言われるが、あれは商品の良さを伝えたいと思って自然と言葉が出ている。カメラの先の視聴者を見ているので、その人に伝えたいと思ったら、テンションがどんどん上がっていく。
宣伝の仕方は、経験からいうと、半端な投資は意味がない。やるときは大胆にやった方がいい。チラシは1回に4000万部を配り、5億~6億円かかる。テレビコマーシャルにも億円単位の費用が必要だ。10億円しか売れなかった商品が宣伝効果で30億円売れることもある。宣伝投資はお客がサプライズを待っており、それに応えたいという経営判断といえる。
――先行きの消費をどうみるか。
「当社はエコ応援プロジェクトを4~5年前から家電などでやってきた。当時から環境を考えない商品にはお客が振り向かないと言っており、今回の震災でまさにそういう状況になった。エアコンにしても15、16年前は6万~7万円の機種がよく売れた。今は10万円を超えてもエコを考えた商品には多くのお客が集まる。これから消費者が関心を示すのは節電やエコ関連の商品だろう」
消費は自分で「作る」

――震災で消費は根本から変わるのか。
「経済を左右するのは人々の心理学だ。消費者の心がどう動くのか。今は自粛するのではなく、皆で日本を元気にしようと立ち上がっていかないとだめだろう。復興のためには何よりも消費が大事で、わたしたちにできるのは前に進んでいくための消費を生み出すことだ」
「市場は社会状況で変わっていく。だから待ちの姿勢ではなく、消費は自分で『作る』という意識が大切だ。例えば8年前に販売したボイスレコーダーは数万台を売った商品だ。当初、会議で使う目的で販売したが、小さい子どもがいる主婦や高齢者をどうターゲットにするか。『お母さんの声を録音して子どもに聞かせてください』『お年寄りは用事を書くメモ代わりに使って下さい』。こう説明して年代ごとに使い方を具体的に提案した」
――消費者心理は冷え込んでいる。気持ちをどうかき立てるか。
「お客にものを売るときの伝え方が大切だ。テレビ通販の番組を見た人が『ものを売っている』と感じると、敬遠して買ってくれない。視聴者から『番組を見ていて楽しい』『子どもが番組を見てよく踊る』。こうした感想が寄せられるのが一番うれしい。わたしの説明によって商品を使った楽しさが伝わっていると分かるからだ。企業は単に商品を世の中に出すのではなく、どういう出し方で、消費者とどうつながっていくのかを考える必要がある」

――企業にできる復興支援とは。
「支援の方法はいろいろある。当社では復興支援の企画をいくつか考えている。例えば、番組で東北の商品を紹介することや観光で応援することも計画している。いま社内で議論しているのが、1万人を集めて東北ツアーをやり、義援金を集めたり、現地で買い物したりするものだ。テレビ局と協力した復興支援の企画も考えている」
身の丈に合った商売を
――通販だけでなく、リアルの店舗を展開するなど、新たな事業展開をどう考えているか。
「企業は身の丈にあった商売をしなければならない。家電製品を売っているけど、化粧品も売れるのではないかと思ってしまう。何でもできると勘違いすると危ない。いずれ海外に進出することがあるかもしれないが、今の仕事は課題がたくさんあり、日本でやりたいことも多い。例えば、我々と同じ思いを持ったメーカーがあれば一緒に商品開発などもしたい」