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目に見えぬ放射線を測る「ガイガーカウンター」

原発事故で世界的な品不足 できること、できないこととは

東日本大震災に端を発する福島第1原子力発電所の事故以来、「ガイガーカウンター」という言葉をよく耳にする。古くからSF小説などで取り上げられてきた放射線測定器――。インターネットで検索すると、「在庫有ります」「○○○○○円で即納」などの広告が並ぶ。個人がガイガーカウンターなどで計測した放射線量の数値を公開しているホームページも増えている。知名度は高いが詳細はあまり知られていない同装置を解剖してみた。

世界で製品不足、入荷待ち続く

東洋計測器が販売しているアナログ表示型のガイガーカウンター。本体左側の金属部分がガイガーミュラー管

3月の原発事故以降、販売店やメーカーには問い合わせが殺到している。東京・秋葉原で計測器を扱う東洋計測器では、4万8000円のアナログ表示型ガイガーカウンターが約100台、9万8000円のデジタル表示型が300台ほど入荷待ちとなっている。どちらも米国製だ。「事故前は2カ月に1台売れる程度だった。今は世界で不足しており、デジタル表示型が手に入るのは秋口になりそう」(リセール部の柴田泰世次長)という。

ガイガーカウンターを含む各種の放射線測定器を製造する日立アロカメディカルでは、「4月に入って落ち着いたが、3月中は社内の電話が鳴りやまない状況だった」(分析システム営業本部の山田孝一計測システム営業部長)という。企業からだけでなく個人からも、「とにかく放射線を計測できるものを手に入れたい」との問い合わせが相次いだ。

日立アロカメディカルのGM(ガイガーミュラー)サーベイメーター。大口径のGM管を持ち、ものの表面から出る放射線を測るのに適している

政府などが公開している数値に不安を感じる消費者が多いこともあり、測定器への関心が高まっているようだ。ただ、ガイガーカウンター以外にも放射能の計測機器はあり、価格や性能、用途は実に様々。では放射能計測器の原理や最適な用途などはどういうものなのか。

放射線が出す「パルス」を数える

放射線量を測定する機器は、一般的に「サーベイメーター」と呼ばれる。ガイガーカウンターはその中の1種類にあたり、「ガイガーミュラー(GM)管」と呼ばれる部品を使う。「価格を安く抑えられ、簡便に『放射線があるかどうか』を測る用途に適している」(産業技術総合研究所計測標準研究部門の齋藤則生・量子放射科長)。

<放射線を巡るキーワード>
シーベルト 放射線によってどれだけ人体に影響があるかを表す単位。Svと表記。Sv/h(シーベルト毎時)は1時間当たりの放射線量(放射線量率ともいう)
ベクレル 放射能(放射性物質のことを指して用いられることもある)の強さを表す単位。Bqと表記。Bq/cm2(ベクレル毎平方センチメートル)は、1センチ四方の表面放射能密度のこと
カウント サーベイメーターなどが計測する放射線の数。CPMとはcount/mで1分当たりの放射線数。この値だけを表示するサーベイメーターもある

GM管は円筒形の容器の中に不活性ガスを封入したもので、放射線がこの容器内を通ったときに発生するパルスを数える原理だ。低価格で入手できるが、「弱い放射線だと取りこぼす場合があるほか、一定の水準を超えた強い放射線はすべてをパルスに変換しきれず、その数を正確に検出できない」(齋藤科長)という欠点がある。また、放射線が人体に及ぼす影響を知るうえで意味があるエネルギーの強弱までは計測できない。他のサーベイメーターに比べて、正確な放射線量の測定が難しいとされる。

放射線量などを測定する機器
機器サーベイメーターゲルマニウム半導体検出器
ガイガーカウンターシンチレーション式電離箱式
用途表面放射能密度、空間線量空間線量、表面放射能密度空間線量放射能
エネルギー分離能力なし低分解能なし高分解能
価格~25万円~60万円35万~100万円1500万円程度
感度
測定部ガイガーミューラー管NaI(Tl)シンチレーター、プラスチックなど電離箱
特徴正確な線量測定は難しい電子を測定できない高い線量域まで測定できる精度高い

このほか、サーベイメーターには、「シンチレーション式」や「電離箱式」などがある。シンチレーション式は、放射線と反応すると微弱な光を発する「シンチレーター」と呼ぶ物質を使う。微少な放射線も測定でき、そのエネルギーも検出可能だ。電離箱式は、直流の電気で放射線を測定する方式で、高い放射線量まで測れる半面、感度はGM管よりも低い。日立アロカメディカルは、「GM管は空間の線量を測る用途よりも、表面の汚染を測るのに向いている」(山田部長)として、GM管を使うサーベイメーターでは大口径を持ち、ものの表面から出る放射線を測る機器を主力に置いている。

より高価な「ゲルマニウム半導体検出器」という機器もある。「放射線のエネルギーを様々な要素に分けて解析できるので、高精度での測定が可能」(応用光研工業=本社・東京都福生市=の福沢明専務取締役)。食品や液体に含まれる放射能を検出する場合など、厳密な数値を知りたいときに使われるという。

原子力発電所近くや各市町村などでその場所の放射線量を計測する「モニタリングポスト」は、感度に違いがあるシンチレーション式と電離箱式のサーベイメーターを組み合わせるのが一般的だ。また「線量計」は個人が身に付けて、その場所の放射線量率や期間中の放射線量の積算値を測定する機器で、シンチレーターのほかGM管を使った製品も販売されている。

シンチレーション式サーベイメーター。シンチレーターで測定する
電離箱式サーベイメーター。電離箱内の直流電流で測定する
線量計。現在の放射線量率や個人の積算の放射線量を測定できる

検出した放射線の数を換算

サーベイメーターで表示される計測結果には色々な単位が登場するので、混同せずに理解することが重要だ。室内や大気中の放射線量率(μSv/h:Svはシーベルト)や面積当たりの放射能密度(Bq/cm2:Bqはベクレル)などだ。メーター内に1分間に入ってきた放射線の数(CPM:Cはカウント。CPMはカウントパーミニット)を計測し、その値からSv/hやBq/cm2といった数値に換算している。

シーベルトとは放射線が人体にどれだけ影響があるかを示す。ある都市の空間線量率が「0.059μSv/h(マイクロシーベルト毎時)」なら、1時間その場所にいると0.059μSvの放射線の影響を受けるという意味だ。自分が受けた線量を足し合わせていけば、「一般公衆に対する限度は年間1ミリシーベルト」といった基準値との比較もできる。つまり現実の放射線の数を基に、その影響度を比較可能な分かりやすい数値に換算しているわけだ。

原発事故のあと、放射性物質(「核種」という)のなかで「ヨウ素131」や「セシウム134」、「セシウム137」が計測対象として扱われるのは、核反応で生成される量が多くしかもガス性で飛散しやすいため。そして「出る放射線のエネルギーは、核種によって違っている」(応用光研工業の福沢専務)。エネルギーが違えば、人体に与える影響も変わってくる。

ここで注意すべきなのは、ガイガーカウンターではエネルギーの違いを測定できないこと。そのため、放射線数からシーベルトへの換算時の精度を高めづらい。それ以外のサーベイメーターでも、機種によって測定結果に差異が生じる場合がある。放射線数からシーベルトなどに読み替える際の換算式が異なったり、換算条件の設定などが違うためだ。

さらに装置1台ごとに、感度や精度を調整する「校正」と呼ばれる作業が必要で、「"はかりの一種"であるサーベイメーターに正しい値を表示させるには、少なくとも1年に1度は校正が必要」(日立アロカの山田部長)。また「ガイガーカウンターには寿命がある」(同)ため、適切なメンテナンスをしないと精度が保てない。

専門家は「個人が市販のガイガーカウンターが測定した放射線量と、公的機関のモニタリングポストなどによる測定結果を、横並びで比較することは現実的ではない」と口をそろえる。

ガイガーカウンターが「できること」「できないこと」

ゲルマニウム放射能計測器。食品の中に含まれる放射能などを厳密な環境下で計測する

一般消費者が最も心配なのは、食品や飲料が放射能に汚染されていないかどうかだろう。だが、これから食べようとしている食品の放射能が基準値を超えているかを測定するのは、「市販の測定器の精度では難しい」(日立アロカの山田部長)。公的機関などがゲルマニウム半導体検出器などで厳密な環境の下で調べた測定値と、簡便な機器による数値を単純には比べられないからだ。

では市販のガイガーカウンターを使うことにまったく意味はないのだろうか。産総研の齋藤科長は「放射線量が以前よりも増えたか減ったかを比較する目安としては使える」と指摘する。同じ場所で数日前に比べて空間線量率が急に高まったとか、買ってきた食品などものの表面から放射線がたくさん出ているようだ、といったことを知りたいのであれば、一定の目的は果たせるという。

3月の原発事故以降、企業などでは製品輸出の際にサーベイメーターが多く使われているという。海外では各国が定めた基準で、輸入製品の表面の放射線量をチェックする。このため費用がかかる輸出前検査を認証機関に委託する前に、自主的に検査する企業が増えている。

ガイガーカウンターを含むサーベイメーターを活用する際には、それぞれの特性をしっかりと理解する必要があるだろう。

(電子報道部 松本敏明)

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