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ドコモのスマホを狙う「NOTTV」 逆風下で飛べるか

ジャーナリスト 石川 温

4月1日、携帯端末向けマルチメディア放送「モバキャス」に対応した放送局「NOTTV(ノッティービー)」が開局した。現時点の対応端末は、シャープスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)とNEC製タブレットの2機種だけ。エリアは東名阪と福岡、沖縄からスタートし、順次、全国に拡大する。

NOTTVは2011年に停波した地上アナログ放送の周波数帯を活用した新しい放送サービス。NTTドコモと民放各局、メーカー、広告代理店、商社などが出資した「mmbi(エムエムビーアイ)」(東京・港)が提供する。5月下旬に正式オープンする東京スカイツリーから送信する初の放送サービスとなる。

サービス内容はスマホ向けに3チャンネルを用意。2チャンネルがスポーツ、ドラマ、バラエティーなどの総合編成、もう1チャンネルはニュース専門だ。月額420円の有料サービスで、12年度には100万契約、将来的には1000万契約を目指すという。

4月1日午前に放送された開局記念番組には、ピンク色のスーツに身を包んだmmbiの二木治成社長が登場し、開局への意気込みを語った。「テレビではやれないことをやる」と従来のテレビを否定する「NOTテレビ」という言葉にちなんだNOTTV。実際にどれだけ使えるかを、シャープ製の対応端末「SH-06D」の実機を入手してチェックしてみた。

23区内で屋内の視聴は難しい場面も

SH-06Dは4.5インチの大型ディスプレーを搭載したスマホだ。モバキャスがVHF帯の周波数を使うため、製品が出る前は本体アンテナが「フェンシングの剣ぐらいになるのでは」と業界関係者に危惧されていたが、なんとかスマホに搭載しても常識的な長さに収まった。自宅などで視聴するときは、さらに太くて長いアンテナを内蔵した卓上ホルダー(クレードル)にセットすることで、受信感度を高められる。

NOTTVアプリを起動して、まず驚くのは画質の高さだ。「ワンセグの10倍」という触れ込みだけあって、かなりきれいな映像を楽しめる。4月1日にサッカーJリーグの中継を視聴したが、4.5インチの画面越しに選手名の字幕やグラウンド内の広告看板、選手の動きやボールの流れまでをしっかり視認できる。ワンセグは画質が悪く、大画面のスマホでは画質補正をしても粗さが目立っていたが、モバキャスを使う映像には問題はない。地デジの画質に慣れているユーザーでも、快適に見られる画質といえる。

では、エリアはどうか。

SH-06Dを購入後、東京・新宿、六本木、赤坂、浜松町、渋谷などでNOTTVを視聴したが、ほとんどの場所で視聴できた。ただし放送波を使うため、屋外では問題なくても屋内では電波が届かず視聴できないところがあった。

 新宿・四谷三丁目付近に住む筆者の場合、駅から自宅までは歩きながらNOTTVを視聴できたが、部屋に入りドアを閉めた途端に切れてしまった。アンテナ付きのホルダーに置いても無理だった。ドアや窓を開けるか端末をベランダに置かないと、自宅内ではNOTTVを視聴できない。NOTTVを見たいユーザーは,端末を買う前に自宅で視聴できるかを確認しておいたほうがいいだろう。

「最西端」の昭島市よりも西で見える?

もうひとつ、エリアで気になるのは「広さ」だ。エリアマップを見ると、関東では西は東京・昭島市周辺、北は栃木県野木町、南は千葉県富津市周辺が受信可能エリアとなっている。どこまで実際に見られるのか。最西端を調べるため、JR中央線快速に乗って試してみた。

新宿から乗った中央線快速では、吉祥寺駅までは問題なく安定した画質で視聴できた。しかし三鷹駅の手前ぐらいからはたまに画質が乱れるようになってきた。顕著なのは電車がホームに入った時だ。ホームのまわりが屋根などで囲まれているために電波を受信できないようで、番組を見られないことが多かった。国分寺駅、西国分寺駅などでは、電車が止まると映像も止まる。電車が走りだしてホームを抜けると、再び映像が流れだした。

乗り換えのため降りた立川駅のホームでは、八王子側では電波を受信できないが、東京側に移動すると受信できるなど、電波状態はかなり繊細なようだった。

立川駅からは青梅線に乗り換え、さらに西へ。移動中の車内でも番組が見えない場所が増えてきたが、電車を降りてホームや駅前に出ると、また安定して見えた。昭島市にある拝島駅で再び乗り換えて五日市線に乗ったが、終点の武蔵五日市駅(あきる野市)周辺でも視聴が可能だった。

エリアマップの最西端よりも、少なくとも10km以上は遠くに電波が届いているようだ。

民放テレビ局並みの番組を投入

NOTTVは3チャンネルの総合編成で、情報番組、ドラマ、スポーツなど幅広いコンテンツがそろう。そのうち1チャンネルはTBSニュースバードによるニュース専門チャンネルで、CS放送などで流れているものが並行して放送されている(11月以降は日テレNEWS24となる)。

平日昼に放送する7時間の情報番組は「これまで民放テレビ各局で情報番組を制作していた人間を100人規模で投入している」(mmbiの原田由佳編成統括部長)もので、民放の情報バラエティー番組に近いように見えた。インターネット向けの生放送番組を見慣れた筆者からすると、画質が高いこともあって、見ていて「安心感」を得られた。

地上波を持つ民放の情報番組に比べて予算は低いが、中継にも積極的に臨む予定だ。4月1日の開局特番では、二木社長が六本木の東京ミッドタウンから六本木ヒルズまでクルマで移動する様子を中継している。「中継車などは使わず、回線には(NTTドコモのLTEサービス)『Xi』を使った。移動中の使用でも安定して中継できることを証明できた。今後はこのシステムで機動力のあるライブ感の中継をしていきたい」(mmbiの小牧次郎氏)という。

 民放の情報バラエティー番組を作ってきた人材で、これまでのテレビ放送ではできなかった番組を作っていくことが、NOTTVの使命になるだろう。

スポーツ中継やドラマには改善の余地も

二木社長は「総合編成だが、視聴者は数ある番組のなかから一つや二つは興味のあるものを見つけられるのではないか」という。

実際、JリーグはJ1リーグ戦を全戦放送する(生中継は最大5試合)。Jリーグファンなら、モバイル環境で全戦を見られるのはかなり魅力的なはずだ。プロ野球はTBSニュースバードが横浜DeNAベイスターズの主催試合を中継するほかは、平日に1試合程度中継するだけだ。

昨今、プロ野球は地上デジタル放送で中継されることが減っただけに、人気チームだけでも全試合を放送するなら、かなり高い需要がありそうな気がする。今年はフジテレビが長年手がけていた自動車レース「F1」の中継で、地上波をやめてBS放送とCS放送だけにした。固定ファンがいるスポーツをきっちりと中継するだけでも、NOTTVの評価は変わるのではないだろうか。

ドラマでは「一話一会」として、ドラマの第1話だけを放送する枠が用意されている。4月1日には、米国で人気の航空会社を舞台にしたドラマ「PAN AM/パンナム」の第1話を放映した。ただしこれはプロモーション的な位置づけで「2話以降はBSで」という狙いがある。

初回申し込み後30日間無料で見られる期間内のため、現時点では不満はないが、実際に毎月420円を支払うようになっても第1話しか見られないのでは納得できない。海外の人気ドラマがいち早くモバイルで見られる環境をぜひNOTTVには作ってもらいたい。小牧氏が「番組表は生き物。今後は柔軟に編成していく」と語っているだけに、どう変化していくかは興味深い。

NOTTVはTwitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)などのSNS(交流サイト)との連携も売りにしている。そこで番組を見ながらSNSに書きこもうとしたが、SH-06Dではアプリが画面全体に表示されるため、番組が見られなくなってしまう。"連携しようとすると連携しにくくなる"という使い勝手は、改善が必要だろう。

日本特有機能にモバキャスも加わるか

NOTTVは放送サービスのため、端末には専用のチューナーを内蔵する必要がある。対応端末は現在は2機種だけだが、2012年上期にはあと5機種が登場するなど広がる方向だ。モバキャスの電波を受信しWi-Fi(無線LAN)で飛ばすことで、チューナー内蔵しないスマホでも番組を視聴可能にするスマホ用ジャケットの開発も進んでいる。

スマホ時代になり、日本メーカーはワンセグ、おサイフケータイ、赤外線といった日本特有機能をアンドロイド・スマホに載せ始めている。ただNTTドコモからモバキャスという新たな日本特有機能を載せるように依頼され、ややへきえきとしている。アンドロイド・スマホで世界進出を狙う日本メーカーからすれば、新たな日本特有機能の開発はさらなる負担になるだけだ。

 ここ数年で日本には、日本特有機能がなくてもグローバルメーカーのスマホを選ぶユーザーが増えてきた。韓国などのグローバルメーカーの国内シェアが増えていくなかで、「モバキャス対応の機種は増えないのでは」という見方もある。

その一方で、あるグローバルメーカーはモバキャス対応の端末を準備しており、夏モデルでの投入を予定している。グローバルメーカー各社は、日本でシェアを高めるには日本特有機能への対応は「必須」と判断しており、韓国や台湾のメーカーも日本市場向けにはワンセグやおサイフケータイなどの対応を強化させている。そのなかでNTTドコモ向けスマホでシェアを上げるには、モバキャスにも対応せざるを得ないと受け止めているようだ。

グローバルメーカーが搭載するなら、日本メーカーも当然ながら対応する。これらメーカーの動きを見ると、モバキャス対応機種は将来的には幅広いラインアップから選べるようになりそうだ。

短時間で求められる成果

華々しい開局セレモニーでスタートを切ったNOTTVだが、現時点では業界内を問わず否定的な意見が多い。少し耳を傾けると「見たいコンテンツがない」「月額420円は高い」「自宅内では受信できない」「対応端末が少ない」というネガティブな意見が次々と飛び出してくる。

昨今、第3世代携帯電話(3G)回線の逼迫が話題となっているが、mmbiと周波数獲得競争を繰り広げたKDDI陣営の「MediaFLO」は、ほかの経路でデータを送りネットワークの負荷を抑える「データ・オフロード」の機能を備え、3G回線の混雑解消に役立つ規格として考えられていた。放送が主体となっているモバキャスは、デジタルコンテンツの配信機能を備えているが、データ・オフロードの思想は持ち合わせていない。

MediaFLOを推進していた米クアルコムは、LTEを使い放送のように大量のユーザーに番組を配信できる「LTE broadcast」という新技術を開発している。新たな帯域や免許などを得なくても、LTEを使ってNOTTVに近い放送型サービスを実現できてしまう。この技術は「MediaFLOを手がけたメンバーが作ったもの」(クアルコム関係者)という。

クアルコムの技術を使うと、数年内にはLTEをベースに使う放送型のサービスを提供できる環境が整う。つまりNOTTVの存在意義を示すには、短期間で結果を出さなくてはいけない。

ドコモが手がけるコンテンツサービスは、ドコモショップで端末販売とコンテンツの契約を結びつけることで端末価格を値引くという施策を取れる。既に「BeeTV」や「E★エブリスタ」で実績があり、短期間で数を稼げる。初年度100万契約という数字もおそらく無理ではないだろう。

あとは「月額420円を継続的に支払いたいと思えるコンテンツをそろられるか」という点に尽きる。開局まで時間がなかったNOTTVだが、今後はユーザーの反響を見ながら、魅力あるコンテンツを調達することが成長を左右するだろう。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「スティーブ・ジョブズ 奇跡のスマホ戦略」(エンターブレイン)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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