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どうする核燃料処理と電力改革 北欧の「知恵」を聞く

編集委員 滝 順一

 原子力政策や電力システム改革に関し、北欧諸国の取り組みは日本に先行する面がある。フィンランドは原子力発電の悩みの種である使用済み核燃料の最終処分場の建設場所を決め2020年から処分を始める。スウェーデンは20年前に発送電事業を分離する大改革を実行し、今では取引市場で売買された電気が使用量の大半を占める。政策や改革の要にいた2人の人物、フィンランド放射線・原子力安全庁のユッカ・ラークソネン元長官と、スウェーデンの国有送電会社スベンスカ・クラフトナット社のミカエル・オーデンバーリ社長にそれぞれの国での経験と日本への助言を聞いた。

フィンランド放射線・原子力安全庁のユッカ・ラークソネン元長官

フィンランド放射線・原子力安全庁のユッカ・ラークソネン元長官

――フィンランドの最終処分場計画の経緯と現状を教えてください。

「1983年に政府の決定によって計画がスタート、2000年に大まかなスケジュールを決めた。2010年に建設を始め20年に稼働する内容だ。処分にあたる民間企業はまずフィンランド全土の100ほどの候補地から(すでにわかっている地質データなどの)文献調査で6カ所を選定、ボーリング調査などで2つに絞り込んだ。最終的には住民の意識調査から受け入れに好意的な場所を選んだ」

「2001年に議会が計画を承認したことを受け、事業者が地下実験施設の建設を開始した。地下420メートルに空洞を掘って核燃料を納める容器の耐久性を調べたり搬入作業に使う重機の性能などを確かめてきた。施設は2、3年前に完成し本格的な稼働に向けての様々な試験が続いている」

――そこで原発何基分の処分が可能ですか。

「フィンランド国内で運転中・計画中の8基から60年の運転期間中に発生する使用済み核燃料(約9000トン)をすべて処分可能だ。8基のうち4基が運転中で、1基が建設中、2基は建設の承認済みで建設開始を待っている。残り1基は建設の計画段階だ」

――処分場の選定の最も大きな要因は住民の理解にありますか。

「そうだ。その地域には20年以上前から原発があり住民は原発の存在に慣れている。直接的に自治体に補助金などが支給されてはいないが、税収があがり雇用があり経済的なメリットを受けている」

――これから処分場を選ぶ日本にアドバイスは。

「多数の選択肢を示すことから始めることだ。悪い例は米国や英国、スウェーデンで、政府が候補地を決めた。それでは住民は反対する。フィンランドから学び英国やスウェーデンは複数候補からやり直して選定を進めている。米国も方向転換した。候補にあがった自治体の住民が考える時間が要る。たくさんのうちのひとつに選ばれ考えてもらう時間を与えなくては。フィンランドでは法律で政府は自治体に処分場を押しつけられない決まりだ。同意が必要条件。ただしいったん決めたら建設着手後に撤回はできない」

 ――日本は地質条件が異なり選定はフィンランドより難しいように思えます。

「私たちも最初は地質条件が重要と思ったが、そうでない。最も大事なのは(使用済み核燃料を格納する)パッケージをどうつくるかだ。フィンランドの計画は銅製の容器に入れたうえ水を通しにくいベントナイト(粘土の一種)で包んで埋める。パッケージが水を通さず腐食に強いことが大事だ。フィンランド国内で地下水がない場所はなく岩盤にも水が通る亀裂があることはしばしばだ。処分場に地下水が浸入する可能性は排除できない。仮に浸透しても燃料を納めた容器と反応し腐食しなければよい。地下水の化学的性質が変わらない限り腐食が起きないと予見できる」

「処分場を地下に置くのは人間が意図せずに入るのを避けるためだ。岩盤に亀裂が少なく地下水が少ないに越したことはないが、水の浸入を避けることはできない。最初に選んだ100カ所は地質的にはほとんど差はない。核燃料の運搬しやすさや土地の権利関係などから総合的に判断した。価値のある地下資源が埋蔵する場所は避ける必要がある。そうでないと資源開発ができなくなる。日本でも処分場は選べるはずだ」

――どうしても国内で見つけられなければ海外に多国間で共用する処分場をつくるというアイデアもあります。

「可能性はあるが、最後はどの国に置くのかで行き詰まるのではないか。個人的な意見だが、どんな小さな国でも処分場を国内に見つけられるはずだ。処分コスト全体のうち、地下に穴を掘り埋めるのに必要な分はそれほど大きくない。原発が少なく小さい国が自前の建設は経済性がないというのは経済性をきちんと吟味してないからではないか。どの国も今ある技術で自分のゴミを自分で処分する責任がある。市民に対してもきちんと管理できることを示さねばならない」

――フィンランドは旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で放射能汚染を被りました。一昨年の福島事故はフィンランドの原子力政策に影響を与えましたか。

「影響はない。確かにフィンランドはチェルノブイリ事故で汚染を受けたが、国民の感情は反原発ではなく、反ソ連原発だった。現在のロシアにも、チェルノブイリと同型の原発が依然としてフィンランドとの国境の近くにあり、私たちはロシアから電力を輸入している。私たちは(ロシアの原発に依存し続けるより)自分たちで安全な原発をつくった方がいいと考えている」

スウェーデンの国有送電会社スベンスカ・クラフトナットのミカエル・オーデンバーリ社長

スウェーデン国有送電会社スベンスカ・クラフトナット社のミカエル・オーデンバーリ社長

スウェーデン政府が1992年に進めた電力システム改革によって国有送電会社のスベンスカ・クラフトナット社が誕生した。45万キロボルト以上の高圧送電網を保有する。ミカエル・オーデンバーリ社長は「日本でも改革の意義は大きいはず」と話す。

――スウェーデンが1990年代に取り組んだ電力システム改革の目的は何だったのでしょうか。

「発送電の分離と新しい市場形態の導入が目的だった。当時スウェーデンは経済危機にあり、政府は経済の構造的問題を解決するためいくつかの改革を実施した。エネルギー部門もそのひとつだ。ちょうど欧州連合(EU)内でも改革の動きが出てきてその影響を受けた」

「スウェーデンも電力は垂直統合・地域独占で電力料金は需給ではなく原価をもとに決まる規制価格だった。92年に発送電を分離し発電事業は自由競争のビジネスに、送電事業はクラフトネットが担うことになった。今の日本の状況と似ているところがある」

「重要な改革は効果的な取引市場をつくることにあった。現在、デンマークやフィンランド、エストニアなど6カ国の送電系統運用者(TSO)で北欧電力取引市場(ノルドプール)をつくり、前日に翌日の1時間ごとの電力価格を取引し、当日も調整のために取引する。スウェーデンで消費する電力の80%は市場で取引されており、透明性のある市場で価格設定機能が効果的に働くことが実証された」

――価格の変動は大きいですか。

「それなりに大きい。電力価格を動かす3つの主要な要因がある。まず気温が低いと需要が増えて価格は上昇する。次にスウェーデンの原子力発電所の稼働率。稼働率が低いと上昇する。3番目が水力の状況で降水量が多く水力を活用できれば価格は低く抑えられる。スウェーデンでは出力増強のため原発を改造したが、改造工事が影響して2年前の冬に停止せざるを得なかった。そのときは価格は高騰した。逆に昨年末のクリスマスは(産業が休みで)需要が少なく、強い風でデンマークの風力発電がフル稼働になり負の価格がついた。電気を使えばお金をもらえた」

――変動は電力料金に反映するのですか。

「もちろん。年間変動は確実に反映する。大手の需要家は料金変動に合わせ需要を管理し取引市場で価格が高ければ電力の転売で利益を上げられる。一般の需要家が電力を使う時間をシフトするデマンドレスポンスはまだ実現していないが、スマートメーターの技術はすでにあり、制度や契約面での見直しが進んでいるので遠くない将来に消費者の行動が電力取引市場に影響を与えるようになるだろう」

「ただ生活形態によって消費者のインセンティブは違うだろう。スウェーデンの消費者が払う料金のうち電力の価格はだいたい4割で、残りは送電網(グリッド)の使用量が2割、税金(付加価値税再生可能エネルギーへの補助金など)が4割だ。電力使用が大きな家庭は料金変動に対応して節電に取り組むインセンティブがあるが、そうでない家庭もある」

 「デマンドレスポンスの重要性は、消費者にいつどれだけ電気を使うのか選択の力を与える点にあるだけではない。電力システムの運用の観点からも重要だ。需要家を巻き込み、需要家が価格シグナルに反応して自ら需要を管理することで、例えば風力の変動性を補う助けになる。デマンドレスポンスを強めれば需要や価格のピークがなだらかになり、(変動に備えた)予備の発電能力を少なくしシステム全体を効率化する」

「現状では安定供給のため電源の予備力をもたねばならない。TSOは予備電源を常に稼働できる状態で確保することを法律で義務付けられている。そのため発電会社に収益性の低い石油火力を維持してもらうよう毎年お金を払っている」

――システム改革をしても最終的に消費者が払う電気料金は減っていないのでは。

「電力システムの効率向上と価格低下は実現された。ただエネルギー関連の税が増え消費者には実感できていない面もある。税もグリッドへの支払いも増えている。送電網の利用料金は送電網に接続するすべての需要家が差別なく払う。TSOが決める料金を規制当局がチェックしているが、欧州全体で送電網に大きな投資をしていく計画があり消費者も応分の負担をする」

――発送電分離による電力システムの効率化は日本でも可能だと思いますか。

「もちろんだ。日本は豊かな産業国家であり欧州と違いはあるが、基本的に可能だ。欧州諸国は相互接続で補完関係にあるが、日本は一国で大きな市場があり地域間の相互接続によって補完し合うことができるはずだ」

――ところで、スウェーデンは脱原発政策を見直したのですね。

「福島原発事故で隣国のドイツは脱原発に踏み切ったが、スウェーデンでは原発の将来に関して議論が起きることはなかった。かつてスウェーデンは原発をめぐって大きな政治的議論を経験し、米スリーマイル島原発事故後の80年には国民投票で2010年までに原発を段階的に廃止していくと決めた。4サイトで12基あった原発のうち1サイト2基は閉鎖したが、残りの10基は出力増強し発電の40%を賄っている。国民1人当たりの原発依存では世界トップではないか」

――変化の背景にあるのは気候変動への心配ですか。

「それもあるだろう、スウェーデンは電力の半分は水力、原子力が40%、風力が2~3%で二酸化炭素(CO2)を出さないクリーンな電源が多い。国民は長期間にわたり原発を受け入れており、すでにあるものは使おうという姿勢だ。原発を新設するとなったら話は別だ」

――そろそろ新設が必要な時期では。

「その議論が始まったばかりだ。議論がどう展開するかわからないが、自由化された電力市場では原発新設の判断は難しい。10~15年先の電気料金が見通せないのに莫大な初期投資をするのは容易ではない」

取材を終えて


 フィンランドのラークソネンさんの話で最も印象に残ったのは地質に関する考え方だ。島国の日本は大陸プレート(岩板)の上にある欧州と違って最終処分の適地が見つけにくいと思うのが一般の通念だが、ラークソネンさんは地質は二次的な課題だと指摘した。そして大事なのは住民理解だと強調、国からの押しつけでない時間をかけた議論の必要性を説いた。
 オーデンバーリさんの話ではやはり「日本に電力システム改革ができないはずはない」との指摘だ。自然エネルギーの大量導入に関し欧州は国境を越えた電力網の接続で相互補完ができるから可能だとする議論がある。同じことを日本の地域間でやったらどうかという。
 原子力に関しては両国とも政治的な議論を経験しながらも、現在はエネルギー安全保障の観点から受容している点も興味深い。

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