「ユーザー体験」を強化 ソニーがスマホで描く未来
ジャーナリスト 石川 温
日本国内でスマートフォン(スマホ)の新型機「Xperia Z」が好調なソニーモバイルコミュニケーションズ。ドイツのベルリンにあるソニーの旗艦店でも発売開始2時間で完売し、世界60カ国での販売が決まっている。2月28日までスペイン・バルセロナで開催された移動体関連展示会「Mobile World Congress(MWC)2013」のプレスイベントでは、NTTドコモ向けに発表していた「Xperia tablet Z」のグローバルモデルを披露した。

音楽配信でサービスと端末が融合
記者会見で、ソニーモバイルの鈴木国正社長兼CEOは「2013年はソニーモバイルにとってブレイクスルーの年となる」と宣言した。鈴木社長はXperiaの強みとして「Listen」「Create」「Watch」「Play」の4点を掲げた。Listenは音楽、Createはカメラ、Watchはディスプレイ性能や動画、Playはゲームを意味している。
特に音楽では、今夏にメディアプレイヤーと音楽配信サービスを統合する。メディアプレイヤーを起動すれば、定額制音楽配信サービス「Music Unlimited」で提供されている楽曲の一部を聞けるようになる。配信サービスを持つソニーだからこそ、サービスとデバイスを融合させた新たな使い勝手を示して、他社をリードしたい考えだ。
米アップルや米グーグルは、スマホだけでなくタブレットやテレビなどのマルチスクリーン展開に力を入れている。こうしたライバルに対して、ソニーが競争力の軸として大切にしているのが「UX(ユーザー体験)の共通化」である。
「様々な機器のUXを共通化することが競争力につながる。アプリの作り込みを強化すると、テレビとタブレット、スマホの連携がさらに強くなる」(鈴木社長)――。
鈴木社長はソニー本体で、UX・商品戦略・クリエイティブプラットフォーム UX・商品戦略本部長という役職を担当する。ソニーのあらゆる製品の操作性を見直し、サービスや端末がつながり融合する世界観を目指してきた。鈴木氏は「昨年4月に(融合に向けた)組織ができたが、そのかなり前から準備を進めてきた。この段階になれば、あるものを横に展開するのは当たり前のことだ」と振り返る。
Xperia Zをフラッグシップ機と宣言
他の大手スマホメーカーを見ると、アップルは「iPhone」の新製品を年に1度しか出さない戦略だし、韓国のサムスン電子はフラッグシップモデルを「GALAXY S」に位置づけている。ソニーからは様々な製品が年がら年中登場し、フラッグシップが見えにくい状況になった。そんななか1月のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)ではXperia Zをフラッグシップに位置づけると明言。多彩に散らばった商品ラインアップも今後は「分かりやすく絞り込んでいくつもりだ」(鈴木社長)という。
鈴木氏はソニーモバイルの目標を「常に業界トップ3に入っていたい」と説明した。ところが現在、勢いがある中国メーカーは、低価格帯のスマホでシェアを伸ばしている。ソニーとしても、安価なスマホに注力する気はないのだろうか。

「フラッグシップではUXを作り込んでいる。これを徹底して強化しない限りは下のラインができない。私自身が30年近くソニーにいるなかで経験しているのは、ソニーが下から入って成功したことは一度もないということ。(UXを)作り込むことで、プレミアムな商品が光ってくるはずだ」
第3のOSで期待される「化学反応」
そこで気になるのが、今年のMWCの話題となった「第3のOS」への取り組みだ。ソニーは会期中、スペインのテレフォニカと共同で「FirefoxOS」に取り組むと発表した。FirefoxOSは世界的に新興国向けの低価格スマホとして期待されている。ソニーはFirefoxOSにどのようなスタンスで臨むのか。
「(発表は)あくまで技術提携の話に過ぎない。テレフォニカとしては戦略的にFirefoxOSを商品化したいようだが、我々とは技術の議論をしっかりと進める。商品性や市場性を検討するのはこれからで、具体的なことは未定だ」(鈴木社長)
FirefoxOSには、日本ではKDDIが製品化に名乗りを上げた。KDDIとソニーとは近い関係にあるが、FirefoxOSスマホをKDDI以外の携帯電話会社に展開することについて、鈴木社長は「すべての可能性がある」とした。

現時点では技術的な研究開発をしていくだけにとどまりそうだ。鈴木社長は「今すぐにいくつかのプラットフォームを手掛ける体力があるわけではない。あらゆるOSの可能性をみる必要があり、ほかのオープンOSもWindowsPhoneにもドアを開いている。ケーススタディは常にしている」と説明した。
自社で豊富なサービスを持つソニーが、グーグルなどに影響されず自由に展開するために、第3のOS導入を準備する携帯電話会社と考えが近くなるのは、おかしなことではない。オープン製が高い「HTML5」をベースにした第3のOSなら、ソニーが目標とするマルチスクリーン展開もやりやすくなる。「ソニーと第3のOS」という組み合わせは意外と面白い「化学反応」が起きそうな気がする。
月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著は、本連載を基にした「iPhone5で始まる! スマホ最終戦争―『モバイルの達人』が見た最前線」。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/channel/226)を配信中。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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