/

「キュレーション」大人気 メディアの支配始まるか

ブロガー 藤代 裕之

「10倍のポテンシャルはある」。元ライブドア社長の堀江貴文氏が大きな成長を予想するのがニュースキュレーションサイトだ。ベンチャー企業が提供するスマートニュース、グノシー、ニューズピックスといったサービスは増資による多額の資金調達やテレビCMなどで勢いづき、ライン、ヤフーなど大手も参入して競争は激しさを増している。ニュースキュレーションサイトはニュースの世界をどう変えていくのだろうか。

背景に多過ぎる情報量

スマートフォンを片手にキュレーションサービス普及のインパクトを語る堀江氏

6月25日に六本木で開催された「ニュースサミット」(dmg::events Japan主催)、は「メディアを集めたら面白い」という堀江氏の一言をきっかけに開催された。インターネットやテレビ・新聞といった既存メディア、広告代理店、広告主などから400人の申し込みがあった。マーケティングやテクノロジーを題材にしたイベントはあるが、ニュースをテーマに大規模なカンファレンスが開かれるのは大きな変化だ。

堀江氏は、「マイルドヤンキーが高性能パソコンを手にした。今まで紙やテレビから情報を得ていた人たちが急速にスマホ(スマートフォン)シフトを始めている」という表現でスマホの利用が多くの人々に広がっている状況とメディアに与える影響を紹介した。

さらに、新聞、テレビ、オンラインメディア、個人のブロガーによる多様な情報発信により情報量が多くなったことで、情報を整理、編集して新たな価値や意味を与えるキュレーションが必要になったと背景を説明。「Airbnb(個人も参加できる宿泊場所のマッチングサイト)の登録数は全世界のホテル数を超えている」とキュレーションサービスがニュースだけでなく、旅行、グルメ、漫画などの分野に広がると指摘した。

世界展開に動く

グノシーの木村新司代表取締役、アンテナを運営するグライダーアソシエイツの町野健取締役COO(最高執行責任者)、ニューズピックスを運営するユーザベースの梅田優祐代表取締役共同経営者、と話題のニュースキュレーションアプリの経営者が登壇したセッションでは、それぞれのサービスの現状が明かされた。

KDDIなどから合計20億円を超える大型資金調達を行い、積極的なテレビCMも展開するなど最も勢いがあるグノシーは400万ダウンロード、社員は30人という。木村氏は「(今後)1年で1000万ダウンロード増えるだろう。業界全体で3000万ぐらいのサイズになるのでは」と見通す。英国、米国など海外展開を加速させ、世界で1億インストールを目指す。

ニューズピックスは、証券会社などで勤務した梅田氏の要望から生まれたサービス。110人の社員がいるが、ニューズピックスの担当は6人と少ない。7月からは東洋経済オンラインの佐々木紀彦編集長が加わり15人体制でオリジナルコンテンツの作成に入る。「ニュースはビジネスの中心にいるキングだ」と語る梅田氏は、ブルームバーグやトムソン・ロイター、など数社の寡占状態にあるグローバルな経済情報ビジネスに割って入りたいと述べた。

アンテナは350万ダウンロード。テレビCMを行って認知率を高めている。社員は15人。グノシーやスマートニュースがシステムでニュースを選んでいるのに対して、人手による編集を行うのが特徴だ。雑誌のような写真中心のレイアウトが女性の人気を集め、立ち上げは男性9割だった利用者が、女性6割に変化している。「新聞はオンで、雑誌はオフ。週末にアクセスが下がらないのが特徴。地方からの発信にも力を入れたい」と町野氏は説明した。

勢いがある各社だが、グノシーはテレビのヘッドライン、ニューズピックスは経済紙、アンテナはライフスタイル系雑誌のような特徴があることも大きな発見だった。

既存メディアの敵でない

左から江端、木村、梅田、町野の各氏

ニュースキュレーションアプリは既存メディアの敵なのか。モデレーターの日本マイクロソフト業務執行役員江端浩人氏が尋ねたところ、「敵ではないと思う」(木村氏)、「プラットフォームとコンテンツをつくる企業が融合する必要がある」(梅田氏)、「既存メディアのコンテンツをブーストする。紙やテレビ、ネットと関係が薄いところの情報を出すことで一緒に大きくなっていくことができる」(町野氏)と3者とも否定した。

キュレーションサービスは、コンテンツを作る側からは「ただ乗り」との批判があった。各社ともコンテンツ制作者との協力関係を模索している。

グノシーは記事の閲覧回数に応じて、コンテンツ提供者に収益を還元する取り組みを行う。毎日新聞社や共同通信社がこの仕組みを使っているとみられる。250メディアと契約するアンテナは、雑誌やラジオ、テレビの番組宣伝を流したり、広告の共同受注を行ったりしている。ニューズピックスは東洋経済やダイヤモンドなどの記事を月1500円で読み放題として、有料課金モデルを模索する。

だが、どれほどの収入がコンテンツ制作者に流れるかは未知数だ。元祖キュレーションサービスといえるヤフーニュースは、ニュースを検索やオークションといったサービスと組み合わせることでユーザーから支持を得てPCネット時代の一大メディアに成長したが、記事を配信した既存メディアは思ったほどの収入を得られなかった。既存メディアにとって、このような状況は2度目なのだ。コンテンツ制作のコストが高い既存メディアにとっては今のままでは厳しい未来が待ち受けることになりそうだ。

求められる社会的信頼

堀江氏は、多数のコンテンツ制作者がネットに存在すると語った。この状況をつくった要因の一つはヤフーニュースだ。膨大なアクセスをコンテンツ制作者に流す仕組みを整えたことが、新たなニュースサイトが生まれるきっかけになった。

キュレーションサービスが乱立すると、コンテンツ面での差別化が難しくなっていく可能性が高い。そうなると、キュレーションサービスも独自コンテンツを確保する必要に迫られる。キュレーションシステムを中心とした、新たなニュースメディアの生態系が生まれるかもしれない。

独自コンテンツとともに今後のカギになりそうなのが社会的信頼だ。木村氏は「地震が起きたらヤフーニュースを使うように、信頼の基盤をつくっていく必要がある」と述べた。ダウンロードが増え、利用者が増えていけば、社会的な影響力は高まっていく。記事と広告をあいまいにしたり、誤報やデマを拡散したりしてしまえばサービスの信頼は崩れる。

ニュースは、ただ面白ければよいわけではなく、人々が社会を理解し、より良く変えていくためのものでもある。キュレーションサービスが、ニュースメディアに求められる社会的な役割を果たすことができるのかも、大きな課題になりそうだ。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://gatonews.hatenablog.com/)を執筆、日本のアルファブロガーの一人として知られる。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン