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LTE普及策に隔たり KDDIがベライゾンと"論戦"

ITジャーナリスト 小池良次

10月25日から3日間、シカゴで開催されたモバイル・データの祭典「4G World 2011」では、携帯電話事業者の次世代戦略が焦点になった。背景にあったのは各社が第4世代(4G)モバイルサービスのLTEの整備に力を入れ出したこと。なかでもKDDIとベライゾン・ワイヤレスの基調講演は両社の普及策の違いを浮き彫りにし、大きな注目を集めた。

4Gから3Gに逆戻りしたメトロPCS

10月下旬に米シカゴで開催された「4G World 2011」の会場風景

今年の4G Worldではスプリント・ネクステルなど多彩な携帯電話会社が講演したが、注目を浴びたのは初日に登場したメトロPCSと最終日を飾ったKDDIとベライゾン・ワイヤレスだった。

約910万加入者を抱えるメトロPCSは、加入者ベースで全米6位の中堅携帯事業者だが、一般には格安携帯電話会社として知られている。同社の看板プランでは、月40ドルの定額で米国内通話やボイスメール、テキストメール、ウェブ閲覧が無制限で使える。最も高いスマートフォン用プランでも月額60ドルで、AT&Tやベライゾンの半額に近い。

「長期契約なし」をうたい、中途解約料がない代わりに契約は料金前払いで、端末は買い取りとなる。30~70ドル程度の端末を主力に品ぞろえをしており、割引サービスを利用すると最低で9ドルで手に入る端末もある。

メトロPCSのLTE事業を解説するトム・キーズ社長

"庶民の味方"を標榜してきた同社だが、2010年9月に全米で初めてLTEサービスを始めている。音声利用が主体のユーザーが多い同社は、それまではEV-DOなどの第3世代(3G)データ網への投資を控えてきた。

初日の基調講演に立ったトム・キーズ社長兼最高執行責任者(COO)は「音声サービスは頭打ちになる。いずれデータサービスが主力になる」として、「10年秋に一気にLTEサービスにジャンプした」という。

しかし料金プランを40~60ドルと安く設定したにもかかわらず、ユーザーはLTEに関心を示さなかった。LTEの端末価格は300ドル以上とまだ高く、価格に敏感な同社のユーザーが端末の買い取りを嫌ったからだ。

メトロPCSは現在、大都市でLTEサービスを展開している一方で、3Gデータ通信システム(EV-DO Rev.A)の整備にも力を入れている。これは米グーグルの基本ソフト(OS)「Android(アンドロイド)」を搭載した廉価版3Gスマートフォンをユーザーに50~100ドルで販売できるようになったためだ。

 基調講演でキーズ社長は「3GデータはLTEに顧客を誘導するための架け橋になる。LTE端末が安くなるまでのつなぎと考えている」と強気のコメントを発したが、同社にとってLTE投資は高いものについたようだ。

多彩なアクセス網の必要性を訴えるKDDI

最終日の午前中には、KDDIとベライゾン・ワイヤレスがそれぞれの4G戦略を解説した。傘下のUQコミュニケーションズが日本で広域WiMAX事業を順調に伸ばしていることもあり、KDDIの講演には伸び悩みが続く米国WiMAX事業者から熱い視線が注がれた。

WiMAXを含む総合ソリューションを提案したKDDIの冲中秀夫執行役員

昨年に続いて講演した冲中秀夫執行役員(技術統括本部副統括本部長標準化担当)は、急増するトラフィックの状況やバックホール(基地局用集線網)の拡充、クラウド・サービスの隆盛などに触れ、日米市場概況を簡単に説明したあと、KDDIが準備を進めているLTEネットワークを解説した。

講演の終盤、冲中氏は聴衆に「4Gとは一体何か。単なる無線伝送方式の次世代化というだけなら、通信事業者は使命をまっとうできないだろう」と訴え、4Gが"Network of Networks"であるとの考え方を提示した。

背景には「ユーザーは多様な端末と多様なアクセス網(消費者が直接つながる末端のネットワーク)を自由に使える環境を求めており、それに対応することが通信事業者の使命である」との冲中氏の現状認識がある。

こうした状況を踏まえKDDIは、「3Gネットワーク、WiMAX、CATV、FTTH、公衆無線LAN(Wi-Fi)など多彩なアクセス網(マルチプル・アクセス・ネットワーク)の整備を進める一方、それを統合するコアネットワークとコネクティビティー・マネージャ(接続制御管理)の充実に力を入れている」と強調した。

やや専門的だが、米国では無線伝送技術が従来のCDMA(符号分割多元接続、3Gの伝送技術)から、より効率の高いOFDMA(直交周波数分割多元接続)に移るところから、同技術を使うサービスを「4G」と呼び習わしている。つまり「4G=3Gより速い」とする意識が強い。

冲中氏は、日米ともにLTEの高速性ばかりを強調する風潮を戒めながら、「WiMAXも含んだ"Network of Networks"の整備に努め、総合的なソリューションを提供することが通信事業者にとっての4Gサービスである」と結んだ。

ベライゾンはLTEの高速性を強調

KDDIに続いて登場したベライゾン・ワイヤレスのT.J.フォックス氏(イリノイ/ウィスコンシン地区社長)は、進行中のLTE整備計画を様々な数字を示しながら解説した。ベライゾンが過去10年にわたって携帯ネットワークに1100億ドル(約8兆5000億円)を投資してきたことを示したあと、LTEインフラ整備は11年末に178市場、カバー人口1億8600万人に達する勢いで、「予定を上回る速度で進んでいる」と強調した。

ベライゾン・ワイヤレスのT.J.フォックス氏は、同社が過去10年で1100億ドルをネットワークに投資してきたと述べた

ベライゾンは主要都市圏を自社ネットワークでカバーする一方、人口の少ない地域は地元の通信事業者と連携することでLTEインフラを整備しようとしている。このプログラムを「Rural America program」と呼び、同社が持つ700MHz帯周波数の無線免許を貸し出すだけでなく、ネットワーク建設の支援なども行っている。

地域通信事業者には他社の無線免許を借りて事業を展開するリスクがあるが、ベライゾンの支援でローミング契約による全国展開が容易にできるメリットもある。フォックス氏は同プログラムに11社が参加したことを報告し、今後も参加する事業者が増えるとの見通しを示した。

講演全体を見渡すとベライゾンは、LTEの通信が高速なためユーザーは「全く新しい体験ができる」ことを何度も強調していた。これは同社がテレビやラジオなどのマスメディア広告で一貫して訴えてきたキャッチフレーズでもある。

WiMAX陣営に国際市場への道を示したKDDI

KDDIとベライゾンの基調講演では、立場の違いによる駆け引きが展開され、興味深い"論戦"となった。講演をうのみにするとベライゾンはLTEによる高速化だけに終始しているように見えるが、実際はそうではない。

WiMAXは持っていないが、ベライゾンはIPTVによる放送サービス、光ファイバーによるブロードバンドサービス、公衆無線LANサービスなどではどれもKDDIを上回る規模で事業を展開している。それらをまとめるコアネットワークの構築でも自他共に全米でトップクラスを自認している。

スプリント・ネクステルのボブ・アッツィ副社長は、12年中ころにサービス開始を狙うLTE整備計画の詳細を講演した

しかしLTEのセールスでは、難しいネットワークの内輪話をすべて切り捨て「速い、すごい」という単純なキャンペーンに特化している。一方、KDDIはWiMAXとLTEを並行して整備する数少ない大手携帯電話事業者として、その多様性をセールスする戦略に出た。

米国は世界に先駆けてWiMAX技術の開発と商業化に力を入れてきた。現在もWiMAXは地方を中心に成長を続けているが、当初予想された規模からはほど遠い。広域WiMAX事業者のクリアワイヤーがLTEインフラの構築計画を発表したことや、クリアワイヤーを4Gのパートナーとするスプリントが12年中ころにLTEサービス開始を予告したことなども、WiMAX陣営にとっては頭痛の種となっている。

そうしたなかWiMAXを含めた総合ソリューションを目指すKDDIの姿勢は、WiMAX陣営にとって国際市場への活路が開けることを意味し、少なからぬ安堵感を与えるものだったようだ。

小池良次(Koike Ryoji)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。88年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)など。

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