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高級ブランド中古流通、即日配達… EC次の市場

ブロガー 藤代 裕之

「日本のスタートアップは盛り上がっているが、あえて甘いと言いたい」。10年目を迎えたインターネット系企業の経営者や起業家、投資家らが集まる「インフィニティ・ベンチャーズ・サミット(IVS)」は、主催するインフィニティ・ベンチャー・パートナーズの小林雅共同代表パートナーによる挑発的な言葉で始まった。

アマゾンに対抗する高級ECサイト

観衆を挑発したインフィニティ・ベンチャー・パートナーズの小林雅共同代表パートナー

オープニングセッションは、ネットビジネスの新しい潮流を占う。大きな変化があったのは昨年春。それまでのソーシャルゲームから、メッセンジャーアプリやクリエイティブが話題の中心となり、筆者は「ソーシャルメディアでネットは『リアル』になる」という記事を書いた。登場する企業にも変化があった。続く昨秋のカンファレンスでは、カスタマーサポートを支援するデンマークのベンチャー企業「Zendesk」、今回は、Farfetch(ファーフェッチ)とTheRealReal(ザ・リアルリアル)という高級ブランドを扱うコマースサイトが戦略を披露した。これは何を意味するのか。

ザ・リアルリアルは、米国のビバリーヒルズで2011年に開設され、2013年8月に日本に上陸。ルイ・ヴィトンやエルメスなど高級ブランドの中古品を所有者からの委託を受けて販売している。ファーフェッチは、ヨーロッパ発で小規模な店舗が商品を出店し、雑誌Vogueなどを出版するコンデナストが出資している。

ショッピングサイトは、既にイーベイやアマゾンという巨人がいるが、ファーフェッチのJose Neves CEOは「プラダはアマゾンで売っていない。ウォルマートでプラダが売られていないのと同じだ」と説明する。リアルリアルのRati Levesqueチーフマーチャントも「イーベイでは(商品構成を編集する)キュレーションができないから(リアルリアルで)働きたいと移ってくる従業員がいる」と違いをアピールした。

「何でもある」ように見える巨大なモールの隙間を突き、特徴のある電子商取引(EC)が世界に広がろうとしている。それはCtoC(個人間のEC)でも同じだ。

CtoCサイトで戦争が起きている

「成長するCtoCマーケットの展望」のセッション。インフィニティ・ベンチャー・パートナーズの田中章雄共同代表パートナーが図を示しながら「クレイグスリストがアプリ系ベンチャーに襲われている。戦争を仕掛けられている」と説明した。

CtoCマーケットの勢力図を解説するインフィニティ・ベンチャー・パートナーズの田中章雄共同パートナー

クレイグスリストはアメリカの新聞広告を壊滅させ、紙の新聞を衰退させた要因としても紹介される「売ります」「買います」サイト。このクレイグスリストのジャンル一覧の一つ一つが特化したCtoCサービスに置き換えられつつある、という。一例として、田中氏はハイヤー配車のUber(ウーバー)をあげた。

ウーバーはスマートフォンアプリからハイヤーを配車できるサービス。日本にも、同じようなサービスはあるが、事前に登録したクレジットカードで支払うことができ、運転手の評価もできるのが異なる。ハイヤー運転手と顧客を結びつけるCtoCなのだ。

このセッションには、スマートフォン向けのフリーマーケットサービスを展開するメルカリの山田進太郎社長、クレイグリストと同じような求人情報や中古品情報をやり取りできるジモティーの加藤貴博社長らが登壇した。

パソコンの世界ではヤフーオークションが存在するが、メルカリはスマートフォンに特化し、素早く手軽な操作で出品、購入できるフリマサービスを提供する。山田社長が、その場で素早く出店できるとプレゼンしてみせた。中心となる利用者は25歳前後の女性で、地方在住者も多いという。

ジモティーでは、家具や衣料品などの日用品から、土地や別荘、船までもがやり取りされる。ユーザー属性は、加藤社長によると「アプリを使わず、ITリテラシーは比較的低い。テレビを良く見る、お得な情報が好きな人」で、40代以上が62%を占める。

メルカリやジモティーは、これまでネット利用者の中心とされてきた都市住民ではなく、地方在住者や高齢者という新たなユーザーを切り開いている。楽天出身で、ソーシャルゲームなどを手掛けたウノウを創業するなど人気サービスをつくってきた山田社長は「普通の人がネットを初めて使うようになった」と述べていた。

何でもネットで売る時代

ユーザーではなくこれまで取引されていなかった物をネットでやり取りしようという動きもある。

新サービスをベンチャー経営者らがプレゼンする「LaunchPad(ローンチパッド)」に登壇したスペースマーケットは、個人や企業が持つ部屋や施設を貸し借りできるサービスで、会議室、結婚式場から映画館、お寺、お化け屋敷などが並ぶ。

ietty(イエッティ)は、賃貸物件を探している人と不動産の営業マンをマッチングするサービスで、条件や好みをサイトに登録すると営業マンが物件を推薦してくれる。ハイヤー会社ではなくハイヤー運転手と利用者をつなぐUberと似た構造を持つ。

「弁当版のUberを目指す」とプレゼンしたのがbento.jp(ベントー・ドット・ジェイピー)。アプリから申し込むと20分以内に弁当を届けてくれる。コンビニもデパ地下も飲食店も近くにある都心部でのサービスにもかかわらず、開始時に1分間100オーダーと注文が殺到し、配送エリアを限定したほどだ。

冒頭のセッションでもファーフェッチのJose Neves CEOは、利用者が店舗に直接行かない理由を「在庫があったらすぐに買いたいのではないか」と分析していた。このような「すぐ届く」にはヤフーも挑む。

大赤字でも2時間配達をやる理由

ECの将来を議論するヤフーの小沢隆生執行役員(中)とLINEの舛田淳上級執行役員(右)ら

ヤフーは注文後2時間以内に商品を届けるヤフーショッピング「すぐつく」を東京都江東区の豊洲地区で5月8日に開始した。

楽天出身でヤフーに転じた小沢隆生執行役員は、「大赤字です」と会場を笑わせながら「どこの誰が何を買っているかというのが分かれば、広告も入れられる。ひょっとしたら広告ビジネスをとれるかも。ラストワンマイルをいかに取るかだ」と新サービス開始の理由を明かした。ヤフーは既に、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とポイントを共通化しているが、商品の購入履歴とウェブの閲覧履歴の共通化も進めている。

小沢氏と同じセッションに登壇したLINEの舛田淳上級執行役員も、「LINEから弁当を注文できたら便利。倉庫を持たずにUberのようにぐるぐるまわったほうが効率が良い場合がある」と発言していた。楽天やアマゾンが成立するのは宅配便というインフラがあるからだが、数時間から数分で到着する宅配ネットワークが整えば、これまでにない商品をやり取りすることができる。

地方や高齢者、リアルの購入履歴、配送時間の短い宅配、これらはネットビジネスがこれまでリーチできなかった部分を掘り起こす動きという点では同じだ。ネット企業がネットサービスだけを展開する時代は終わりつつある。アマゾンや楽天が強過ぎるからこそ、挑戦者は、人、物、行動などのあらゆるリアルをネットに置き換えることで、その先にある巨大市場を狙おうとしている。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

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