女性の力、生かす制度とは? 先進7社担当者座談会
復帰後も育休、上司と一緒に復職支援セミナー
――育児休業から復帰した女性社員を戦力外扱いせず、責任ある仕事をさせる施策は。
キリン・神元氏 「2006年に制度を改定して、育休を従来の最長3年から2年に短縮した。その代わり、子どもが小学3年生になるまで短時間勤務は48カ月(育休期間を含む)を上限に5、6、7時間から選べ、フルタイム勤務に戻った後も、3カ月以上を1回として計5回まで利用できるようにした」
「昨年から、キャリアを前倒しで積ませている。女性は30歳前後で出産などのライフイベントを迎える。その前に仕事で成功体験をさせると働くことへの情熱が湧き、復帰後の受け入れ側も安心できる」
日立・神宮氏 「13年2月から産休前復職支援セミナーを始めた。対象者と上司が一緒に受ける。会社側は育休中の社員に非常に期待していて、なるべく早い復職を願っているという考えを伝える。このセミナーは上司側も高評価だ」


大和証券・板屋氏 「10年ほど前までは出産を機に辞める女性が多かった。約1年半かけてセミナーを開いて制度を説明。休職中も会社を身近に感じてもらえるよう、自宅などから見られる社員向けサイトに会社の最新情報を載せたり、子連れでの会社訪問を実施したりしている。『働き続けて』とメッセージを発信している」
P&G・丸谷氏 「出産後の復職率は90%超だ。男女とも入社時からキャリアプランについて上司と部下で話し合う。職務上の目標設定だけでなく、結婚観や出産・育児のためにどう休みを取りたいかなど私生活の話にも踏み込む」
「子連れで出張する場合、ホテルの保育施設やベビーシッターの利用など、通常業務外の費用は会社が負担する。配偶者の転勤に合わせて転勤させる配慮もする」
LIXIL・川上氏 「会社からの期待をどう伝えるかが大切だ。労使で両立支援の専門委員を立ち上げた。これまで有効だったのは残業など業務で延長保育が必要になった際の料金補助。『両立しながら働いてほしい』という意思をはっきり示した」
三井住友銀・田口氏 「残業に対応する保育料は子ども1人に5万円まで出している。もともと女性が多く、育休者も1年で千人ほどいる。人数が多い分、色々な働き方を許容したい」
東京海上日動・大場氏 「復職後、短時間勤務の人でも、希望すれば子どもが寝た後などにネットで研修できる。20~30代はキャリアを積む上で重要な時期だ」

――子育て中の社員は子どもの発熱などで急に仕事を休むことも多い。穴埋めする社員にどう報いているのか。
東京海上日動・大場氏 「育児だけでなく、介護や自身の病気もある。長期の欠員なら派遣社員などで補充し、短期ならそれは『お互いさま』だ。短時間勤務者は生産性が高い人が多く、時短勤務のまま、昇級する人もいる」
三井住友銀・田口氏 「管理職向けの研修で『穴が開くのが普通』と伝える。その穴を埋めるのがマネジメントだと。休む本人には仕事を『見える化』しておくこと、感謝の気持ちを持つことを復職前に伝えている。一方で、短時間勤務者が2人いる支店は人を補充するなどの基準も定めている」
キリン・神元氏 「多くの職場では、皆で分担してこなしている。休む可能性のある人は、自分しかできない仕事は先に片付け、他の人でもできる仕事は後回しにする、など工夫している」
LIXIL・川上氏 「工場では生産ライン単位で業績管理をしている。急に休みが入ると、余裕がある部署から人を出す。応援人員は多能工化し、昇進も早い」
P&G・丸谷氏 「休暇中も携帯端末を持ち、どこでも連絡が取れるようにしている。ただ、子どもが熱を出したからといって、常に女性が休む必要はない。夫などとやりくりしたり、病児保育サービスを利用したりできる」
大和証券・板屋氏 「高齢化が進むと自分の体調不良で早退するケースも増える。そのたびに穴埋めした社員に加点するのか、現実的には難しい」
――女性が活躍するためには、終身雇用や年功賃金などが前提だった日本の雇用慣行はどう変わるべきか。
LIXIL・川上氏 「優秀なら性別や国籍などに関係なく採用する。日本でしか通用しない雇用慣行や人事制度は破るのが必然。昇格に必要な業務経験の年数は弾力的な運用を始めている」
三井住友銀・田口氏 「長期雇用自体を悪いとはとらえていないが年功賃金は見直し始めている。社員の専門性を評価する手法を昨年7月から始めた。制約のある働き方しかできない人でも専門性を持てる道が開ける」
東京海上日動・大場氏 「成長の要因は(1)異動(2)与えられる役割(3)研修の3つだ。男性より女性に足りないのは、新しい業務や職場を経験する機会だ。多くの経験ができる制度作りに着手したい。女性の登用と昇格にはゲタを履かせないが、経験や研修といった機会はあえてゲタを履かせて与える」
P&G・丸谷氏 「総合職は男女に関係なく転勤がある。子連れで海外に赴任する女性もいれば、夫がついて行くこともある」
大和証券・板屋氏「長時間労働の是正は難しいが、7年前、原則夜7時前退社を実施した。『早く終わったから帰る』ではなく『忙しくても7時前に帰る』だ。最終的に生産性は上がった」
日立・神宮氏 「当社は部署やグループ会社ごとに女性の活躍度合いを数値化し格付けし始めた。反対の声もあったが、改革を進めるためだ。女性であれ男性であれ、制約のある人材が力を発揮できるような職場環境を整えることが重要だ」
(司会は日本経済新聞社編集委員・阿部奈美)
▼座談会参加者(肩書は3月24日時点)







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