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理想の上司像、17年間でこんなに変わった

編集委員 小林明

産業能率大学が毎年発表している新入社員に聞いた「理想の上司」。比較できる1998年度から最新の2014年度まで17年間の変遷を追い掛けてみると、興味深い傾向が浮かび上がる。トップ10の顔ぶれが大きく様変わりしており、各時代を反映した経済事情や世相が読み取れるのだ。そこで今回は「理想の上司像」にみる時代の移り変わりを紹介する。

まずは14年度の「理想の男性上司」と「理想の女性上司」のトップ10を見ておこう。

筋曲げない"バブル入社組"エース=半沢直樹

同調査は今年3月26日~4月10日に産業能率大の新入社員研修を受けた受講者を対象に実施し、442人(男性288人、女性154人)から有効回答を得た。

男性上司の1位はテレビドラマ「半沢直樹」の主役を演じた俳優の堺雅人さん。

「やられたらやり返す、倍返しだ」――。こんな決めぜりふで人気を博した。原作は池井戸潤氏の小説「オレたちバブル入行組」。ドラマの中で半沢直樹は70年に金沢市で生まれ、慶応大学経済学部を卒業。92年に産業中央銀行に入行した"バブル入社組"という設定になっている。

バブル入社組は同期が多く、出世競争が激しいが、半沢直樹は「頭取を目指す」と公言するエース行員。筋を曲げない性格から上司との摩擦は絶えないが、部下からの信頼は厚い。そんな上司像に新入社員からの大きな支持が集まったようだ。堺さんを選んだ理由としては「CMやドラマでのイメージ」が最も多かった。

ランキングではこの後、池上彰さん、イチローさん、長谷部誠さん、水谷豊さんら常連組が続くが、特に目を引くのはお笑いタレントの有吉弘行さんが前年度の55位から7位にランク入りしたこと。今やレギュラー番組を数多く掛け持ちする売れっ子だが「鋭い指摘や的確なアドバイスをしてくれる頼もしさ」(産業能率大)が評価されたようだ。

部下を引っ張る力強さ=天海祐希

一方、女性上司の首位は宝塚歌劇団の元男役スター、天海祐希さん。

5年連続で首位を走り続け、"天海時代"を築いた格好。男っぽいサバサバした姉御肌が人気でドラマやCMに引っ張りだこ。「部下を引っ張る力強さが幅広い支持を集めた」(産業能率大)。天海さんを選んだ理由としては「態度や姿勢が手本になりそうだから」が最も多かった。

ランキングではこの後、江角マキコさん、篠原涼子さん、澤穂希さん、仲間由紀恵さんら常連組が続くが、目立つのはお笑いタレントの大久保佳代子さんが前年度の圏外から10位に食い込んだこと。大久保さんを選んだ理由としては「人柄がよく親しみやすそう」が最も多かった。

次に17年間のランキングの変遷を一覧表で見てみよう。世相の移り変わりが読み取れて興味深い。

表は比較可能な98~14年度の理想の男性上司トップ10の変遷である。

首位は98年度の長塚京三さんから14年度の堺雅人さんまで計10人が入れ替わっており、産業能率大によると、経済状況や世相に応じて以下の3つのタイプに分類できる。

●98~06年度=「低迷する組織を再生するリーダーシップ」があるタイプ

「就職氷河期・長引くデフレで会社も活力を失い、組織を再生し、元気づける上司が最も理想と考えられていた時代」(産業能率大)。「ID野球」を掲げてヤクルトを日本一に導き、99年から阪神監督に迎えられてチームを改革した野村克也さんのほか、阪神監督を引き継ぎ、03年にリーグ優勝させた星野仙一さん、06年からヤクルトで選手兼任監督として活躍した古田敦也さんらはいずれもチームをまとめ上げるリーダーとして人気を集めた。北野武監督は歯に衣(きぬ)着せぬ毒舌やマルチな才能が組織を引っ張っていける「理想の上司」だと評価されたようだ。

●07~08年度=「親近感」があるタイプ

02年から08年まで続いた「いざなみ景気」の末期になると、肩の力が抜けた親近感の持てる兄貴タイプが理想の上司になる。その象徴がタレントの所ジョージさん。所さんは17年間を通じてトップ10には必ず顔を出してきた常連組だが、特にこの時期に支持が集中している。争いごとよりも癒やしや融和を求める風潮が影響したとみられる。

だが08年9月に起きたリーマン危機で時代は新たな局面に突入する。

●09~14年度=「組織に依存しないスキルと自信」があるタイプ

リーマン危機に続き、11年3月には東日本大震災や原発事故が発生。先行きが一段と不透明になると、組織に依存しないスキルや自信に脚光が集まる。01年に大リーグに移籍し、巧みなバットコントロールで数々の偉業を達成したイチローさんはその代表格。初めてランキング首位に立った09年は第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝戦で延長の末、自らの決勝打で宿敵、韓国を撃沈。大舞台での勝負強さを見せつけた。

わかりやすいニュース解説でおなじみの池上彰さんはNHKを辞めてフリーになってから才能をさらに開花。卓越したディベート能力が持ち味の橋下徹さんも弁護士、大阪府知事、維新の会の旗揚げと活躍の幅を大きく広げた。「どんな逆境でも自らのスキルで生き抜き、キャリアアップできるのが新入社員のあこがれ」(産業能率大)というわけだ。

98~14年度の理想の女性上司トップ10の変遷を見てみよう。

首位は98年度の鈴木京香さんから14年度の天海祐希さんまで計8人が入れ替わっており、経済状況や世相に応じて以下の4つのタイプに分類できる。

●98~01年度=「社会にはっきりとものを言う」タイプ

就職氷河期は強さに魅力を感じた時代。強い個性を発揮して活躍する女性が増えてきた。01年の小泉純一郎内閣で外相に就任した田中真紀子さんはズバズバとはっきりした物言いで国民からの人気が高かった政治家。同年の自民党総裁選では応援演説を買って出るなど小泉氏陣営の勝利に大きく貢献した。テレビドラマ「ショムニ」で主演した女優、江角マキコさんも人気が高い。ドラマでは口の悪さと自己中心的な発想を持つ女性リーダーを好演した。

この時期は田中と江角の"ダブルマキコ"が理想の上司の象徴になった格好だ。

●02~06年度=「仕事と家庭の両立」タイプ

「いざなみ景気」にあたるこの時期には子育てを楽しみながら、仕事と家庭の両立を目指すバランスの取れたタイプに関心が集まる。ランキングでは女優、黒木瞳さんが5年連続で首位に君臨した。仕事と家庭をほどよくこなすスマートな生き方が新入社員から多くの支持を集めたようだ。人とは無駄に争わず、引くべきところは引き、部下を褒めて伸ばしてくれる。賢く気さくで明るいのが魅力。それまでの「社会にはっきりとものを言う」タイプへの反動もあったかもしれない。

●07~08年度=「派遣社員ドラマ」タイプ

08年の金融危機のころからは派遣切りが本格化した時代。テレビドラマ「ハケンの品格」で主演した女優、篠原涼子さんがランキング首位に立った。このドラマでは超難関の資格を多数持ち、レジ打ちから速読術までなんでもこなす特A評価のスーパー派遣社員という役どころ。「姉御肌で頼もしい先輩。ピンチのときに必ず助けてくれそうなイメージ」(産業能率大)。厳しい現実を背景に好感度が高まった。

●09~14年度「キャリア・強い女性」タイプ

リーマン危機、東日本大震災、原発事故が発生し、先行きが一段と不透明になったこの時期。女優、天海祐希さんが10~14年度の5年間、首位を独走し、黄金期を築く。主演したテレビドラマ「離婚弁護士」「トップキャスター」「Around40~注文の多いオンナたち~」「BOSS」では、いずれも部下から頼りにされる女性キャリアを演じ切った。女性の社会進出の高まりを背景に、男社会で苦闘しながらも組織人として着実に地位を固める姿に支持が集まったようだ。同じく頼れる姉御肌のイメージの女優の真矢みきさんも09年度に首位に輝いた。

このように「理想の上司」は男性も女性もそれぞれの時代に合わせて大きく変貌してきた。果たして今後はどんな上司像が誕生するのだろうか。

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