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跡取り娘が家業救う 広い視野と経験、経営に生きる

 家業に新天地を見いだした「跡取り娘」の活躍が目立つ。娘として生まれ、跡取りを意識せずにキャリアを築く中で培った広い視野と経験が経営に生きる。しなやかさと実行力を兼ね備えた跡取り娘が家業を救い、変えていく。
山の壽酒造の8代目、次期社長の山口郁代さん(福岡県久留米市)

2013年9月に福岡市で開かれた福岡県酒類鑑評会。江戸時代後期、1818年創業の老舗、山の壽酒造(福岡県久留米市)の日本酒が4部門で最高賞の知事賞を受賞した。経営を担うのは8代目、次期社長の山口郁代さん。34歳という若さだ。

前職はウエディングプランナー。20代前半のころ、ある慰労会で、同僚の多くが日本酒に良いイメージを抱いていないことを知り、蔵元に生まれた自分が「この意識を変える立場にあるかもしれない」と考えた。ただ社会人歴はまだ1年半。「31歳までに式場の支配人になって辞めよう」と決めた。

ところが仕事を始めて約3年、家業の蔵元は販売量が減って倒産寸前に。2歳下の弟は、酒造りに情熱がわかず、別の道に進んだ。06年、やむなく「実家に転職した」。

前職の経験が酒造会社の経営に生きる。プランナーは半年間で約30組の挙式を準備する。予算内で企画し、社内の各部門と顧客の要望を調整する。それが「社員の意見を聞き、経営に落とし込む助けになった」。

自分には酒造りの感性はないと判断、外部から杜氏(とうじ)を招き、蔵の中は任せた。一方で経営に関しては数字を示し、「これ以上はコスト面で難しい」などと伝える。大手監査法人に勤める会計士の夫が、全面的に協力してくれる。

女性らしい細やかさもある。山口さん自身、昨年秋に2人目を出産したばかり。社員の子どもが病気だったり、運動会が開かれたりする場合には「休みやすい社風になるように心がけている」。毎年春秋、地元に酒をふるまう「蔵開き」では、山口さんが始めた洋風の前菜と日本酒の組み合わせが好評だ。来場者数はかつての倍の800人近くまで増えている。

東京・銀座の呉服店「銀座いせよし」の女将、千谷美恵さん

東京・銀座の呉服店「銀座いせよし」の女将、千谷(ちたに)美恵さん(48)は着物とかけ離れた生活を送ってきた。米大学に留学、米シティバンクに就職し、1996年に31歳で銀座支店長に抜てきされた。

仕事は充実していた。人を見る目やものおじしない強さも身につけた。ただ、金融機関は体力や反射神経の良さも必要だ。「一生、現役でいられる仕事はないか」と頭に浮かんだのが、実家が銀座で営む明治元(1868)年創業の呉服店「伊勢由」だった。

姉2人は嫁ぎ、後継ぎがいないと両親はのれんをたたむことも考えていた。「銀行はほかの人でもできるが、呉服店は自分にしかできない」。家業を継ぐと決め、約半年間、着付けなどを学んで1999年に呉服業界に飛び込んだ。

伊勢由の男性客は伝統芸能などの関係者がほとんど。「客層が増えなければ業界は先細りに。着物が再び日常生活の一部になるまで力を尽くしたい」と09年、実家とは別に自らの店、銀座いせよしを開いた。

店内は明るく、色とりどりの小物や反物が、直接手に取れると好評だ。「茶道や華道、能などに幅広く触れてこそ、着物を楽しんでもらえる」との信念から、古典芸能の指導者を招き、講座も開いている。顧客は順調に増え、3月中旬には銀座8丁目により大きな店を出すことが決まった。

結婚はしているが子どもはいない。「きっと祖先が今の仕事に専念しなさいと仕向けたに違いない」と、ちゃめっ気たっぷりに話す。

日本電鍍工業社長の伊藤麻美さん(さいたま市北区)

「愛する父が築いた会社が滅びるのを黙って見ていたくなかった」。さいたま市で楽器や医療器具などのメッキを手がける日本電鍍(でんと)工業社長、伊藤麻美さん(46)は、会社を継いだ理由を語る。

同社を起業した父親は伊藤さんが23歳の時に他界。ただ、経営は生前から他人に任せ、資産もあった。時代はバブルの真っ盛り。伊藤さんは大学を卒業後、ディスクジョッキー(DJ)として活躍、宝石の鑑定を学ぶために渡米した。

「資金繰りが悪化している」との知らせが入ったのは1999年。急いで帰国したが、経営は分からない。「知人に社長になってほしいと頼んで回った」が、売上高の3倍近い借入金がある会社を引き受ける人はなく、自ら腹をくくった。

まず不採算部門からの撤退を決意。取引を大口顧客依存から多品種少量生産にシフトした。定年を過ぎた技術力のある社員の継続雇用に力を入れ、手作業を中心とした高付加価値路線を進めた。分からないことは社員を連れて外部の専門家に話を聞きに行った。3年後に経営は黒字に転じた。

毎朝、社員全員にあいさつをして回る。若くして親を失い、「社員は家族同然。社員こそが会社を支えている」と話す。口癖は「ものごとは数字だけでは判断できない」。経営が数字だけなら、倒産していたかもしれない。「大切なのは、皆が会社を信じる心」

跡取り娘たちが、家業を新しく紡いでいく。

(小山隆史)

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