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危機に学ぶ分散投資 幅広く長く買い続ける

 金融不安を背景に世界経済の先行きが不透明になっている。そんなときに個人は投資とどう向き合えばいいのだろうか。過去の様々な危機から、学ぶべき法則を探った。

土地ブームと株式の大強気相場、家電や車が飛ぶように売れ、ミニスカートが流行――。F・L・アレンの「オンリー・イエスタデイ」(1931年刊)には、29年に始まった米大恐慌の前の繁栄の時代が活写されている。それはリーマン・ショック前の米国や90年の日本のバブル崩壊前の記憶とも重なる。

米大恐慌も日本株バブルもピークまでの4年弱で株価は約2.5倍に急騰、暴落後は長い低迷が始まった。繰り返されるブームとその崩壊を、アレンは「ほんの昨日のこと」という意味のタイトルに表した。

第3の選択肢

市場が再び大きく揺れている今、個人はどう動けばいいのか、グラフAとBで考えてみる。

まず読みとりたい法則は「単独の資産への集中投資は、長く報われない危険性と背中合わせ」ということだ。米大恐慌後の米国株やバブル崩壊後の日本株の「失われた20年」のように。米国株はこのほか「株式の死」と呼ばれた70年代にも、長い低迷を経験している。

つまり一般に勧められる単純な「長期投資」だけでは危ない。世界的に著名な米投資コンサルタント、チャールズ・エリス氏は「多くの資産への分散と買う時期の分散が大切」と個人投資家にアドバイスする。

グラフAでもBでも、国内外の株や債券に分散して投資した場合、危機時の資産全体の値動きは株式だけの場合よりなだらかだ。

次に時期の分散。危機時は「不安だから手を引く」、逆に「下落局面こそ好機なので一挙に買う」と二者択一で迷いがちだ。「第3の選択肢」は、時期を分散して買い続ける「ドルコスト平均法」だ。

3年でプラスに

この投資法は一括投資に比べていつも有利とは限らず、値動き次第。しかし長期投資の場合、危機時の下落局面で買い続けることで平均コストが下がり、その後価格が上向いたときに成績を押し上げやすかった。

グラフAの棒グラフは、米大恐慌の際に株と債券に半分ずつ分散し、毎月買い続けた場合の損益。あの米大恐慌でさえ、約3年半で損益はプラスに転じた。

同様にグラフBの棒グラフは、90年以降に日本株、日本債券、外国株、外国債券の4資産に分散して毎月ドルコスト平均法で投資を続けた成績。バブル崩壊後、約5年半で損益はプラスに定着、2000年からのIT(情報技術)バブル崩壊や08年以降の金融恐慌と大きな危機を経た現在でさえ、プラスを維持する。

「過去の様々な危機では、投資対象と買う時期の分散で、比較的早期に損益が回復したことが多かった」(投資助言会社のイボットソン・アソシエイツ・ジャパン最高投資責任者の小松原宰明氏)

国内外の株や債券に分散、というと難しそう。だが1本で幅広く投資でき、自動的に毎月積み立てられる低コストの投資信託が、インターネット証券や独立系投信会社などで続々と売られ始めている。低コストで分散投資できる環境はここ数年で急速に整った。

もちろん4資産均等である必要はなく、若くてリスクを取れる人は、変動が大きいが長期的に上昇が見込める株式を多めにするなど状況しだいだ。不動産投信やコモディティー(商品)などを一部入れ、分散効果を高める選択もある。

現状では各国とも経済の立て直しを優先させて極端な低金利の状況にあり、(金利と逆に動く)債券価格は高値にある。「債券への投資比率は通常の時期に比べて抑えたい」(ファイナンシャルプランナーの木戸一郎氏)との指摘も出ている。

後から振り返ると、対象や時期を分散した場合より有利な選択肢は必ず存在する。例えば日本のバブル崩壊後なら、グラフBでわかるように外国株だけに投資した方が利益は大きい。

老後は株減らす

しかし危機ごとに資産の値動きはまちまち。1日で米国株が2割強も下落した87年のブラックマンデー後は、外国株が他の資産に比べ最も長く低迷した。幅広く分散し、世界経済が長期的に成長する恩恵を受ける方がリスクは小さい。

要注意なのは、対象や時期を分散していても、危機ごとに一時的にはかなりの下落が生じること。長く投資を続けられるならむしろ下値で買える好機だが、定年後に大きな下落に見舞われると老後の計画が狂う。

「高年齢では株式の比率を下げるべきなのは、過去の危機からの重要な教訓」(国際的なアナリスト団体である日本CFA協会名誉会長の岡本和久氏)だ。

「オンリー・イエスタデイ」はこんな意味の言葉で終わる。「時の流れはしばしば同じ道筋を取るが、それはいつも新しい方向に進んでいく」。今回の危機の「新しい方向」はまだ見えない。それでも、リスクを抑えながら長期投資を続ける選択肢もあることを、過去の危機は教えている。(編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2011年10月19日付]

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