世界の翼になう日本の草分け 三菱重工・大江工場
工場再光 中部ものづくりの現場 2
作業員が行き交い、工作機械が出す摩擦音や警報音であふれる。ギーンという音を立てながらアルミ製の板を削る。別の一角では2人の作業員が数メートルもの板を工作機械にはめ込み、丸く反りを入れる。米ボーイング「B777」の胴体や翼の部品が作られていく。自動制御の工作機械による加工もあるが、人手に頼る作業も少なくない。

三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所(名航、名古屋市)。その中核拠点である大江工場は国内の航空産業の草分け的存在だ。1920年の完成以後、国内企業が初めて設計・製造した戦闘機「十式艦上戦闘機」のほか、旧海軍の「零式艦上戦闘機」を相次ぎ生産。45年の終戦までに製造した飛行機は約1万8000機にのぼる。
2000人の"頭脳"
第2次世界大戦の敗戦で日本は航空機の製造が禁止され、大江工場も航空機生産の停止を余儀なくされるが、52年に生産を再開。その後は国産プロペラ機「YS11」などの航空機やロケットを生産した。
最近では「B787」の主翼を生産しているほか、三菱航空機の小型ジェット機「MRJ」の部品生産を始めた。名航所長を務める吉田慎一執行役員は「今はMRJを円滑に立ち上げることで頭がいっぱい」と話す。
大江工場の特徴は約2000人の設計・生産技術者という"頭脳"を抱える点。ボーイングとは初期段階から約30年にわたりジャンボ機を共同開発した。技術陣が生産ラインのすぐ近くに控えることで「工程の改良など迅速な対応が可能だ」(吉田所長)。
航空機で主流となりつつある炭素繊維複合材の加工技術も強み。2006年に工場を拡張し、複合材主翼センターを建設した。炭素繊維を高温で焼き固め、長さ30メートルあるB787向けの主翼を専門に製造する。巨大なうえ曲線部分を持つ主翼の形に、繊維を積層する独自技術を持つ。複合材で主翼を作れる工場は世界でも大江工場のみだ。
熟練の技を伝える
高い技術力の背景には下請け企業との協力関係もある。約50社ある下請けは、機内の電線の留め金など小さいが不可欠な部品を中心に工場に納入している。航空機向けの品質水準を達成するため、加工技術や品質管理の指導など密接な連携に取り組んだ。
ジェット機関連の受注拡大が見込まれるなか、課題は生産性向上だ。大江工場では作業工程の効率化に取り組む。例えば「標準化」と呼ばれる業務改良。熟練工の作業の様子をビデオに記録し、非熟練の作業員にその動きを示しながらより短時間で作業が進む動きを習得させる。
航空機のドアや主翼を作るラインに3年前から導入した、毎分1センチメートルの速度でゆっくり動くベルトコンベヤーも効率化のカギだ。業務の段取りが見えやすいことや、流れに合わせて部品を準備することで作業時間の管理も徹底できたという。
小型ジェット機を巡る国際競争は激しさを増す。吉田所長は「労働集約的な部分のコスト管理で低コスト国に対抗する」と意気込む。
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