リニア開発が加速 非接触で電気供給、超電導で省エネ
東海旅客鉄道(JR東海)が2027年の開業を目指すリニア中央新幹線(東京―名古屋)をめぐり、営業運転に向けた技術開発が加速している。照明など車両内で使う電気を非接触で供給する「誘導集電」導入にメドをつけたほか、心臓部である「超電導磁石」の改良も進む。研究が始まってからほぼ半世紀がたち、開発は最終段階を迎えつつある。

山梨県内のリニア実験線で21日、台風15号による暴風雨のなか、営業目標速度の時速500キロでのラストランが行われた。試験は9月末で終了し、13年末をメドに延伸する実験線で再開する。
山梨実験センターはリニア実用化を目指して97年に走行試験を始め、世界最高速度(581キロ)の達成など基盤技術を築いた。同センターの遠藤泰和所長は「実用へ道筋をつける目的を果たせた」と評価した。
開発費6000億円
現在の18.4キロ(山梨県大月市―都留市)から、13年末をめどに42.8キロ(笛吹市―上野原市)に延ばす。建設費は約3550億円を予定する。超電導リニアの実用技術の開発などでJR東海が投じるのは累計で6千億円を超える。
その成果のひとつとして、このほど「誘導集電」と呼ぶ非接触で電気を送る技術を確立した。リニアは一般的な鉄道と異なり、地上から浮上して走行。パンタグラフもないため、従来は外部から車両に送電する手段がなく、照明や空調に使用する電気を発電するためにガスタービンを積むことを想定していた。
誘導集電は、車両の下と地上それぞれに電磁コイルを設置する。地上のコイルに電気を流し、その上を車両が通ることで磁界を変化させ、車両側のコイルにも電気を発生させる仕組みだ。この結果、ガスタービンを搭載しなくてすむようになった。

10センチ浮上
車両を走行させる技術も進化が期待される。
リニアが浮かび上がり高速で走れるのは、コイルに電気を流すことで生まれる強力な磁力を応用している。軌道となるガイドウエーの壁に推進コイルと浮上コイルを並べ、車両側の側面に「超電導磁石」を搭載。車両が通る瞬間、推進コイルに電気を流すことで車両が前方に進む。
1962年 | 東京―大阪を1時間で結ぶ目標を掲げて研究がスタート |
72年 | 磁気浮上による走行に初成功 |
77年 | 宮崎県に実験線を開設 |
79年 | 宮崎県の実験線で鉄道の世界最速(当時)の時速517キロで無人走行に成功 |
87年 | 有人走行により時速400.8キロを記録 |
96年 | 宮崎県の実験線での走行試験終了 |
97年 | 山梨県の実験線先行区間18.4キロでの試験スタート |
設計上の最高速度である時速550キロを記録 | |
98年 | 高速でのすれ違い、追い越しなどを想定した複数列車による制御試験を実施 |
99年 | 有人で世界最速の時速552キロを記録 |
2000年 | 運輸省(現国土交通省)の実用技術評価委員会が「実用化で技術上のメドが立った」と評価 |
02年 | コスト低減、空力特性、乗り心地などをつかむため新型試験車両を投入 |
03年 | 世界最速となる時速581キロを記録 |
1日の走行距離が2876キロ(東海道・山陽の1日平均1400キロの約2倍)を達成 | |
05年 | 国土交通省の超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会が、「実用化の基盤技術が確立した」と評価 |
09年 | 営業をにらんだ形状の改良試験車両による走行試験を開始 |
11年 9月末 | 山梨県の実験線での実験を中断 |
(以下は予定) | |
13年末 | 山梨県の実験線を42.8キロへ延伸、実験を再開 |
14年度 | 東京―名古屋の建設を開始 |
27年 | 同区間で営業運転始まる |
超電導は超低温のもとで電気抵抗がゼロになる現象で、強力な磁力を生み出す。リニアの場合、車両基地で電気をいったん供給すれば永遠に大電流が流れ続ける。磁力が弱い「常電導磁石」を利用した愛知県の東部丘陵線「リニモ」や中国・上海のリニアが1センチ程度しか浮上しないのに対し、超電導は10センチになる。磁気シールドやアルミ車体により、磁力の影響が車内に及ばないようにしている。
実験線で使用しているニオブ・チタン合金のコイルは、液体ヘリウムでマイナス269度に冷却して超電導状態をつくる。そのため超電導磁石は冷凍機もセットになっており、1車両あたりの重量は2.8トンに達する。
ただ現在は、より高い温度でも電気抵抗ゼロを維持できる技術や素材の開発が進んでおり、実用化すれば冷凍機が不要になる可能性がある。車両の軽量化に加え、電力消費を抑える効果も期待されるという。
2年後から最終検証
13年末の延伸後に再開する試験では、営業仕様「L0(エル・ゼロ)系」を使った12両編成の車両を投入する計画だ。「エネルギーの使い方や環境性能を最終検証する」(遠藤所長)予定で、研究開発はラストスパートに移る。今のところリニアの運行にかかる消費エネルギーは新幹線の約3倍と試算され、今後開発される新たな省エネ技術の効果なども注目される。
高い信頼性を誇る新幹線については、車両や軌道などの技術に加え、運行システムをはじめとするソフト面が支える。リニアについても「設備の導入や更新、保守の体系づくり、営業をにらんだマニュアル作りとともに、低コスト化を進める」(遠藤所長)。日本の技術力の集大成として鉄道関係者らが寄せる期待は大きい。
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