目標地域絞ったPR奏功 新幹線どう生かす 九州に学ぶ(上)

2012/3/2付
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九州新幹線が全線開通して12日で1年を迎える。九州域内にとどまらず、近畿圏までの時間的な"距離"を一気に縮め、想定を上回る経済効果をみせている。乗り換えなしの直通列車でつながる近畿圏を狙ったPR活動のほか、旅行者を飽きさせない観光列車の導入などが実った。2015年度に北海道新幹線の開業を控える北海道にとっても、九州の取り組みは大きな参考になる。

九州新幹線の全線開業で関西以西の観光客が増えた(JR博多駅)

「九州も意外と寒いんやなあ」。2月中旬、小雪が舞うJR博多駅の新幹線ホーム。新大阪発の直通列車「さくら」を降り立った旅行者の関西弁が響き渡った。九州新幹線は昨年3月に博多―新八代が開通。これにより新大阪―鹿児島中央が3時間45分、博多―鹿児島中央が1時間19分でつながる。それぞれの所要時間は開通前に比べ、1時間程度短縮された。

観光消費11%増

日本政策投資銀行九州支店によると、昨年4~9月に関西以西から福岡県を訪れた宿泊客数は21万人で、前年同期に比べて6万人増えた。九州新幹線の発着点となる鹿児島県も関西以西の宿泊客数が14万人と1.8倍になっている。

開業前日に起きた東日本大震災以降、修学旅行などの観光客が西日本に流れた影響もあり、新幹線が九州観光の活性化につながった。

九州経済調査協会が推計した11年度の九州の観光消費額は、想定を上回る2兆4900億円。新幹線効果が寄与し、前年度を11%上回る大幅増となった。西日本旅客鉄道(JR西日本)は1月、12年3月期に山陽・九州新幹線直通列車の増収効果として165億円を見込み、予想営業利益を115億円上方修正した。

九州全域でも11年7~9月の宿泊客数は前年同期比で4%増えた。成功の裏には開業の数年前から入念に進めてきたマーケティング戦略がある。あえて首都圏を狙わず、新幹線による時間短縮の効果が大きい近畿圏にターゲットを絞った。各県が競い合いながら独自のキャンペーンを打ち出し、近畿圏での認知度向上に努めてきた。

官民で戦略会議

熊本県は06年に官民連携の「KANSAI戦略会議」を設置。当時13%にとどまっていた関西以西の認知度向上に乗り出した。昨年のゆるキャラ日本一にも輝いた「くまモン」が吉本新喜劇に出演するなどして、熊本県の魅力を宣伝し続けた。昨年10月までの1年間にPR活動は367回。ほぼ毎日、近畿圏でPRした計算で認知度も21%まで高めた。

ドアが開くと、浦島太郎の玉手箱のようにもくもくと白い霧が――。九州旅客鉄道(JR九州)は全線開通後、モノトーンの配色が目を引く「たまて箱」(鹿児島中央―指宿)などの観光列車を相次ぎ導入。新幹線で訪れた観光客がそのまま鉄道で九州の観光地を巡る仕掛けを施した。たまて箱が乗り入れる指宿温泉の宿泊客数(11年4~12月)は前年比で44%増えた。九州経済調査協会は「新幹線と観光列車を組み合わせた観光スタイルが旅行者の支持を集めている」と分析する。

ただ懸念もある。今年に入ってからも観光客が前年実績を上回り続けているが、立教大学観光学部の清水慎一特任教授は「新幹線ブームは開業1年で消える」と指摘する。今年は東京スカイツリーが営業開始し、14年度には北陸新幹線も開業。うつろいやすい消費者の関心が九州にとどまる保証はない。

清水特任教授は「新幹線をきっかけに九州の魅力を知った観光客をリピーターに育てることが重要だ」と強調。JR九州は17日、直通列車「さくら」と「みずほ」を1日15往復から23往復に拡充し、利便性を高める。鹿児島県と地元市町村も新年度の新幹線関連事業の予算を開業前と同規模の約5000万円確保し、引き続きPR活動に力を入れていく。

2015年度に北海道新幹線の新函館(仮称)開業を控えるものの、道内全体で新幹線を生かした観光PRに取り組む機運が盛り上がらない。渡島総合振興局が青函観光を首都圏に売り込む事業などにとどまり「本格的な事業展開はこれから検討に入る段階」(道観光局)だ。全線開業の5年前にはPR活動に乗り出した熊本県と比べても道の動きは鈍い。

道内の対策急務
2035年度末には札幌に延伸する予定。国土交通省は札幌開業の投資効果を基準の1.0を上回る1.1と試算するが、道内は人口減少が急速に進んでおり効果を出せるか不透明だ。
 ここは経済界の知恵の見せどころだろう。一例として札幌と新千歳空港駅を結ぶ在来線について、新幹線へ乗り入れ可能なフリーゲージトレイン(軌間可変電車)を導入する案がある。新幹線を利用しやすくする工夫が問われている。

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