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新潟県民はカレー味が好き どら焼き・焼きそばも

ルー購入額日本一

新潟市はカレールーの購入額が全国一なのをご存じだろうか。米と魚と日本酒はもちろん、野菜や果物も豊富な農業王国であり日本有数のA級グルメの地、新潟。ところが、県民はB級グルメの代表であるカレーが大好きなのだ。A級とB級が混在する新潟の食文化、不思議な奥の深さはなぜ生まれたのか。

カレー専門店やインド料理店は少ない

「せきとり」の鶏の半身あげ。カレー味の火付け役だ

「カレー購入額日本一」の新潟だが、市内にはカレー専門店が少ない。例えば、東京では繁華街に必ずあるチェーン店「カレーハウスCoCo壱番屋」が新潟市中央区には駅前に1店舗あるだけ。「ゴーゴーカレー」も季節限定のスキー場を除けばごく最近、やっと県内1号店が進出したばかり。インド料理の店もほとんど見かけない。

ところが、居酒屋に入ると多くの店のメニューにあるのが鶏のからあげのカレー味。正確には「半身あげ」という大型のからあげだが、必ずカレー味がある。「カレー好き」なのではなく、「カレー味好き」なのだ。家庭でもこの味を簡単に楽しめるように、米粉入りのカレー味のからあげ粉が4月以降、相次いで発売された。

このカレー味の鶏の半身あげの元祖が新潟市中央区の住宅街の中にある「せきとり」。新潟で「しょっぺ店」と呼ばれるうまくて安い居酒屋の代表格だが、実態は鶏料理専門店といっていい。時価で800円前後のカレー味の半身のからあげのほかに、半身の蒸し鶏、やきとり、冷ややっこ、おにぎりなどメニューはごくわずか。しかし、持ち帰りもできるため、ひっきりなしにからあげ目当ての客が出入りする。

半身にしたひな鶏をぶつ切りにせず、カレーパウダーを振りかけてそのまま揚げる。かぶりつくと、カレー味は意外に弱く「ほんのり」という程度。鶏肉の味をしっかり楽しめる。お盆やクリスマス、正月など帰省の時期には「必ず寄る」という常連客も多く、まさに郷土の味として親しまれている。

「50年以上前からこの味です。近くに新潟鉄工所の工場があって、出稼ぎの人が多く来ていたようです」。店長の飯塚浩さん(34)はそう話す。せきとりのある場所は、信濃川の河口両岸に開かれた新潟港に近い。江戸時代には北前船が行き交い、明治以降も日本海側の重要港として物流の拠点となり、現在も造船所や食品加工工場がある。労働者向けのボリュームのある食事というのが人気の背景にあるようだ。「口コミで広がり、他の店もまねするようになりました」。現在、市内にはカレー味の半身からあげを出す店が約50店もある。

「ことぶき屋」のカレー担々麺。カレーとゴマの風味がともに楽しめる

人気は他県にも広がり、ローソンは2012年9月にせきとりの味を再現した「からあげクン 新潟カレー味」を200万食限定で、全国9600店で販売した。

担々麺にカレーをかけたら…

総務省の県庁所在地別家計調査(2010~12年の平均)によると、新潟市は2人以上世帯のカレールーの購入金額が年間1767円と全国1位。全国平均(1514円)より約17%多い。「県民性」と言っていいほどカレー味が浸透している。新潟のカレー味好きを知って、意識して街中を探してみると、おもしろい「カレーもの」をいろいろ見つけた。

カレーうどんが人気の「讃岐っ子」(新潟市・古町)

メニューを見て思わず笑ったのが「カレー担々麺」だ。繁華街・古町にある中華料理店「ことぶき屋」は、新潟で初めてギョーザと担々麺を出した店として知られる。白ごま、黒ごま、野菜担々麺に加え、数量限定でカレー担々麺(960円)を出している。辛い担々麺に辛いカレーのトッピング。普通は思いつかない。いや、思いついてもやめるだろう。店長の岡村雅史さん(37)は「担々麺のバリエーションを増やそうと思ってカレー味を加えてみたんです。カレーは味が強いので試行錯誤を重ね、担々麺のゴマの風味を殺さない程度にバランスを考えました。『カレーを加えることはないだろう』という人とリピーターになるお客さんに分かれますね」と笑う。

「ことぶき屋」と同じ通り沿いにあるうどん店「讃岐っ子」は、香川の讃岐うどんに加え徳島の郷土料理であるたらいうどん、そして、つなぎに海藻を使った新潟の名物へぎそばもある欲張りな店で、飲んだ後のしめの一杯を食べる客で深夜までにぎわう。ところが、多くの客が注文するのが「カレーうどん」か「辛口カレーうどん」。釣られて注文してみたが、酒の後には確かに悪くない。

「カレーどら焼き」を発見

「美松」のカレーどら焼きサンド。甘さと辛さが絶妙ではある

長岡市の駅前通りを歩いていると、うれしいものを見つけた。喫茶店「美松」の店外のメニューに「どら焼きサンド」とある。「クリームチーズ」「タルタルチキン」に加え「カレー」がある。当然、「カレーどら焼きサンド」(単品189円)を頼んだ。店員はなぜか「カレーバーガーです」と言って、その初めて見る食べ物をテーブルに置いた。バンズにあたる部分はごく普通の甘いどら焼きの皮。あんこにあたる部分に固めのカレーとレタス、トマトが挟んである。まあバーガーっぽい感じはする。見た目通りの味で、甘さと辛さの組み合わせは悪くない。店員は「カレー味なら間違いない、と思って去年からメニューに加えました」という。

その「美松」のすぐ近くには長岡市役所が入る複合施設アオーレ長岡がある。その広場に出ていた屋台のサンドイッチ店を見て、またうれしくなった。メニューに「カレーサンド」があったのだ。初めて見た。カレーパンではない。カレーサンドだ。レタスやハムがあるべきところにカレーが挟まっている。「これ売れますか」。そう店員に聞くと「うーん、あまり出ないですね。やっぱり食べにくいみたいですね。服にこぼすと大変ですから」という。これは見るだけにしておいた。この店員もメニューに加えた理由を「カレー味は間違いないと思って」と言っていた。

亀田製菓のカレーせん(左)と岩塚製菓のえびカリ
弥彦名物のカレー豆。ビールに合う甘辛い味

弥彦神社で有名な弥彦村には名産のそら豆を揚げてカレー味に仕上げた「カレー豆」がある。甘辛い味は子供のおやつとしても人気だが、この時期はビールにもよく合う。亀田製菓(新潟市)の定番には「カレーせん」があり、この7月には夏季限定で「スパイシーカレー味」の柿の種を投入する。栗山米菓(新潟市)も代表商品「ばかうけ」の「シーフードカレー味」を夏季限定で発売。岩塚製菓(長岡市)にも、海老風味のカレーせんべい「えびカリ」がある。

「みかづき」のカレーイタリアン。ファストフード感覚で愛されている
特製のカレー焼きそばを作ってくれた「PULP FICTION」の竹内香純さん(メニューにはない)

新潟を代表するB級グルメとして有名なのが「イタリアン」。説明が難しいが、ざっくり言うと太麺の焼きそばにミートソースをかけ、白しょうがを添えたファストフードだ。その歴史は50年以上と、古くから庶民の味として親しまれている。新潟市の「みかづき」と長岡市の「フレンド」という専門店があり、どちらがうまいかよく論争になる。この「イタリアン」のメニューにも、当たり前のように「カレーイタリアン」がある。要は焼きそばにカレーをかけたもの。味は予想通りだ。

カレーラーメンに歴史あり

さらに、家庭でもやきそばをカレー味にする食べ方は普通だと言う。新潟市のイタリアンバー「PULP FICTION」の店員、竹内香純さん(23)は「バーベキューで最後に焼きそばを作るときも、家からカレー粉を持参してカレー味に仕上げますね。あれっ、やらないですか?」。新潟県民はカレー味好きをあまり自覚していないようだ。

「正広」の冷やしカレーラーメン。カレーペーストで味に変化を付けられる

そして、新潟のカレー味好きを象徴するのが三条のカレーラーメン。カレーとラーメンの組み合わせ。まさに究極のB級だが、昨今のB級グルメブームで登場したわけではない。70年以上の歴史があり、三条市のホームページでは「特産品」として「三条カレーラーメン」を紹介している。三条のソウルフードとして全国に広めようと2010年には市民グループが「三条カレーラーメンの歌」をつくりCD化、その歌にあわせた「カレーラーメン体操」のDVDも登場した。ユーチューブでも見られる。ちなみにどこがどうカレーラーメン体操なのかはよくわからない。

三条市内でカレーラーメンをメニューとして提供している店は70店舗を超える。スープ全体がカレーになっているものと、ラーメンにカレーを乗せたものがあり、夏場は冷やしカレーラーメンも登場する。

カレーラーメンの代表店「正広」で、その冷やしカレーラーメン(850円)を食べてみた。チャーシューとメンマ、コーン、煮卵、ホウレンソウ、それに福神漬けが放射状にちりばめられ、見た目は冷やし中華の趣だ。しかし、つゆの味はカレーそのもの。「冷たいカレー」の違和感もなく、食欲が落ちる夏場でも完食できそうな食べやすさがある。

ものづくりの町はカレー好き?

カレーラーメンの老舗店「正広」(三条市)

さて、そもそもなぜ、新潟県民はカレー味好きなのか。まずは県庁に聞いてみた。農林水産部食品・流通課の販売戦略班によると、(1)カレーと相性のいい米がおいしい。例えばカレーに合うように開発した品種の「華麗舞」は妙高市が発祥の地(2)野菜、海産物が豊富で野菜カレー、シーフードカレーが格段においしい(3)新潟港は幕末の開港5港の一つで、他国の食文化を受け入れやすい風土がある(4)金属製スプーンやカレーポットの日本一の生産地である燕市があり、カレー文化が定着しやすい素地がある――などの理由が考えられるという。「なるほど」とは思うが、これだけではなさそうだ。

この手の話を聞くうってつけの人が新潟大学にいた。「B級グルメが地方を救う」(集英社)の著者、田村秀・新潟大法学部長。自治省の役人から教授に転身した地方自治の専門家で各地の食文化にも詳しい。北海道出身の田村教授は「室蘭や苫小牧などカレーラーメンが根付いている土地は製紙工場や製鉄工場があり、三条と同様に製造業の町。スタミナ料理が好まれる土地柄です。寒い地域は、暖まる食べ物、辛いもの好きという共通性もありますね」と分析する。

三条の「正広」の阿部圭作社長(46)も「鍛冶屋の町である三条は昔から『出前文化』があります。仕事の手を休めず短時間で栄養が付くように、高カロリーで場所を選ばずに食べられる職人用の食事としてカレーラーメンが生き残ったようです」と話す。さらに「高度経済成長を支えた70代、80代の年配の方々は『忙しかった昔を思い出すよ』と言ってこのカレーラーメンを食べますね」と言う。

「B級グルメはあくまで脇役。ただ、米や魚という4番バッターだけでなく、カレー味のB級グルメが豊富なことは、新潟の食文化の多様性を全国の消費者に発信する上ではプラスが大きい」と田村教授は指摘する。多彩な食が息づくものづくりの町新潟で、地元の産業と深く結びついたカレー味の商品が進化し続けていることは、製造業を軸に成長してきた日本の食文化の象徴かもしれない。

(新潟支局長 大久保潤)

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