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塩こうじ、ブームに水差す官製市場 加工米品薄に

伝統の調味料、塩こうじが全国的にブームとなっている。原料がみそや日本酒などと重なるため、みそや日本酒のメーカーなどはこれを機に「こうじ市場」を開拓、経営の新たな柱に育てようとする動きが相次いでいる。ただ、原料となる加工用米は品薄で、確保に苦慮するところも多い。ブームの裏側には、官製コメ市場のゆがみが透けて見えてくる。

塩こうじだけで11種類

3月上旬、地下鉄の麻布十番駅(東京・港)から歩いて5分ほどの場所に、アンテナショップ「千年こうじや」が開業した。出したのは日本酒「八海山」で知られる新潟県の八海醸造(新潟県南魚沼市、南雲二郎社長)。しかし、主力商品は日本酒ではない。「コメ・こうじ・発酵」「魚沼」をテーマに、日本酒以外の様々な商品が並ぶ。その主力商品が11種類もあるという「塩こうじ」だ。しょうが入り、にんにく入りなど多様で、アンテナ店開業に合わせて1年も前から開発に力を入れてきた。「最も売れているのはシンプルなプレーンタイプの塩こうじ」と店の責任者は話す。

塩こうじ(塩麹、塩糀)とは、米こうじに塩や水を混ぜ、発酵・熟成させた伝統的な調味料だ。昔から野菜や魚の漬物床として使われてきた。肉や魚を漬けると、食品中のでんぷんやたんぱく質がブドウ糖やアミノ酸へと分解され、うまみが増す。塩やしょうゆの代わりに野菜や魚などへの味付けにそのまま使うこともある。

ブームはテレビの情報番組や雑誌などが取り上げたことで、昨年後半から始まった。和洋食問わずに使え、調味料の代わりにもなるという用途の幅広さに注目が集まった。今年2月ごろから使っているという長野県松本市在住の主婦(34)は「これだけで味が決まるので使い勝手がいい。チャーハンに入れたり肉を軟らかくして焼いたりしている」と話す。

最近の主な塩こうじ関連商品
企業名(本社所在地)商品名特徴・価格
八海醸造(新潟県南魚沼市)「塩こうじ」「八海山」の酒蔵こうじを使用。雑味がないという。140グラム入り、参考価格は630円
山梨銘醸(山梨県北杜市)「造り酒屋のかける塩麹」「七賢」の酒米を使用している。180ミリリットル入り、400円
マルコメ(長野市)「プラス糀 生塩糀」「糀ジャム」などこうじをテーマにしたシリーズの第7弾。200グラム入り、参考価格は248円。5月下旬発売
ハナマルキ(長野県伊那市)「塩こうじ」酵素の力が競合品に比べ約2倍強いという。180グラム入り、想定価格は298円
六甲味噌製造所(兵庫県芦屋市)「塩糀」こうじを手作業で作っている。140グラム入り、588円
特定非営利活動法人赤穂盛り上げ隊(兵庫県赤穂市)「赤穂手作り塩麹 播州天麹(ばんしゅうあまこうじ)」にがり入りの赤穂塩を合わせている。250グラム入り、630円

まだ続く新商品ラッシュ

米こうじを買って家庭で作るのが普通だが、みそメーカーや日本酒メーカーなどではあらかじめ混ぜた新商品を出す動きが相次ぐ。米こうじはみそや日本酒の原料でもあり、参入しやすいからだ。

2月ごろをピークにブームはやや沈静化してきたとの声もあるが、メーカーの新商品ラッシュはまだ続く。みそ製造最大手のマルコメ(長野市、青木時男社長)は5月下旬に初めての塩こうじ「生塩糀」を投入する。同社はこうじ関連商品をみそに次ぐ柱に据えようと、こうじ関連の商品開発やマーケティングを担当する「プラス糀研究室」を2010年に設置、11年秋から本格始動させている。これまでも「糀ジャム」などを製品化しており、今回のブームをこうじ市場拡大の好機ととらえて、今後も矢継ぎ早に商品を投入していく考えだ。

みそ製造2位のハナマルキ(長野県伊那市、花岡俊夫社長)も4月16日に「塩こうじ」の出荷を始めた。「競合製品よりも酵素の働きが約2倍高い」とうたっており、初年度3億円の売上高を目指す。

ただブームの割には各メーカーの顔色はさほどさえない。実はこのブームには思わぬ伏兵が行く手を阻んでいる。原料となる加工用米の品薄だ。

みそメーカーが集中する長野県の全農長野によると、加工用米の出荷価格はコシヒカリの玄米60キロで9000~1万円に対し、主食用米長野県産コシヒカリで1万5000円程度もする。県内のメーカーからは「(加工用米が入手できない)不足分は仕方なく主食用を使っている。原価がまったく違うので、あまり利益は出ない」とこぼす声も漏れてくる。

原料の加工用米、生産は27%減

農林水産省によると、加工用米の生産は11年に15万4900トンと前年比で27%も減った。直接の要因は、東日本大震災の被災地の生産枠を国の調整で他の地域に振り向けたことだ。もともと加工用米と主食用米は品質はほとんど同じだが、主食用の価格を維持するため、生産調整(減反)で主食用の生産枠を決め、残りをそれ以外に充てている。被災地の生産枠を他県に追加配分したため、加工用米になるはずだったコメが主食用米に化け、それがそのまま加工用米の減少につながった。

もう一つの減少要因は国が戸別所得補償制度で、10アール当たり8万円という高額の補助金を出して米粉用や飼料用といった新規需要米の生産を促していることだ。加工用米に対する補助金は10アール当たり2万円にとどまるため、加工用米の作付け意欲減退に拍車がかかった。

国産の米粉を輸入頼みの小麦粉に代わる存在に育てて食料自給率を高めようとの狙いだが、実際には米粉用米は「あまり売れ行きが良くない」(松本市のコメ卸)ため、在庫はだぶつき、価格は大幅に下落している。全農長野によると、かつては1キロ当たり70円だったが、今は15~40円くらいだという。だからといって手厚い補助金を受けている米粉用米を今さら加工用米に転用するわけにはいかない。国の政策が業者の首を絞めている。

関西のあるみそメーカーからは「今年度のほうがもっと大変になるだろう」との声も漏れる。全農は農家の加工用米の作付け意欲を引き上げるために、加工用米の出荷価格を引き上げる。農家への支払いも増やし、作付け意欲を上げる狙いだが、どの程度効果があるかは未知数。メーカーなどは加工用米を6月ごろまでに予約しておく必要があり、昨秋に塩こうじを出したみそなどを製造する糀屋本藤醸造舗(長野県須坂市)の本藤浩史社長は「今年は価格が昨年よりも1割程度高くなりそう。今後の仕入れが心配」と話す。

農水省出身で、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏は「自由市場は本来、一物一価のはず。コメがいまだに政府の統制下に置かれているからこういうことが起きる」と指摘している。

(松本支局長 長沼俊洋)

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