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愛媛の新種ミカン「紅まどんな」 食感はまるでゼリー

「かんきつ王国」が売り込み

こたつでミカンが恋しい季節。かんきつ類の生産日本一の愛媛県では、正月を前に温州ミカンの出荷がピークを迎えている。そんな中、今年のかんきつ市場で旋風を巻き起こしている新種のミカンが「紅(べに)まどんな」。これまでのかんきつにはない不思議な食感が、従来のミカンに飽きた消費者の舌に新鮮に感じられ、人気を集めている。

「昨年までは果実売り場で数あるミカンのひとつとして品ぞろえに加えた程度でしたが、今年は指名買いも増え、すっかり主役のひとつになっています」。横浜高島屋(横浜市)の担当者は、果実売り場での紅まどんな人気に驚きを隠さない。

百貨店で年末のかんきつの主役になった「紅まどんな」(12月14日、松山市のいよてつ高島屋)

きっかけは、11月26日に紅まどんなの主産地、松山市が同店で実施したキャンペーンだった。野志克仁市長がトップセールスでPR、来店客約1000人に試食してもらったところ、「ゼリーのような食感ね」「こんなミカン食べたことない」と好評だった。試食した客がリピーターとなり、歳暮用や自家用に購入するようになったという。

日本橋三越本店(東京・中央)でも「紅まどんなの販売は昨年の5割増。味の良さが評判になり、この時期のかんきつではもっともよく売れている」。1玉500円前後と値が張るが、歳暮用にも12個入りで5000~6000円のギフト商品がよく出る。

テレビの情報番組で「ミカンの新顔」として今年、たびたび取り上げられたこともあって、愛媛県の産地にも直接、多くの注文が舞い込み、「12月初めは県外からの注文の電話が途切れなかった」(JAえひめ中央)ほどだ。生産量が少ないため品薄状態が続き、産地でも幻のかんきつになりつつある。

紅まどんなは2005年に愛媛県立果樹試験場(松山市、現・県果樹研究センター)が、「南香」と「天草」というかんきつを掛け合わせて生み出した「愛媛果試第28号」という新品種の愛称。栽培は県内だけだ。ご当地ブランド化を目指し、松山を舞台にした小説「坊っちゃん」のヒロインの名をつけた。

特徴は紅色の果皮とゼリーのような果肉=JAえひめ中央提供

貴婦人のように紅色を帯びた果皮は、薄くなめらか。手では向きにくいのでオレンジのようにカットすると、軟らかい果肉がさわやかな香りとともに顔を出す。果肉は酸味が少ない分、甘みが際立ち、果汁も多い。最大の特徴がゼリーのようなプルプルとした食感で、「他のかんきつにはないセールスポイント」(JAえひめ中央)だ。

本格的な栽培が始まったのはここ数年だが、年々知名度が上がったことで栽培面積も増えた。県内生産の7割を占めるJAえひめ中央では11年産の生産量を前年の6割増の440トンと予想する。それでも県内で年間10万トン超出荷される主力の温州ミカンと比べると微々たるものだが、同JAでは高値で出荷できる推奨品種としており、15年には1259トンまで増やす計画だ。

温州ミカンの出荷が11月から翌年3月ごろまで続くのに対し、紅まどんなは11月下旬から12月下旬までと短い。今年は12月21日が最後の出荷。「この時期がお歳暮シーズンにぴったり合うのです」とJAえひめ中央果実販売課補佐の久保井誠さんは語る。

ビニールハウスで大事に栽培される=JAえひめ中央提供

いくら新種のおいしいミカンとはいえ、大玉では1個800円近くする高価格では、普段使いではそう売れない。JAえひめが当初から狙ったのは歳暮期のギフト需要。愛媛県や松山市などと行った首都圏でのPRも、大手百貨店や高級果実店などに絞った。物珍しさも手伝って、ギフトカタログに掲載する百貨店も増えてきた。

栽培には手がかかる。皮が薄いため雨に打たれると傷みやすく、害虫にも弱い。貴婦人を育てるにはハウス栽培が必須だ。松山市に隣接する砥部町のかんきつ農家の石田慎一さんは今年、温室ミカン用ハウスの一部、10アールで紅まどんなを初めて栽培した。「味を左右する水加減にとても気を使った」という。4.5トンを収穫。出荷価格は温室ミカンのキロ700円に比べ、同900円弱になったから、これからはもっと力を入れるつもりだ。

愛媛県も紅まどんなの生産拡大や売り込みに積極的だ。誕生の翌年には早くも県の推奨産品である「『愛』あるブランド」に認定した。県ブランド戦略課では首都圏のテレビ局や情報誌へのアピールや有名スイーツ店での採用を働きかけている。

背景にあるのは、主力かんきつである温州ミカンやイヨカンの不振である。愛媛県では1975年に56万トンあった温州ミカンの出荷量が10年には10万5000トンと5分の1に減少。愛媛特産のイヨカンも92年の16万トンが11年には5万トン程度まで落ちこんだ。

理由は消費者の嗜好(しこう)の多様化や若者の果実離れ、生産者の高齢化や価格低迷に伴う栽培面積の減少など様々だ。愛媛県は長年、温州ミカンの栽培では日本一を誇っていたが、2004年に出荷量で和歌山県に抜かれた。市況の低迷でコストが合わずに栽培をやめたミカン農家が多かったことも確かだが、この時期から県の主導で、市場で高値で売れるかんきつの高付加価値品種に転換した結果でもある。その代表選手が紅まどんなだ。

「かんきつ王国」と自称する愛媛県は紅まどんな以外でも、様々なかんきつが月替わりで登場する。12月から1月には紅まどんなとならぶ期待の星、「はれひめ」がある。外観は温州ミカンに似ているが、味はさわやかなオレンジ風という変わり種。店頭では1個100~150円と比較的手ごろ。紅まどんなや温州ミカンより日持ちするのも特徴だ。

さらに、1月には「デコポン」、2月は「せとか」や「はるみ」、3月は「清見」、4月には「カラ(カラマンダリン)」「河内晩柑」といった有望品種が市場に出回る。6月からは温室ミカンも出るので、ほぼ年中かんきつを出荷している形だ。

県では「かんきつカレンダー」を作成し、PRに努める。それぞれ特徴があり、様々な味覚を味わえる。自分の好みの愛媛かんきつを見つけるのも楽しいかもしれない。

(松山支局長 若林宏)

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