2019年5月22日(水)

「産まなければよかった」と母親は言った(震災取材ブログ)
@福島・白河

2011/12/28付
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福島第1原発から約70キロメートル離れ、栃木県の県境にある福島県白河市。今も放射線量は高いところで毎時0.60マイクロシーベルト前後に達し、国の除染基準(毎時0.23マイクロシーベルト)を上回っている。原発事故の賠償問題の取材で、ここに暮らす48歳の女性に話を聞いた。14歳と5歳の娘2人を育てる母親の悲痛な訴えに、やるせない思いが募った。

子を育てる母親に原発事故は…(11月12日、福島第1原発)=代表撮影

母親は事故直後、「県外に避難したい」とも考えた。それでも仕事や住宅ローンなど経済的な事情に加え、「娘たちを転校させたくない」と避難生活に踏み切れず、悩んだ末、地元に残った。

最善の選択をしたはずなのに……。「水を飲んでも害はないだろうか」「娘たちを屋外で遊ばせても大丈夫だろうか」「甲状腺がんが発症するのでは」などという健康面の不安が日々わき上がる。結婚や就職などで理不尽な思いをすることはないか。娘たちの将来を考えると罪悪感にさいなまれるという。

「そんな心配や苦労を娘たちが一生背負わされるかと思うと、産まなければよかったって思うんです。産んでごめんね、って」と母親は声を詰まらせた。

育児中の女性たちのブログなどを読むと「生まれてきてくれてありがとう」という言葉があふれている。私もいつか母親になったら、自然にそう思うのだろうと考えていた。

それだけに「産んでごめんね」という母親の言葉が耳について離れない。

原発事故が起こった2011年はもうすぐ終わり、新年を迎える。16日には原発の冷温停止状態も宣言され、収束の兆しととらえることもできるだろう。しかし福島の人たちには何の区切りもついていないことを、国も、東京電力も、我々も忘れてはならないと思う。

我が子を愛するからこその「産まなければよかった」という言葉の重み。私は決して忘れない。

(定方美緒)

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