2019年3月19日(火)

墓を掘り起こした人々の記録(震災取材ブログ)
@仙台

2012/6/18 7:00
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東日本大震災の記録収集の状況を取材するため宮城県図書館で話を聞いた際、「様々な記録の中で、読むのが最もつらかった」と紹介された本がある。題名は「清月記 活動の記録」。自費出版の書籍だ。

「活動の記録」の中には作業現場での写真も数多く盛り込まれている。

「活動の記録」の中には作業現場での写真も数多く盛り込まれている。

「清月記」と聞いても東北以外の方はなじみがないに違いない。仙台市を中心に14カ所の会場を運営する大手葬祭業者だ。なぜつらい読み物なのかを知りたくて、同社の菅原裕典社長を訪ねた。

「活動の記録」のメーンは、火葬できずに仮埋葬された遺体の掘り起こし作業、いわゆる改葬だ。被災地では2000体以上の遺体が土葬を余儀なくされた。清月記の専任チーム10人は行政の依頼を受け、昨年5月からの約3カ月間に石巻市で約700体を掘り起こして清め、新しい柩(ひつぎ)に納めなおして、火葬場へと送り出した。

火葬が当たり前の日本では土葬のための柩(ひつぎ)はなく、プロの「おくりびと」であっても仮埋葬や改葬の経験はない。立ち会う遺族の悲しみや憤りを肌で感じつつ、終日、黙々と作業する彼らは、どんな使命感で取り組んでいたのか。本の中にこんな一節があった。行政による対応が始まる前に立ち会った改葬の時の記述だ。

「背丈以上の墓穴に入ったその叔父の一人は、あたりに立ちこめる腐臭も意に介さない様子で、挫滅しかかっている柩の蓋に覆いかぶさった水まじりの重い泥を必死の形相で掻き出しながら、『今、出してやっからな』と幾度も繰り返した」。「掘り起こす執念に触れた。しかし、この作業を遺族にさせるのはあまりにも酷だとも思った」――。掘り起こした木製の柩は土の圧力で押しつぶされており、遺体はひどく傷んでいたことが、本の随所に書き記されている。

葬祭業者の「仕事」として取り組むべきだと考えて引き受けた作業は、日記スタイルで淡々とつづられていく。それだけに重く、読み進むのが正直つらかった。

作業は毎日10体ほど。梅雨時の雨や夏の強い日差し――。どんな天気でも作業は同じペースで続けられた。毎朝6時30分、本社から出発するチームを見送った菅原社長は「一人も不満を言わずに出て行く後ろ姿に涙が出た」と当時を振り返る。

記録集づくりは、専任チームのリーダー役だった部長の要望という。菅原社長は「何を手掛けたかの"証し"があれば、チームのみんなにとって、今後の精神的なよりどころになる」と考え、OKを出した。

震災から1年3カ月。数多くの書籍が出版されたり、インターネットに様々な記録がアップされたりしている。清月記の本も寄贈先の図書館などで順次、公開されるだろう。忘れかけたかもしれない被災の記憶を呼び起こす資料は、当事者でなくても読むのがつらい。ただ、誰かがやらなければいけなかった「仕事」を引き受けた人々が被災地の随所にいたことは語り継いでほしいと思う。そのためには、当事者たちの地道な記録づくりが今後も重要となる。(伊野知宏)

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