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生物模倣で大進化、デジカメの「目」 ソニーの挑戦

ソニーは生物の目の構造をまねた曲面形状のイメージセンサーを開発した。デジタルカメラなどに搭載するCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーは平面状が当たり前だが、今回のセンサーは中央部がくぼんだ半球状。まさに眼球の奥で像を結ぶ網膜を模した。暗い場所でも明るくノイズの少ない画像を撮影でき、レンズの小型・軽量化や低コスト化も可能になるという。CMOSセンサーで世界シェア首位の実力を証明した格好だ。

生物の目をまねてセンサーを曲げてみた

「最初の発想は生物の目をまねることだった」――。同社セミコンダクタテクノロジー開発部門の糸長総一郎デバイスマネジャーは曲面CMOSセンサーを開発した経緯をこう説明する。「なぜ目が生まれたのか、なぜ目は丸くなったのか、生物学の本で学ぶところから着手した」(糸長氏)。曲面形状にするとさまざまな課題を解決できることは、その後で気づいたという。うまくいく確証はなかったが、「このアプローチが正しいことは生物の目が証明済みだ」と周囲を説得しながら、開発を進めた。

曲面CMOSセンサーは、専用レンズと組み合わせることで大きく2つの利点を生み出す。1つは暗い場所でもノイズが少なく明るい画像を撮影できること、もう1つはレンズを小型・軽量化、低コスト化できることだ。

暗い場所でも明るい画像を撮影するためには、口径の大きな明るいレンズ(F値の小さいレンズ)を使うことが有効だが、これまで画面周辺の画質低下が目立ちやすかった。従来の平面CMOSセンサーの場合、センサー中央部でピントを合わせると、センサー周辺部ではピントがわずかにずれて画像の分解能が落ちてしまうからだ。これは「像面湾曲収差」と呼ばれる現象で、レンズからの距離がセンサー中央部と周辺部でわずかに異なることに起因している。そして、この問題は口径の大きな明るいレンズほど顕著になる。

これに対し糸長氏らが開発した曲面CMOSセンサーは、レンズからの距離がセンサー中央部と周辺部でほぼ等しくなる。像面湾曲収差が抑えられ、より明るいレンズを使えるようになる。例えばレンズのF値を従来の2.4から2.0に明るくしても、画像の分解能は変わらない。その結果より明るい画像を撮影できるようになる。これは、レンズを含むカメラシステム全体の感度が、センサー中央部で従来比1.4倍、周辺部で2倍に高まったことに相当するという。

さらに、硬いシリコンを曲面状に曲げると、シリコンの電気特性が変化し、ノイズの原因となる暗電流を従来比5分の1に低減することができた。これによって、暗い場所でもノイズの少ない画像を撮影できる。

また平面CMOSセンサーの場合、レンズを通った光はセンサー中央部では垂直に入射するのに対し、周辺部では斜めに入射する。このため写真の周辺部が暗く写ってしまう。これは「周辺減光」と呼ばれる課題だが、曲面CMOSセンサーではセンサー全面で光が垂直に入射するため、この問題を解決できる。

レンズも簡略化できるという。曲面CMOSセンサーでは、像面湾曲収差をレンズ側で補正する必要がないため、「スマホ用のカメラではレンズ枚数を従来の5枚から3枚に減らせた」(糸長氏)。カメラの小型・軽量化、低コスト化にも有効な技術といえる。

フルサイズからスマホ向けまで試作品は完成済み

ソニーは対角43ミリメートルのフルサイズ一眼レフ用から対角11ミリメートルのスマートフォン用まで、さまざまな寸法の曲面CMOSセンサーを試作済みだ。フルサイズ品の解像度は2400万画素と市販品と変わらない。「信頼性の評価も行っている」(糸長氏)ことから、早期の実用化を視野に入れた技術とみられる。

「曲面CMOSセンサーを生産する基本的な技術も確立済み」(糸長氏)という。詳細は明らかにしないが、「熊本の前工程(ウエハー処理)技術と、大分の後工程(パッケージ組み立て)技術を組み合わせ、これまでにない生産手法を確立した」(糸長氏)。CMOSセンサーを曲げるための「ベンディング・マシン」と呼ぶ製造装置も独自に開発した。

曲面CMOSセンサーの課題は、専用レンズが必要になることと、高倍率のズームレンズを設計しにくいこと。後者に関しては「画像の一部を拡大する電子ズームを活用したい」(糸長氏)としている。

ソニーは2009年にセンサー構造の上下を逆転させた「裏面照射型CMOSイメージセンサー」によってカメラの高感度化を進めた。さらに14年4月には、世界最高の感度を実現したレンズ交換式デジタル一眼カメラ「α7S」を発表するなど、一貫して高感度技術の開発に力を入れている。裏面照射型に続く高感度技術として注目を集めそうだ。

(木村雅秀)

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