ウェアラブルの世紀 操作の要はタッチから音声へ
藤村厚夫・スマートニュース執行役員
2013年、スマートフォン(スマホ)の出荷台数が全世界で10億台を超えた。「スマホの世紀」は繁栄を極めるにいたったが、それが「終わりの始まり」だとすれば、スマホの次を予感させる兆候も見え始めてきた。「ウェアラブル」だ。

電話の姿を借りたコンピューターは、次に時計やメガネのように身にまとえるようになる。あるいはクルマや家に姿を変えて発展し続け、「スマホの次」となるというのが大方の予想だ。
だがスマホの次がメガネか時計かクルマかは、実は本質的な問題ではない。十分に高機能で軽量になったコンピューターは様々な姿に変身する可能性が備わった。より重要なのは人間がコンピューターをどう使いこなすかへの影響度だ。
米アップルの「スマホの発明」がもたらした画期的な点は、すべてをタッチ操作に委ねるインターフェースだった。このインターフェース革命が同社に市場最大級の企業価値をもたらしたとする研究がある。まず、パソコン「マッキントッシュ(Mac)」を発売し、グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)とマウス操作を実用化した。次に携帯型音楽端末「iPod」でクリックホイールを実現。そしてスマホのタッチ操作。まさにインターフェースの覇者だった。
つまり、スマホの次とは「タッチの次」でなければならない。スタジオジブリ宮崎駿監督は4年前、「妙な手つきでさすっているしぐさは気色わるいだけで、僕には何の関心も感動もない。そのうちに電車の中で、妙な手つきで自慰行為のようにさすっている人間が増えるだろう」と予言していたのは有名だ。スマホの基本ソフト(OS)「アンドロイド」の推進者であるべき米グーグル創業者の1人、セルゲイ・ブリン氏自身でさえ「スマホ(の操作)はナヨナヨしていて(emasculating)、クールじゃない」と公然と述べている。
次のクールなインターフェースの有力候補とされるのは「ジェスチャー」と「音声」だ。ジェスチャーは米マイクロソフトがゲーム機「Xbox360」などで商用化を進める「キネクト」が筆頭だ。人の身ぶり手ぶりをカメラが認識、ゲーム機やコンピューターへ情報を送る。

筆者個人は、音声が有望だとみている。利用者が音声によって、対話するかのような形式でコンピューターを操作する。スマホでは「グーグルナウ」や「Siri(シリ)」が、音声操作と各種情報を統合して的確に情報提供をできるようになり、使える状態に近づいている。ウェアラブルで先頭を走るグーグルが発売した「グーグルグラス」では、例えば写真の撮影は音声で指示する。
注目すべきはテクノロジーが必ずしも先行しない日常的な利用シーンに音声認識が次々と投入されている事実だ。例えば米アマゾン・ドット・コムが北米で投入した「キンドルファイアTV」。テレビの悩みはリモコン操作の煩雑さだが、同製品は音声で指示すれば番組やコンテンツを検索できる。お年寄りにも重宝されるだろう。
さらに、同社が米西海岸の都市部で展開する生鮮食料品の宅配サービス「アマゾンフレッシュ」の注文用デバイス「ダッシュ」。消費者が「レタス2つ」などと品名を読み上げれば、それを解釈して発注できる。
メディアビジネスの分野でも音声が果たす可能性に注目したい。単なる読み上げや命令の一方通行ではなく、音声を介した会話形式のニュースが登場すれば、メディアの姿は激変するだろう。そんな未来に期待と恐れを感じている。
[日経MJ2014年6月2日付]