出てこいビッグマウス 失敗たたえる日本にしよう
伊佐山 元(WiL 共同創業者兼最高経営責任者)
珍しく、シリコンバレーもサッカーのワールドカップの興奮で盛り上がっている。特に期待もされていなかった米国チームの決勝トーナメント入りが確定し、普段サッカーに興味を持っていない人もお祭り騒ぎだ。世界的なイベントを通じて、社会が明るくなるのは本当に素晴らしい。その半面、様々なメディアに期待されていた日本代表の結果は残念であったが、予選リーグ敗退が決まった後の国内での評価には、大きな違和感を覚えている。
「勇敢な男」が一転「詐欺師」に

昨日まで「格好よい」「奇跡を起こしてくれるはずだ」とたたえていた選手達を、次の日に「だらしない」「進歩していない」などと真逆の評価をする神経は、どういうことか。この感情は、事業に失敗した起業家に対しても同じように向けられる。先日も、日本のベンチャー業界ではかなり注目されたテレパシーというベンチャー企業の創業社長の退任がコミュニティーのニュースになっていたが、論調としては「実現させると言っていた製品を未完成のままにして、逃げ出した詐欺師」というトーンである。それまでは「(眼鏡型端末で)グーグルに立ち向かう勇敢な男」というイメージであったのに。
スポーツ選手であっても、起業家であっても、世界に挑戦している人間は必死に毎日を過ごしている。世間からの期待が大きければ大きいほど、それなりのプレッシャーを感じて、それでも強がって頑張るのだ。これからの日本を考えたら、海外で活躍して、国内を活気づけるような人材が様々な分野で現れない限り、日本全体の底上げなどあり得ない。いくら規制を緩和して、税金を安くしたところで「世界に出て行こう」という気持ちや「世界で活躍して後に続く人たちの目標になろう」という気概を持つ人材が育たなければ、成長戦略も成り立たない。
にもかかわらず、日本は相変わらず失敗者には冷たい社会だ。どんなに難しいことに挑んでも、失敗した瞬間に友人だと思っていた人は無関心になり、味方だと思っていたスポンサーは消えてゆく。そんな社会を見ている若者たちは頑張るのであろうか? そんな社会で育った子どもたちに、明るい未来はあるのだろうか?
失敗から学ぶという発想を
右肩上がりの成長が期待できない市場で、唯一成長を生み出すのは、国外で活躍する度胸と実力を身につけた人間と、未知なる領域に挑戦できる自信家だ。サッカー日本代表の本田圭佑選手に厳しい評価を下すのは自由だが、彼のようなビッグマウスがいるから人は勇気づけられ、夢を見て、子供たちはサッカー選手を目指すのだ。実際、わが家の子供たちにとっても本田選手はヒーローだ。ソフトバンク社長の孫正義氏のような大言壮語する人間がもっと日本の社会に増えなければ、常識を超えた成果は生まれようがない。
よく米国の経営者は「失敗したことがないということは、何にも挑戦していないということだ」と言う。成功しても失敗しても、労苦を伴わないことばかりをやっていては、何も新しいことはできないし、成長もない。いま日本に欠けていることは、規制緩和や、税制の改定、特区の設立ではなく、失敗や挑戦をたたえる社会をつくるという意識だ。難しい課題に取り組んだ努力とエネルギーを評価して、さらなる挑戦に向かわせる前向きな空気だ。
失敗から学ぶという発想。失敗から強くなるという決意。失敗はあきらめない限り失敗ではない。そういった雰囲気を社会全体で育てることが、日本にとって不可欠になりつつあると考えている。
[日経産業新聞2014年7月1日付]
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