明治ヨーグルト「R-1」 ヒットの裏で開発戦争
工場の生産能力を倍増、売上高は右肩上がり――。食品業界でここ数年、熱気が冷めない商品がある。健康への貢献を打ち出した機能性ヨーグルトだ。薬事法の兼ね合いでメーカーは胸を張って効果や効能をアピールできないが、学会などでの調査報告によるとインフルエンザなどの予防に貢献できるとされる。単価が高く継続して消費される機能性ヨーグルトは収益に安定的に貢献する。各社は需要の取り込みへ一層の力を注いでいる。
インフルエンザの予防効果

コンビニやスーパーのヨーグルト売り場で、ひときわ目立つ真っ赤な一角。明治ホールディングス傘下の明治のヒット商品、「明治ヨーグルト R-1」だ。2009年の発売以来、高い人気を保ち続けている。同社が保有する約4000種類の乳酸菌の中から選び抜かれた「1073R-1」を配合。これが風邪の発症をしにくくする効果が見込めると人間での試験で確認されている。またマウスを使った試験ではインフルエンザの感染予防効果が見込めた。

品ぞろえもプレーンのほか「ブルーベリー脂肪0」「ドリンクタイプ」、継続飲用してもらうためにコクを高めた「宅配専用」などがあり、幅広い層に支持されている。明治によると「特にドリンクタイプは会社の昼休みの時間帯にOLなどに向けて売れている」という。品薄が続いた状況を受け、13年には相次ぎ工場に投資し、生産能力を3割増やして対応した。明治はR-1を含む機能性ヨーグルトの売上高について、14年3月期に前期比2割強の700億円超を見込んでいる。
幼児でも食べやすく
森永乳業の「ラクトフェリンヨーグルト」は母乳に含まれるラクトフェリンというたんぱく質を配合している。ラクトフェリンを毎日摂取することで、胃腸炎や食中毒の一因であるノロウイルスの感染予防に効果が期待できるという。またマウスでの試験結果によるとインフルエンザの症状軽減にも効果が見込めた。
ラクトフェリンは熱に弱い抽出が困難な物質だ。森永乳業は1986年に世界で初めてラクトフェリンを配合した育児用ミルクを発売するなど長年製品開発を進めてきた。その中で培った性質を変えずに抽出するノウハウを生かす。1月には商品を大幅に刷新、従来のハードタイプより食感が軟らかい、とろとろしたソフトタイプにした。ウイルスへの抵抗力が弱い幼児でも食べやすくした。

14年2月単月の売上高は前年同月比で5倍近くに急成長した。需要が大幅に増加し供給体制が限界に近くなった。そこで商品の刷新に合わせて都内の工場に設備を追加導入。生産能力を約4倍にまで引き上げた。それでも依然「どこに売っているのかという問い合わせがある」(同社)ほどの好調さだ。
雪印メグミルクは、整腸効果が見込めるガセリ菌とビフィズス菌を配合した「ナチュレ恵 megumi」シリーズを打ち出す。マウスでの試験では乳児の下痢や胃腸炎の原因の一種とされるロタウイルスやA型インフルエンザウイルスの予防効果が期待できそうだという。ガセリ菌は生きたまま腸に届いて長くとどまる乳酸菌。個人差はあるが、摂取してから90日過ぎても菌が生きることが確認されている。ガセリ菌は脂肪を吸収する小腸に定住する。小腸の整腸効果があるため、人間での試験では内臓脂肪を減らす効果も指摘されている。

ナチュレ恵ブランドの売上高は12年度比で約2割増で推移しており「このペースは来年度も続く勢い」と同社は見ている。3月に発売した「ガセリ菌 SP株ヨーグルト ドリンクタイプ」は飲みやすさや脂肪分・砂糖ゼロも手伝い、新たな顧客層も開拓している。
ダノンジャパンの「ダノンビオ」シリーズは高生存ビフィズス菌「BE80」を配合している。胃酸に強く、生きて腸まで届くとされるほか腸内のビフィズス菌を増やす特徴がある。4月1日から定番の「プレーン・加糖」をクリーミーな食感にするなど味わいを新しくする。機能性だけでなく味わいでも消費者にアピールする。
固定ファンづくりがカギ
機能性ヨーグルト市場はメディアで紹介されたことで急激に注目され、ブームの状態にある。富士経済(東京・中央)によると、12年のヨーグルト市場は前年比12%増の2915億円だった。健康志向の高まりで機能性ヨーグルトがけん引役となり、13年は一層拡大しているとみられる。だがブームが過ぎ去った後にどれだけの固定ファンが残るだろうか。囲い込みに向けて各社の勝負はますます激しくなりそうだ。(企業報道部 宮住達朗)