カビ、PM2.5、花粉…空気清浄機の効果どこまで?
編集委員 大西康之
シャープは4月17日、空気清浄技術「プラズマクラスター」を搭載した商品の世界販売台数が2013年12月末で累計5000万台を突破したと発表した。中国で問題の大気汚染物質PM2.5や、花粉、新型インフルエンザなどで消費者は「空気の質」に敏感になっており、空気清浄技術のビジネスチャンスは広がっている。一方で目に見えない「空気のビジネス」には、思わぬ落とし穴もある。
トヨタやLIXILなど26社に外販

プラズマクラスターは自然界にあるのと同じプラスとマイナスのイオンを空気中に放出する装置だ。両方のイオンがくっついてできるOHラジカルはカビ菌などから水素を抜き取って増殖を抑える効果がある。シャープはこの装置を2000年に空気清浄機に搭載し、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、扇風機など自社の15商品に応用してきた。
プラズマクラスターの特筆すべき点は、外販の成功だ。自動車業界ではトヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、ダイハツ、いすゞ自動車、日野自動車、デンソーがカーエアコンに、フジテックがエレベーター、LIXILがシャワートイレなどに採用している。外販先は26社を数え、4月23日からは大阪市営地下鉄御堂筋線で通勤車両を使った実験も始まった。水産加工工場も導入している。
日本電機工業会によると、2013年度の国内の空気清浄機市場は出荷台数が前年度比約8%減の275万6000台、出荷金額は同約6%減の約700億円だった。空気清浄機能を備えたエアコンやガスファンヒーターが増えた分、専用機の市場が伸び悩んだとみられる。
国内より成長が見込めるのが海外、中でも深刻な大気汚染に悩む中国だ。現在、中国の空気清浄機市場は100万台程度とみられるが、将来は日本を抜き空気清浄機能付エアコンなどを含む室内環境機器の市場規模が2015年に1兆円を超えるという地元調査会社の予測もある。シャープ、パナソニック、ダイキン工業といった日本の空気清浄機大手はいずれも中国での販売台数を大きく伸ばしている。
消費者庁が景表法違反と判断
問題は「空気の質」を消費者にどうアピールするかだ。「空気清浄」と聞けば、カビや匂いだけでなくウイルスや花粉、PM2.5にも効果があると思う消費者も多いだろう。シャープのホームページを見るとプラズマクラスターの効果は「カビ菌の増殖抑制」であり、ウイルスなどに効果があるとは書いていない。そこはまだ実証されていない領域だからだ。
シャープは12年に消費者庁から「景品表示法に基づく措置命令」を受けている。プラズマクラスターを搭載した掃除機が「ダニのふん・死がいの浮遊アレル物質のたんぱく質を分解・除去する」としていたパンフレットなどの表示について「室内の空気中に浮遊するダニ由来のアレルギーの原因となる物質を、アレルギーの原因とならない物質に分解又は除去する性能を有するものではなかった」と指摘され、景表法違反と判断された。

その反省から現在、プラズマクラスターの広告表現は効果が実証された「カビ菌の増殖抑制」に絞り、ウイルスやアレル物質には言及していない。
国内外の研究機関に実験を依頼
しかし、原理的にはカビ菌以外に効果を発揮する可能性がある。これを実証するため、シャープは現在、国内、ドイツ、ベトナムなど世界24の研究機関でウイルス、アレル物質、化学物質などを対象にした実験を実施している。ウイルスについては東京大学大学院のパブリックヘルスリサーチセンター、北里環境科学センター、韓国のソウル大学、ベトナムのホーチミン市パスツール研究所などに実験を依頼している。
かつては実験室の中で測定したデータがあれば効果をPRできたが、今は実機が日常生活と同じ環境で機能しないと効果を表示できない。利用者の目線で見れば当然のことだが、毎年の新製品でこれをやるとなるとメーカーの負担は相当に重い。一方、第三者の研究機関で実証できれば消費者に堂々と効果をアピールできる。
シャープのプラズマクラスター、パナソニックの「ナノイー」、ダイキン工業の「アクティブプラズマイオン」と「ストリーマ」。どの方式が「ウイルスなどに効果がある」と科学的なお墨付きを得るか。研究機関と組んだアカデミックマーケティングが勝負の分かれ目になりそうだ。