もう男には頼らない、金型現場支える女性や外国人
女性や外国人の活躍によって、中小企業が多い金型メーカーの製造現場が変わり始めた。女性が中心となったチームが職場や人事制度などの改善を進めたり、海外の研修生を積極的に受け入れることで社員の国際感覚を磨いたりする。金型業界では近年、後継者や若手人材の不足が懸念されており、女性や外国人の積極的な登用は解決策の1つにもなりそうだ。
女性チームが改善提案

「来月までに、この点を改善してください」。プレス用金型メーカーのサイベックコーポレーション(長野県塩尻市、平林巧造社長)では1年ほど前まで、女性を中心とした複数のチームが終業後に週1回の割合で社内をパトロール。「整理」「整頓」「清潔」などをスローガンに製造現場の改善に取り組んだ。
パトロールで指摘した事項は一定の期限までに改善するよう促す。例えば、金型に組み込む小さなねじ。従来は引き出しの中に分けて入れていただけだったが、ねじのサイズごとに色別の箱に入れることで、欠品が分かりやすくなった。また長さだけでなく、単価を書いた紙を貼り付けるようにした。コスト意識が高まり、1割以上のコスト削減効果も出たという。
サイベックコーポレーションは現在、正社員74中8人が女性でパート従業員も含めると30人を超える。「女性社員が長い間、戦力として働いてもらうには女性目線で職場環境を見直さなければならないと考えた」(平林社長)。2012年4月にメンバーが全員女性の「なでしこ5S委員会」を立ち上げた。
委員会が中心となってパトロールのほか、来客者にアンケート調査を行うなどし、職場改善に取り組んだ。委員会のまとめ役に起用された経営品質部リーダーの川上加奈恵さん(29)は「女性ならではのおもてなし、気付きの要素を生かした」と振り返る。
委員会は昨年3月に解散したが、現在も女性が働きやすい職場作りの取り組みは続く。昨年4月からは新しい人事制度の運用を開始。出産や育児の際は子どもが3歳まで休暇を取得できるようにしたり、月ごとに1時間単位で勤務時間を変更できるようにしたりした。川上さんが中心となって女性従業員から聞き取りを進め、新制度を作り上げたという。
女性登用「増やす」22%

日本経済新聞社が実施した第12回「金型業界に関するアンケート」(金型調査)では製造現場で女性を登用する企業は63.5%に上り、このうち22.2%が「増やす」と回答。また7.1%が「今後始める」としており、プレス用金型メーカーの昭和精工(横浜市、木田成人社長)も今春、約10年ぶりに女性社員が入社する予定だ。木田社長は「金型業界では人材不足が問題になっている。女性や外国人を雇うことで今後の採用の幅を広げたい」と話す。
一方、海外から外国人研修生を受け入れることで、社員の国際感覚や人脈を広げる会社も出始めている。プレス用金型メーカーの大垣精工(岐阜県大垣市、上田勝弘社長)では毎年のように韓国や中国などからの研修生を受け入れる。
「日本人は勤勉だ。納期に間に合わせるために休日出勤もいとわない」。昨年10月に日韓産業技術協力財団(東京・千代田)が都内で開催した報告会。韓国企業から日本企業に派遣された14人の韓国人が感想を述べた。このうち2人は大垣精工が受け入れた。
外国人研修生生かす

大垣精工は30年以上も前から、中国や韓国からインターンシップや企業研修の受け入れを続けている。学生のほか企業の技術職や管理職ら延べ人数は1000人以上。数カ月間の見学研修が中心となり、技術を身に付けるのは難しいが、日本人のものづくりに対する姿勢を体感できる。上田社長は「外国人と親しむことでこちらの社員も刺激を受ける。人脈も海外でのビジネスに生かすことができる」と指摘する。
一方、大垣精工の外国人社員は帰化したり永久就労の許可を得たりした3人だけだ。「就労ビザがなかなか出ない。外国人は日本で自由に就労できない」(上田社長)という。
金型調査でも「製造現場で外国人を登用しているか」の質問に対し、74.4%の企業が「雇っていない」と回答。ただ海外子会社のある金型メーカーは出向という形で外国人を国内現場で登用するケースもある。ベトナムなどに子会社を持つ射出成型用金型メーカーの名古屋精密金型(愛知県東浦町)の渡辺幸男社長は「国内で優秀な若者を集めるのは難しいが、ベトナムなどでは高学歴の優秀な人材が集まる」と話す。
(企業報道部 高城裕太)
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