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複雑な風の動きつかめ 日本の風力発電、光る解析力

自然を相手にする風力発電は風をいかにつかむかがカギを握る。昼間だけの太陽光より効率はいいが、見えない風の動きを予測して風車でつかまえないと電気は起こせない。台風や落雷など日本特有の気象条件の克服も必要だ。その中で注目されるのが風況解析。特に尾根が複雑に連なる日本の山岳地帯は予想外の風の渦=乱流が風車に悪さをする。故障や発電量低下につながる乱流対策の重要度が増している。

十数メートル離れると状況は一変

風力発電は立地調査で毎秒6.5メートルなど、一定以上の平均風速のある有望地域を抽出する。その後、風況調査で具体的な立地場所を決め、基本設計に入る。風向・風速計を掲げて実際の風を測るが、何基も建てる風車の予定位置のすべてを実測するわけではない。

地形が複雑な日本の場合、十数メートル離れただけで状況は変わる。直径数十メートルの大型風車では羽根の上の方と下の方でも風の様子は変わる。そこで登場するのがシミュレーション技術だ。

福岡県春日市の九州大学筑紫キャンパス。応用力学研究所の内田孝紀准教授の研究室には全国から風力発電関係者が押し寄せる。内田氏は風力発電所の建設予定地や周辺の山などの地形の情報と風のデータを組み合わせ、時々刻々移り変わる風の状態を予測する風況シミュレーションソフト「リアムコンパクト」を2003年に開発した。

06年には同名の九州大学発ベンチャーを設立。ソフト販売や解析業務の受託を本格的に始めた。取引先には風力発電事業者、大手風車メーカー、自治体、研究所が名を連ねる。リアムコンパクトの特徴は「非定常・非線形」といわれる解析技術。「山の頂上に向けて吹き上げる風が尾根で複雑に渦を巻く乱流を表現できる。風が時間とともに変わる様子をアニメーションで表示できる」(内田氏)のだ。

風力発電事業最大手のユーラスエナジーホールディングス(東京・港)も同ソフトのユーザーだ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が全国を網羅する風況MAPを作っているが、これは平均風速しかわからない。

技術部で風況解析を担当する高桑晋課長代理は「MAPは候補地のあたりを付けるのに使う」という。「様々なソフトがあるが解析はリアムコンパクトが基本。今は風況解析の結果を最優先して立地を決める」と語る。同社も乱流で苦労した経験があるからだ。

巨大な風車、設置後は改造難しく

09年に操業を開始したユーラスの島根県の新出雲(出雲市)の風車は乱流により故障が頻発した。風車の羽根が風で大きく変形し、タワーにぶつかり破損する事故が何度も発生した。風況解析をするのは操業開始の3年くらい前。当時ユーラスではまだリアムコンパクトを使っていなかった。事態を重視した同社は風況解析を実施、複雑な風が起こる条件を見極めた。

その結果、一定の風向・風速の風が来たときに風車を止めてしまえば、乱流の影響を避けられることがわかった。その間は発電しないが、故障が起こり長期間風車が止まることを考えれば「乱流を予想して風車を止めた方がはるかに効率的」という。

11年に操業した鹿児島県肝付町の風車も尾根が複雑な場所に設置していたため一部の風車で乱流が発生した。ここでは対策を進化させ、風が乱れても風車を止めず、羽を調節して風を逃がす出力調整を併用している。止めてしまうより売電収入の減少が少ないからだ。

巨大な風車は建てた後に不具合が発生しても建て直しはできない。改造も難しい。乱流は尾根の頂上の低い場所で発生することが多いが「風車の位置を数メートル高くすれば解決することがわかってもできない」と内田氏は解説する。

もともと日本は風力発電の導入段階で欧州製風車を使うことが多かった。欧州は平たんな海岸で強風が吹くので、乱流の発生はさほど深刻ではない。だから日本の風力発電事業者も風車メーカーも「風況解析をあまり重視していなかった」(高桑氏)のだ。

そもそも風車は寿命を20年程度で経済計算している。途中で壊れてしまえば事業が破綻する恐れもある。数年後には古い風車の建て替え期を迎える。例えば熊本県営の阿蘇車帰風力発電所(阿蘇市)。05年の稼働から故障が頻発。赤字が続き存続の危機に陥った。そこでメーカーの協力を仰ぎ、風況や振動の解析を繰り返し乱流発生時に風車を止めた。しかしそれだけでは売電収入が減る。そこで発電機に影響が出ない範囲で運転制限を解除、13年度にようやく黒字にこぎつけた。今も改善策の模索を続ける。風車を供給した三菱重工業は「風況解析、風車の振動計測・異常診断などの技術と、蓄積したノウハウ、さらに事業部門などと連携し既に納めた風車の効率を上げたい」としている。

ビッグデータの計算手法を改良

内田氏は九州大の大学院時代から風況シミュレーションの研究に携わる。当初はビル風をどう弱めるかなどのテーマに取り組んでいたが、途中で風の有効利用にかじを切る。大学院生ですでにリアムコンパクトの基本型は作り上げていた。コンピューターの発達を見据え、パソコンで解析できるコンパクトなソフトを目指した。

非定常・非線形解析はデータ量が膨大になる。このためビッグデータを効率的に計算する手法を長年かけて改良した。03年の開発後も改良版を続々出しており、大学で研究する時はNECのスパコンも使う。

07年に稼働した九電工子会社の九電工新エネルギーの渥美風力発電所(愛知県)でも乱流の影響でタワーが振動し、故障が続いていた。そこで九州大に解析を依頼したところ「近くの山だけでなく、2~3キロ離れた山の影響もある」ことがわかった。乱流の影響でモーターのブレーキパッドの摩耗や油圧操作系の故障も起こっていた。

そこで一定の風向と風速のときに風車を止める「自動停止プログラム」を導入。故障の発生は大幅に減り、設備利用率も向上。風車1台あたり、年間約900万円の修繕費削減効果があった。

その後12年に稼働した鹿児島県の串木野れいめい風力発電所でも風況解析を実施。ここでは10号機が約300メートル離れた山の影響を受け、乱流を受けていることがわかった。西田利彦専務は「自然相手の事業だけに、解析に基づく運用が欠かせない」という。

尾根が複雑に絡みあう立地も

13年は全国で風車の事故が発生し、関係者を震撼(しんかん)させた。エヌエスウインドパワーひびきも13年に北九州市の響灘風力発電所の風況診断を九州大などに依頼した。同発電所は山の中にあるのではなく、海岸沿いで風車の近くの海沿いを一般の人が歩ける。安全には人一倍気を使う。発電所周辺の地形の凹凸や地上の構造物などを忠実にコンピューター上に再現、風況を解析した結果「乱流の影響はほとんどなく、風況面の安全性を確認した」(九州大)という。

風力発電事業の新規参入組の東芝は先行各社のてつを踏むまいと昨秋、九州大の内田研究室を訪ねた。「非定常で乱流が見られるのはこれしかない」(電力・社会システム技術開発センター)と、鹿児島県長島町に今年度建設する風力発電所の立地場所の選定にリアムコンパクトを使った。

同社は韓国の風車メーカーと組み、強い風に耐えられる機種を開発。解析力も武器に「台風にも乱流にも強い」ことを売りに、後発ながらも日立製作所や独シーメンス、米ゼネラル・エレクトリックに対抗する。

日本は平地に大型の風車を設置する土地が少なく、環境アセスメントをクリアするという課題もある。最近ではまとまった土地は太陽光発電のメガソーラーとの争奪戦に敗れることも多い。いきおい、風車は山奥に向かう。尾根が複雑に絡みあう立地が増え「風況観測の重要性が一層増している」(ユーラスエナジー)という。

◇    ◇

海洋国家日本。風力発電の新たな適地としてこれからの期待が高まるのが洋上風力だ。ここでも風況解析を生かした風況観測の技術開発が進む。

千葉県銚子沖と北九州市沖。NEDOによる洋上風車発電の実証プロジェクトとあわせて、風況観測データが集められている。

北九州沖では岸から1.3キロに立つ高さ80メートルの風車から約250メートル離れた場所にほぼ同じ高さの風況観測タワーがある。高さ80メートルの場所から下方に10メートルおきに風向・風速を計測しているが、秘密兵器は海面から15メートルに設置したライダーだ。これはレーザーを発信し高さ200メートルまでの風速・風向を測れる。

なぜこんなことをするか。それは洋上風車が普及段階に入れば、いちいち風車の横に同じ高さのタワーを建てて観測することができないからだ。ライダーのデータと実測値の差を把握し、将来はライダーのデータを駆使して洋上の風況を予測できるようにする。NEDO新エネルギー部風力・海洋グループの佐々木淳主幹は「現在、銚子沖も北九州沖も乱流による停止や出力調整の必要はない」という。

ただ風況観測は立地場所を決めるため、様々な箇所で何度も測定する必要がある。低い観測台でもライダーで観測すれば当然建設費も手間もかかる。そこでNEDOが目をつけたのが船だ。

秋田の能代港には秋から風変わりな無人船が浮かぶ予定。この船には高さ250メートルまで風況観測が可能なドップラーライダーが載っている。補正手法を含め簡単に洋上の風況を観測できる技術を探っており、船の上は揺れるため動揺補正機能を付けている。

NEDOの佐々木氏は「風況解析は風による橋への影響など、土木分野由来の技術でもある。日本の解析技術の水準は世界的に見ても高い」と指摘する。一見風任せに見えて、実は精緻な技術が求められる風力発電。日本の風力発電産業は複雑な地形の乱流に鍛えられながら、世界に羽ばたこうとしている。

(企業報道部 三浦義和)

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