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サウジが石油を輸入する日 日本勢、代替エネに商機

編集委員 松尾博文

中東に原油輸入の8割超を依存する日本。紛争やテロでこれが途絶えたら――。繰り返し議論されてきた問題とはまったく違ったリスクが、日本の前に立ちはだかりつつある。正体は経済成長。産油国自体の人口増と成長によって原油の国内消費が急増し、世界最大の産油国サウジアラビアが輸入国に転じるシナリオすらささやかれるのだ。

皇太子は安定供給を約束したが…

晩さん会でサウジアラビアのサルマン皇太子のあいさつを聞く安倍首相(2月19日、首相公邸)

「たいへんでした。来日の順番にも気を使いました」。外務省関係者は振り返る。2月中旬から3月上旬にかけて、サウジのサルマン皇太子、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド皇太子、イランのザリフ外相が立て続けに日本を訪れた。

いずれも日本にとって重要なエネルギー資源の調達先だ。3カ国からの原油輸入量は日本の輸入量全体の約6割。エネルギー外交の最上位に位置付けられる国々だ。

なかでも最大の原油輸入先であるサウジのサルマン皇太子は80歳近い。2012年の皇太子就任後、近隣国を除くと事実上、初の外遊先の一つに日本を選んだ。「原油の安定供給を約束する」。安倍晋三首相との会談での皇太子の力強い言葉に関係者は胸をなで下ろした。

この約束はいつまで守られるのか――。というのも、サウジが原油を輸出できなくなるかもしれないからだ。

「38年までにサウジは石油輸入国に転落しかねない」(英王立国際問題研究所)

「30年までには輸入国になる可能性がある」(米シティグループ)

福島第1原子力発電所事故から3年。日本では原発を代替する原油や天然ガスの輸入が増え、中東依存度は再び高まっている。この間、世界ではサウジの大産油国としての将来に相次いで疑問が投げかけられている。

理由はサウジ国内の消費量の急増だ。

サウジ王族系の投資銀行ジャドワ・インベストメントよると、ガソリンなど石油製品を含む、サウジ国内の石油・ガス消費量は09年で日量320万バレル(原油換算)。10年で69%、20年で179%増えた。2000年代前半に年率4.8%だった増加率は、同後半には5.9%とペースが上がっている。

原油の無駄遣いぶりが悪化

サウジの石油・ガス消費量は20年には日量590万バレルに、30年には同1060万バレルに増える見通しだ。サウジの原油生産能力は現在同1250万バレル。この消費傾向が続けば、国内需要だけで生産量を食いつぶしてしまう。

シェール革命により原油生産量が増える米国はまもなくサウジを抜いて世界最大の原油生産国になる見通しだ。しかし、国際エネルギー機関(IEA)のファンデルフーフェン事務局長は「中東で原油の増産投資が正しく実行されなければ、世界は深刻な問題を抱える」と警告する。

増大するアジアの需要を満たすことができる潤沢な生産余力を持つのは現状では中東、なかでもサウジしかないからだ。国内消費の増大による輸出量の減少は日本やアジアを直撃する。

サウジでの生活経験もある東京国際大学の武石礼司教授は「日本はこうした事態に備え、エネルギー調達の選択肢をできるだけ増やす必要がある。サウジのエネルギー消費の効率化に協力する余地も大きいはずだ」と指摘する。

サウジの人口は2900万人。過去30年間で4倍に増えた。人口の急増と生活水準の向上がエネルギー消費量を押し上げている。加えて問題なのは豊かな産油国であるがゆえの効率の悪さだ。

英王立国際問題研究所の調査によると、サウジのガソリン価格は10年時点で1リットルあたり16円。日本の10分の1、中国やインドの7分の1だ。石油製品や電気の料金は、安い原燃料費に加えて、政府が補助金で抑えている。石油が水より安いといわれるゆえんだ。

サウジの1人当たりエネルギー消費量は米国を上回り、日本の2倍近い。一定の国内総生産(GDP)を生み出すために必要とするエネルギー量はサウジの場合、原油換算で世界平均の10倍。世界平均が低下傾向にあるのに対し、09年までの11年間で4割も悪化している。無駄遣いぶりがどんどん悪化している。

「将来は石油と太陽を輸出」

サウジ政府が気付いていないわけではない。

「あなたのエアコンに認証ラベルが張ってなければこの番号に電話を」。サウジ紙に2月、山積みのエアコンを建機で押しつぶす写真とともにこう呼びかける記事が載った。サウジ政府は今年から、エアコンについて基準以下の電力消費量でなければ流通を認めない規制を導入した。

気温の高いサウジの暮らしにエアコンは不可欠だ。電力消費の4割が家庭。その7割がエアコンだとされる。規制による省エネ効果への期待は大きい。サウジ政府はエアコンに続いて、自動車の燃費や、製鉄所や化学工場などの燃料消費についても規制に着手する意向だ。

実行にあたる「サウジ国家省エネルギー計画(SEEP)」は13年に発足。石油鉱物資源省の副大臣をトップに、関係省庁やサウジ国営石油会社サウジアラムコなどの出身者を集めた横断組織だ。

SEEPが省エネを進める消費側の取り組みとすれば、化石燃料に依存しない発電拡大など、供給側の取り組みにあたる目的で設立された組織が「アブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市(KACARE)」だ。

サウジは政府歳入の大半を原油の輸出収入で得る。輸出量の減少は国家運営に直結する。国内消費を抑え、輸出量を維持するために注目しているのが原発と再エネだ。30年までに16基の原発、32年までに1600万キロワット分の太陽光発電の導入目標を掲げる。ヌアイミ石油鉱物資源相は「将来は石油と太陽を輸出したい」と意気込む。

日本企業も動き始めている。

紅海に浮かぶサウジ領ファラサン諸島。イエメン国境に近いこの島で11年8月、500キロワットの太陽光発電プラントが稼働を始めた。電力は島内の送電網に接続し、住民が利用する。手がけたのは昭和シェル石油傘下の太陽電池メーカー、ソーラーフロンティア(東京・港)だ。

ソーラーフロンティアが設置したファラサン島の太陽光発電設備

同島の電力はディーゼル発電設備でまかなう。離島での太陽光発電導入には、割高なディーゼル燃料の節約と、出力が一定でない太陽光発電を島内の電力系統に組み入れることで生じる影響を検証する狙いがある。

昭シェルの第2位株主はアラムコ。石油鉱物資源省とアラムコは、国内のエネルギー消費にとどまらず、雇用創出や産業育成など、サウジの成長戦略全般の立案や実行の先頭に立つ。

ソーラーフロンティアはサウジ東部にあるアラムコ本社のメガソーラー(大規模太陽光発電)も手がけた。平野敦彦副社長は「サウジの太陽光発電のバリューチェーン全体に関与し、商機につなげたい」と語る。

工業団地のスマート化に挑む

双日は13年、フランスやサウジ企業とともに首都リヤド近郊で天然ガス発電所の運転を開始した。出力は172万キロワット。電力は20年間地元の電力会社に卸販売する。

中東情報誌MEEDによれば、サウジは原油生産量の1割にあたる石油燃料を発電に使う。サウジ政府はこれを輸出に回すために、天然ガスへの切り替えを急いでいる。

双日の発電所はガスタービン7基と蒸気タービン2基を組み合わせている。「複合化することで、従来型の天然ガス発電に比べ発電効率は1.5倍に高まる」。担当者はこう説明する。

富士通は工業団地に環境モニタリングシステムを導入した(ダンマン第2工業団地での大気測定)

富士通を中心とする日本企業連合は昨年12月、サウジ国内の政府系工業団地3カ所で、大気や水のモニタリングシステムの運用を開始した。団地内に設置した固定設備や移動設備を使って工場排水や大気中の硫黄酸化物などを測定し、データを集めて団地内の環境改善に利用する。

富士通がこの取り組みの延長線上に狙うのは、モニタリング技術にクラウドサービスなどを組み合わせた「工業団地のスマート化」(テクニカルコンピューティングソリューション事業本部TC戦略室の三沢真シニアマネージャー)だ。工業団地全体でエネルギーの最適利用が可能になれば節約効果は大きい。

本来、何よりも必要なのは、無駄遣いに慣れてしまったサウジ国民の意識転換だ。そのためには多額の補助金で低く抑える電気や水、ガソリンなどの料金見直しは避けて通れない。

しかし、値上げは国民の不満を増幅し、国の安定を脅かしかねない。急激な改革は難しい。経済産業省の関係者は「サウジ当局は子供時代から教育し、次の世代で省エネを定着させるぐらいの時間を考えている」と語る。その間も「隠れたエネルギー危機」(英王立国際問題研究所)は、時限爆弾のようにじわじわその姿を膨らませていく。

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