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ヤマダイーブック「炎上」 電子書籍事業への教訓

(三淵啓自)

ヤマダ電機が5月末、スマートフォン(スマホ)向け電子書籍サイト「ヤマダイーブック」の現サービスを7月31日に終了し、8月から新サービスを始めると発表した。だが、今まで購入した電子書籍は読めなくなり、移行措置もとらない――そんな内容にユーザーが強く反発、ネット上などで批判が燃え上がった。

ヤマダ電機は電子書籍サイトを巡り、ネットで批判を浴びた(東京都豊島区のLABI1日本総本店池袋)

この"炎上"を受けて同社は対応を一転。当初の告知は「内容に不備があった」と謝罪し、購入した電子書籍は新サービス移行後も引き続き読めるよう調整に着手。新サービス継続を承諾しない場合は電子書籍の購入に必要な「イーブックポイント」の残高相当分を、店舗で使える「ヤマダポイント」に切り替えて返還するとした。

これまでも電子書店が閉鎖されると様々な問題が起きていた。楽天の電子書店「Raboo(ラブー)」は2011年にパナソニック製の電子書籍端末書店として開業した。ところが12年7月、楽天はカナダの電子書籍・書店「kobo(コボ)」を買収し、電子書店事業を一本化するためラブーの閉鎖を決めた。

コボは世界標準のコンテンツフォーマット「E-Pub」を採用。一方のラブーは日本専用フォーマットのため、大量の書籍を変換するのが困難だったのだろう。楽天はコボへの移行プログラムを用意できなかったが、同じ日本専用フォーマットを採用するイーブックイニシアティブジャパンがラブー利用者の救済に乗り出した。

一方、今年3月末にソニーが北米での電子書籍ストア「リーダーストア」を閉鎖した際には、楽天コボがそのユーザーと、購入した電子書籍コンテンツを継承した。両社とも国際標準E-Pubを採用しており、コンテンツの移行も利用端末に関係なく、スムーズに切り替えられるからだ。

デジタルコンテンツのサービス停止では、主に3点が問題になる。

 みつぶち・けいじ 米サンフランシスコ大卒、スタンフォード大学院で修士。オムロンやウェブ系ベンチャー企業設立を経て04年より現職。

(1)特定の機器やフォーマットに依存する仕組みは、サポート中止後にデジタルコンテンツが再生できなくなる。

(2)クラウド依存でコンテンツを管理・認証する仕組みでも、サービス停止後は購入したコンテンツが利用できなくなる。

(3)ウェアラブル端末などの専用デバイスでクラウドやウェブに連動していても、サービス停止で機器が利用不能になる。

(1)の対策としては世界標準のフォーマットを使い、ウェブアプリやモバイルアプリなどで使える端末に依存しないサービス展開が必要になる。カナダでかつてコボが優勢だったのはウェブやモバイル端末で閲覧できたからだ。その後、米アマゾン・ドット・コムの電子書籍「キンドル」がコボと同じ仕様にすると、追い抜かれた。つまり囲い込み戦略はユーザーに浸透しにくいのが現実だ。

(2)の対策では、クラウドを十二分に活用できるよう利用者の増大に対応可能な設計と戦略が必要だ。例えば米ピンタレスト。ユーザーが画像をアップするのではなく、ウェブ上の画像リンクを集めてくるコンセプトで急成長した。クラウド上のストレージを活用し、低コストで長期的に維持できる設計が必要になる。

(3)については、グーグルグラスのように開発環境(SDK)を公開し、サービス自体は各企業の責任で運用させることでコンテンツ運用のリスクを分散することだ。

特定の企業が専用端末からフォーマット、流通、販売など全てを抱えるのは、市場を席巻できればいいが、利用者が思うように伸びなければサービスを続けられない。できる限り世界標準をベースに、継続可能なサービスを提供する設計が重要になる。

(デジタルハリウッド大学教授)

[日経MJ2014年6月6日付]

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