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電動自転車で欧州攻める ヤマハ発、3度目の正直

モーターの力でペダルをこぐのを助ける電動アシスト自転車。1993年(平成5年)に世界で初めて電動アシスト自転車を開発・販売したのがヤマハ発動機だ。その電動アシスト自転車のパイオニアが、世界最大の需要地である欧州市場へ向け、駆動ユニットの輸出を今年から本格的に始めた。実はヤマハ発にとって、欧州市場への挑戦は3度目だ。苦い失敗経験を基に現地の需要を徹底的に調査して開発した新型の駆動ユニットを武器に、厚い壁に挑む。

「輸出、10倍以上に増やす」

ヤマハ発動機は「PWシリーズ」では、欧州で主流のクランク合力方式のモーターを採用した

「2014年の駆動ユニットの輸出目標は3万8千台。13年比で10倍以上に増やす」。ヤマハ発で電動アシスト自転車事業を担当するSPV事業部の森本実事業部長は意気込む。

ヤマハ発が「PWシリーズ」と呼ぶ駆動ユニットはモーターとバッテリー、メーターで構成する。このうち心臓部であるモーターについては、ヤマハ発が自社で開発、製造も子会社が受け持つ。PWシリーズは重量が3.5キロ、ピークのトルク(ペダルを踏む力)の大きさが80ニュートンメートルと、世界トップ級の軽さと性能を実現した自信作だ。

13年10月から自転車世界大手、ジャイアント・エレクトリック・ビークル(台湾)に供給を始めたのを手始めに、ヴィノラ(ドイツ)、サイクルビジョン(デンマーク)、バタバス(オランダ)とも契約を結んだ。「年内にあと1~2社増える見通し」と森本事業部長は胸を張る。

順調なスタートの裏には、苦い失敗があった。ヤマハ発が最初に欧州市場に挑戦したのは、1990年代半ば。世界初の電動アシスト自転車「PAS(パス)」を日本で発売して、わずか数年後のことだった。自転車文化が根付く欧州での普及を狙ったが、需要が思うように広がらず、2000年代前半に大きな在庫を抱え、撤退に追い込まれた。

だが、ヤマハ発の撤退と前後して、欧州で電動アシスト自転車市場への参入が加速。今では独ボッシュなどが君臨し、ヤマハ発の推定で13年の欧州全体の需要は100万台程度と世界最大の市場に成長した。

欧州から撤退したヤマハ発は国内に経営資源を集中。電動アシスト自転車の国内市場は加重平均で、毎年7~8%程度のペースで増え続けており、13年には43万5千台まで拡大した。国別で見るとドイツと並び世界最大規模。ヤマハ発の13年の電動アシスト自転車の販売台数は13万1千台と約3割のシェアを握り、パナソニックに次ぐ2位。駆動ユニットでは、他社へのOEM(相手先ブランドによる生産)を含めると国内シェアの50%を握る。

欧州と日本、好みに違い

力を蓄え、自信を深めたヤマハ発は12年に欧州市場に再挑戦する。だが、再び数カ月で中止に追い込まれた。

最大の原因は、欧州と日本の電動アシスト自転車の好みや志向の違いだった。ヤマハ発は再挑戦するに当たり、日本で主流の「チェーン合力」といわれるタイプをベースにした駆動ユニットを投入した。チェーン合力とはペダルを踏む人の力とモーターの力をチェーンを介して合力する方式。欧州で主流の「クランク合力」といわれる人の力とモーターの力をクランク軸上で合力する方式に比べ、一段とトルクを大きくできるのが特長だ。実際、当時のヤマハ発の駆動ユニットのピークのトルクの大きさは100ニュートンメートル。「競合他社の製品に比べて、2倍程度の大きさ」(森本事業部長)を誇った。

だが、チェーン合力の方式では、構造上、バッテリーを自転車の座席のほぼ真下に装着せざるを得ない。ちょうど自転車の中央部分に取り付ける形となるため重心も安定し、日本では好まれているデザインだが、どうしてもある程度のスペースを確保する必要があり、その結果、前輪と後輪の距離が離れてしまう。それに対し、クランク合力の方式はバッテリーの搭載位置の自由度が高く、座席より前のフレームや後ろの荷台に取り付けるケースが多い。このため、前輪と後輪の距離を短くでき、欧州で好まれるスポーツタイプのデザインを実現できる。

さらに日本では規制上、モーターによるアシスト力はペダルの踏む力に比例させる必要がある。いわば電動アシスト自転車でも、通常の自転車のように自分でこいでいる感覚が強いが、欧州のルールではそのような必要はなく、「二輪車のような自走感が好まれる」(SPV事業部の円谷祐司主査)。当時の駆動ユニットは制御方法を日本方式にあわせていたため、欧州の人々にとっては、モーターによるアシスト力の凸凹が大きすぎて自走感が少なく、違和感があった。

その結果、自転車メーカーに営業を繰り返したが反応が悪く、採用してくれたのはジャイアント社のみ。数カ月で戦略の練り直しを迫られた。

「我々は『ガラパゴス化』していたと反省し、エンジニアも商品企画も営業も現場を飛び回って、調べまくった」(森本事業部長)。その結果、日本と欧州の電動アシスト自転車に対するデザインや走り心地の好みの違いを痛感する。その反省を生かし、1年以上をかけてクランク合力方式のモーターを開発した。

世界トップ級の軽さ

開発以来、20年の間に培った技術やノウハウの蓄積を生かし、PWシリーズではモーター内に組み込む磁石の大きさや形状、コイルの太さや巻き方などを工夫。世界トップ級の軽さと高性能を実現した。

開発の途上で思わぬ副産物もあった。欧州の好みに合わせて、アシスト力の凹凸感を減らすために、クランクの回転を感知するセンサーの必要性を実感。従来のトルクの大きさと車速を感知するセンサーとあわせた「トリプルセンサー」の開発につながった。今ではトリプルセンサーはPWシリーズの他、日本で販売する電動アシスト自転車にも標準装備する。

歴史的に数々の新しい乗り物の開発に挑戦し、市場を作り上げてきたヤマハ発にとって、電動アシスト自転車は代表的な成功例の一つだ。独ボッシュなど強敵が君臨する欧州市場で、15年には10万台の駆動ユニットの販売を目指す。3度目の正直が実現できるか。パイオニアとしての力量が試されている。

(浜松支局長 漆間泰志)

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