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金「安全資産」の誤解 資金流入、値動き激しく

 市場はいつも気まぐれだ。ここ数年、にわかに脚光を浴びた金もしかり。さっきまで安全資産といわれた金が、気がつけばリスク資産として売られている。金投資の初心者は、豹変(ひょうへん)する市場の見方に戸惑うばかりだろう。果たして金は安全資産なのか。

9月6日のニューヨーク先物市場で一時1トロイオンス1923ドル台(中心限月)の史上最高値を記録した金は、3週間で2割も急落した。

市場には「相場急落で金投資のリスクが表面化した」との声も聞かれる。100ドル以上も値下がりした日もあるのだから当然かもしれない。なぜ、こんなに相場は動くのか。

有事の時こそ輝く

まず、2002年までの300ドル時代から6倍も上がった水準の変化がある(グラフA)。1日100ドルといっても、300ドル時代に引き戻せば15ドルくらいの値動きだ。次に、ヘッジファンドに代表される大規模な投資マネーが金市場に常駐するようになった売買参加者の構造変化がある。

「ヘッジファンドなどは、本来は守備型の金を攻撃型の投資対象として売買している。しかも商品先物市場でも高速自動売買の比率は高いから相場が急変しやすい」(マーケット・ストラテジィ・インスティチュートの亀井幸一郎代表)

「安全資産という表現には前々から違和感があった」と話すのはマーケットアナリストの豊島逸夫氏。「安全」は、株式が企業の経営破綻で"紙切れ同然"になるリスクや、ギリシャ国債のように債務不履行の危機に直面する不安がないという意味だ。

しかし、多くの投資家は安全の2文字を見て値動きもすごく安定しているものと誤解してしまう。

金相場は米国がドルと金の交換をやめてから40年間、変動を繰り返している。一方、金は希少性が高く、ぴかぴかの実物資産だ。世界中どこでも売ってドルなどの通貨に替えられる。

この世に人間がいる限り、どんなことがあっても無価値にはならないだろう。逆に「どんなこと」があればあるほど輝きは増す。そんな金の強みに注目すれば安全資産であり、値動きの方に着目すればリスク資産と映る。

インフレに強く

投資商品としての金には、金利や配当がない弱みもある。それなのになぜ、欧米の年金基金まで金に投資するようになったのか。

調査機関のワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は企業年金連合会の資料をもとに、もし日本の企業年金が資産の3~5%を金に組み替えていたら2000年3月末~11年3月末までの運用はどうだったか、を試算している(グラフB)。

結果は内外の株式から債券まで、いずれも金に替えていた方が運用成績は良かった。株式、債券といった伝統的な運用対象の値動きにほとんど関係なく、金価格は上昇を続けたからだ。

ここで重要なのは、金の「値上がり」より、株などの値動きに「関係ない」ことにある。長期間で見て株や債券と同じように相場が上がったり、下がったりしたらわざわざ金に替える意味はない。

欧米の年金は株や債券を主体に運用しても、インフレや不測の事態に備えて独自の値動きをする金を組み込んでおくわけだ。

WGCの今年3月末までの試算で、価格変動リスクは日本国債などの国内債の方が金よりも小さい。しかし、国内債の中で国債に次いで高いとされた電力債の安全性神話は、東日本大震災で崩れた。大震災は投資家にも「安全」の意味を問いかけた。

分散投資に妙味

個人投資家に機関投資家のような複雑な運用は難しい。それでも長期投資が基本の年金の考え方は参考になる。要は金投資の単品思考から抜けだし、自分の資産の全体像と、もしもの時の金の価値を見いだせるかどうかだ。

日々の値動きが気になり、一喜一憂するのは個人投資家のさがだ。だが、東京海上アセットマネジメント投信の平山賢一チーフファンドマネジャーは「個人運用の目標も、自分と家族が今後必要とするモノやサービスの支出に対し、資産の購買力を落とさないことにあるはずだ」と話す。

例えば、米国に住む人が2000年末から10年間、米国の主要な株式で運用し続けたら配当込みで100ドルの資金は115ドルほどに増えた。ところが、その間に米国でマクドナルドのビックマックは1個2ドル50セントから3ドル60セントまで4割強も値上がりしている。

資産は115ドルに増えても、ビッグマックを買える購買力は10年前の40個から32個まで低下した。

「株で利益が出たように見えても購買力が落ちればその運用は負け。だから資産の一部に将来の物価上昇などに負けにくいパーツを入れる意義がある」(平山氏)。金投資の本質は見かけの値上がりでなく、資産価値の安定効果にある。(編集委員 志田富雄)

[日本経済新聞朝刊2011年11月9日付]

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