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ソチ五輪、フィギュア日本勢のライバルは

フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズは6戦を終え、残すはGPファイナル(12月5~7日、福岡)のみとなった。男子は世界王者のパトリック・チャン(22、カナダ)が世界歴代最高得点をたたき出す圧倒的な強さを見せ、女子はファイナル進出6人のうち4人がロシア勢と新風を巻き起こしている。ソチ五輪で日本のメダル争いのライバルとなる海外勢を分析していきたい。

男子、チャンが金メダル最有力

ソチ五輪の男子の金メダル最有力候補は、やはり世界選手権3連覇中のチャンとみていいだろう。GP第5戦のフランス杯では、これまでのチャンの滑りの中でも一番といえるほどの圧巻の演技を見せた。ショートプログラム(SP)で98.52点、フリーでは196.75点、合計は295.27点と、それぞれ自身の持つ世界歴代最高得点を更新する驚異的なスコアをマークした。

これまで数々の名スケーターを見てきたが、スケーティング技術については、歴代のスケーターの中でもトップクラス、いや一番といってもいいかもしれない。チャンはよどみのない流れのある滑りが最大の特徴で、それでいて体全体をつかったダイナミックな動きもできる。チャンの滑りにはぎこちなさはなく、力強く美しい。プログラム全体にリズムと流れがある。体力も技術も高いレベルでなければ到底できないことだが、それを完全にこなしている。

自身をコントロールする術も

彼はジュニア時代からフットワークが巧みで、エッジ(刃)の使い方がクリーンで深い。エッジは深くなる(氷に対してエッジが鋭角になる)ほど振られることが多くなり、次の動作に入りづらくなるものだが、きちんと滑りをコントロールできる。スケートの基礎がしっかりしている証しだ。チャンはシーズン初めにはけっこうミスが多いが、世界選手権など肝心な試合では力を発揮してきっちりと結果を残す。自分自身をコントロールする術を持っている。フィジカル面でも力強さを増し、さらにレベルアップしている印象がある。

昨季の欧州選手権を制したフェルナンデスはメダル争いに絡んできそうだ

フェルナンデスにはジャンプの才能

メダル争いには、昨季の欧州選手権を制したハビエル・フェルナンデス(22、スペイン)も絡んでくるはずだ。GPシリーズは不振でファイナル進出も逃したが、ジャンプの才能は目を見張るものがある。世界で4回転ジャンプの成功率が最も高い選手の一人だろう。

滑りに伸びがなく、スケーティング技術はまだまだといったところだが、プログラムでは明るく、コミカルなキャラクターを前面に出して、欠点をうまくカバーしている。だから技術点だけでなく、演技構成点でも安定した評価が得られる。力のある選手だから五輪本番までには、しっかりと立て直してくるはずだ。

着実に力をつけているのが、ファイナル進出を決めた閻涵(17、中国)だ。ジャンプもそうだが、何よりよくなったのがプログラム。レベルが高い、ローリー・ニコル氏のプログラムをきちんと消化できるようになり、自分のものにしつつある。五輪ではダークホース的な存在になるのではないか。

コフトゥン、ロシアの新エースに

同じくファイナルに駒を進めたマキシム・コフトゥン(18、ロシア)も怖い存在だ。リズムよくジャンプを跳び、GPロシア杯ではSPで4回転ジャンプを2度決めたように素質は高いものがある。きちんとした技術を持っていて、非常に難しいプログラムを滑る。ロシアの新しいエースとなるはずだ。フリーになると、全体をコントロールする力がまだ足りない気もするが、上位を脅かす一人には違いない。また、2006年トリノ五輪金メダリストで実力者のエフゲニー・プルシェンコ(31、ロシア)は腰の手術をして実戦が積めていないが、要注目だ。

4回転ジャンパーのケビン・レイノルズ(23、カナダ)も、上位がミスをすれば割って入る実力がある。昨季の四大陸選手権では完璧な演技を見せ、フリーで3度の4回転ジャンプを成功させて優勝した。ジュニア時代はミスが目立っていたが、この2年で急成長を遂げている。今季は出遅れているが、昨季の世界選手権銀メダリストのデニス・テン(20、カザフスタン)にも注目したい。滑りがとても美しい正統派のスケーターで、技術面もメンタル面も一皮むけた感がある。

日本男子は代表争いが激しいが、チャンに勝てる力があるのが高橋大輔(27、関大大学院)か。スケーティング技術はチャンと双璧で、演技構成点も高く、総合力がある。問題はジャンプだ。4回転をクリーンに決めればチャンに対抗できるプログラムとなっている。羽生結弦(18、ANA)も持っている力を出し切れば、チャンスは十分ある。今季安定した成績を残している織田信成(26、関大大学院)、町田樹(23、関大)にも期待がかかる。

新世代の躍進が目立つロシアの女子選手でソトニコワの完成度が最も高い

女子、ロシア勢の新世代躍進

女子はGPシリーズでロシアの新世代の躍進が目立った。ファイナルには、アデリナ・ソトニコワ(17)、ユリア・リプニツカヤ(15)、アンナ・ポゴリラヤ(15)、エレーナ・ラジオノワ(14)の実に4人が進むのだから驚くしかない。

ロシアはソ連が崩壊した後、国のバックアップがなくなり、指導体制が崩れた。コーチはそれぞれ生活のために米国や欧州に行って指導していたが、ソチ五輪が決まったあたりからロシアに呼び戻され、現在は指導体制がきちんと確立されている。その成果が出たといえる。

現在のロシアのコーチ陣で感心させられるのが、スピンを重視して指導しているように見える点だ。プログラムの中で、ジャンプは高い得点が取れる代わりに、転倒や回転不足などマイナスの要素も大きい。ところがスピンはきちんと演技をすれば、出来栄えでマイナスになることはない。高い柔軟性から繰り出されるリプニツカヤの「キャンドルスピン」に代表されるように、ロシアの若手はスピンが素晴らしく、得点源となっている。

ソトニコワ、完成度最も高く

ロシアの若手は、いま滑ることが楽しくて仕方ないのではないか。「負けたらどうしよう」「失敗したらどうしよう」などと考えることもなく伸び伸びと滑っていると思う。怖いもの知らずの勢いがある。中でも、完成度が一番高いと思うのがソトニコワだ。ジュニアから上がってきたときは注目されたが、その後は伸び悩んだ。ただ、大人の滑りができるようになり、着実に力がついてきている。全体のバランスが取れていて、表現力も高く、殻を破った感じがある。ラジオノワは年齢制限のため、今回のソチ五輪には出場できないが、浅田真央(23、中京大)をほうふつとさせ、将来が有望だ。

コストナー、精神面の成長も

米国勢で注目されるのは全米選手権2連覇中のアシュリー・ワグナー(22)。技術面や表現力など非常にバランスがよく、完成度が高い。コンスタントに結果も残している。また、伸び盛りのグレイシー・ゴールド(18)は試合に出るだけで周囲はパッと明るくなるし、華もある。ジャンプも思い切りがよく、ダイナミック。細かい動きなど、伸びしろが多く楽しみな存在だ。

元世界女王のカロリーナ・コストナー(26、イタリア)もメダルに絡んでくるだろう。スポーツカーのようにスピード感のあるジャンプに加え、プログラムの表現力が素晴らしくよくなった。以前は弱かった精神面の成長も感じさせる。ミスが多い点が気がかりだが、もともと技術は高い。あとはコンディションをきちんと整えられるかどうかだ。

金妍児と浅田の戦い、再び?

そして、金メダルの争いは再び浅田と、2010年バンクーバー五輪女王の金妍児(23、韓国)の戦いになるのかもしれない。金妍児は今季は右足を負傷してGPシリーズを欠場、12月上旬に復帰戦を行うため依然ベールに包まれたままだが、昨季の世界選手権で貫禄の優勝を果たしたように実力は折り紙つきである。

彼女の一番の武器は、演技の一つ一つの質の高さだ。3回転―3回転などのジャンプは質がいいから、必ずプラス評価となり、出来栄えで大きな加点を得られる。演技全体をみてもマイナス要素は見当たらない。一方、浅田はルッツジャンプを苦にしていたが、最近は改善されていて、着実にレベルアップしている。五輪本番まで目が離せない戦いが続く。

(日本スケート連盟名誉レフェリー)

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