「安全より効率優先」 京大医療事故で報告書
京都大病院で昨年11月、脳死肝移植を受けた50代の男性患者が医療器具の装着ミスで死亡した事故で、京大の調査委員会は26日までに報告書をまとめた。事故の背景には「安全より診療科の縦割り体制と診療の効率性が優先される未成熟な組織文化があった」として、病院の体質を批判した。
委員会は外部の専門家らを交えて構成。医師の教育不足や物品管理体制の不備、過去の医療事故の教訓が生かされていない点のほか、医師と看護師の確認不足も原因と指摘した。
病院によると、男性は昨年11月5日に移植手術を受けた。12日夜に透析器具を交換した際、医師が間違って、血液ろ過器ではなく、血漿(けっしょう)分離器を装着。交換ミスに気付かないまま、男性は約15時間後に死亡した。器具は医師の依頼を受けた看護師が用意した。
報告書によると、当時、形が似ている血液ろ過器と血漿分離器が棚に並び、内容が一見して分かるラベルもなかった。
看護師は棚にはろ過器しかないと認識、装着した当直の医師2人は、器具の扱いの知識や経験が不足し、3人の間で確認作業も一切なかった。
夜間や休日は、臨床工学技士ではなく医師が器具を扱うが、事故があった肝胆膵(すい)・移植外科の医師31人中、確実に扱えたのは7人だけだった。
京大病院では2000年、精製水とエタノールを取り違え患者が死亡する事故が発生。報告書は「当時の原因分析や再発防止策が不十分で、病院の体質が変わらず、今回の事故に影響した可能性を否めない」とした。
京大は、手術自体に問題がなかったとして、移植を続けたが、報告書は「一時的に移植を中止し、体制の問題を解決してから再開すべきだった」と指摘した。〔共同〕