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実は日本近辺にしかいない ヒヨドリの不思議

この惑星は命にあふれている。そして命は生から死に至るまでドラマに満ちている。動物であれば、雌雄の出会いがなければ子孫を残せないから、雌雄のドラマもある。鳥たちには渡りというドラマもあり、秋は渡りの季節だ。

ヒヨドリはグレーを基調とした地味な羽色だが、頬には赤茶色の模様がある=写真 石田光史

多くの野鳥 実は「鳥目」ではない

夏鳥は南に去り、冬鳥が北国から飛来するこの時期、至る所で鳥が渡っているが、その場面を目にすることは少ない。野鳥は「鳥目」ではなく、多くは夜に渡るからだ。参考までに、「夜に見えない」という意味の鳥目という言葉は、飼育下の鶏などが元になっていると思われる。

渡る鳥たちは悪天候で命を落とすこともあるが、タカやハヤブサなど天敵の襲来も避けなくてはならない。それには夜がよい。鳥の体は羽ばたき続けても体温が上昇しにくいようなラジエーター機能を備えているとはいえ、太陽を背にして長距離を飛び続けるのは厳しいこともあるだろう。

例外として、明るい時間帯に渡るのは、ツルやハクチョウのような大型で気流に乗れる鳥たち、ツバメのように飛行力に優れ、飛びながら採食ができる鳥たちだ。ヒヨドリ、カケス、メジロなども例外組で、朝に街の中でも渡りに出会える。

多くの鳥は星空に飛び立ち、暗い間は飛び続ける。日が昇る頃に一端降りて採食と休息をしながら夜を待つ。これを繰り返し、何千キロに及ぶ距離を移動するのだが、ヒヨドリなどはそれほどの長距離移動はしないようだ。早朝に飛び立ち、日が高くなると降りる――を短期間繰り返す程度だと思われる。

渡るヒヨドリの群れ。天気がよい日の早朝から午前9時ごろまで、南や西に飛ぶことが多い=写真 石田光史

命がけで海を飛ぶ鳥

ヒヨドリは9月下旬から10月中旬にかけて、数羽から200羽ほどの群れで西や南に飛んでいく。スズメとハトの中間サイズで、グレーを基調にした羽色だが、遠くを飛んでいると小さく黒くしか見えない。「ヒヨ、ヒーヨ」という声と、波を描くように上下する飛び方に気をつけているとわかるだろう。

ヒヨドリはスズメやカラスがいない島々にも分布しており、日本で最も広く見られる鳥といえる一方、日本列島周辺にしかいない。「どこのヒヨドリがどこまで移動するのか」はよくわかっていないが、外国のバードウォッチャーにとっては珍しい鳥であることは間違いない。

秋空を移動するヒヨドリに出会うと、「がんばれ」と声をかけたくなり、場所によっては泣けてくる。北海道の室蘭、愛知県の伊良湖岬、鹿児島県の佐多岬などの渡りの名所では、海に飛び出す群れが見られる。彼らは海に出た途端に高度を下げ、波をかぶるすれすれを飛んでいく。

木の実を食べるヒヨドリ。実は丸呑みして、種子は糞で出す=写真 石田光史

波にのまれるものすらいるのに、なぜ低く飛ぶのか――。それは海岸でハヤブサが待機しているからだ。ハヤブサは急降下で鳥を狩るので、低い高度を維持できないヒヨドリはハヤブサの餌食になる。湖上を飛ぶマガモに急降下をしたハヤブサがすんでのところでかわされ、湖面に突っ込んで死んだという話を聞いたことがあるので、ともに命がけなのだと思う。

小鳥と木の実の関係

秋の話題として、小鳥と木の実の関係も記しておきたい。どうして秋に色づく実が多いのだろう。私たちは哺乳類の例外としてさまざまな色が認識できるが、鳥は人以上に色覚に優れている。色づく実は鳥を呼んでいるのだ。

小鳥の多くはヒヨドリのように細いくちばしをしている。春夏は主に虫をつまんで食べているが、虫が減る秋以降は木の実を食べるようになる。細いくちばしでは実の中の硬い種子を割ることができないので、実を丸のみして、種子はフンで排出される。これは動けない植物が種子を散布するための戦略といえる。色づいた実は小鳥が飲み込みやすいサイズ、形になっているはずだ。

(日本野鳥の会主席研究員 安西英明)

 安西英明(あんざい・ひであき) 1956年生まれ。日本野鳥の会が81年、日本初のバードサンクチュアリに指定したウトナイ湖(北海道苫小牧市)にチーフレンジャーとして赴任。野鳥や環境教育をテーマとした講演で全国各地を巡る。著書に「スズメの少子化 カラスのいじめ」など。

※「生きものがたり」では日本経済新聞土曜夕刊の連載「野のしらべ」(社会面)と連動し、様々な生きものの四季折々の表情や人の暮らしとのかかわりを紹介します。

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