緩いカーブなぜ脱線 スイス列車事故、究明難航も
【ジュネーブ=藤田剛】23日にスイス南部のバレー州で観光列車「氷河特急」が脱線・転覆した事故から一夜明けた24日、現場では、事故原因の究明に向けて本格的な調査が始まった。事故現場は緩やかなカーブだが、急峻(きゅうしゅん)な山岳地をぬうように走る氷河特急にとっては難所とは言い難い場所。地元警察は「原因は不明」と繰り返しており、調査は難航する可能性が高い。
スイス政府の事故調査委員会の専門家が現地入りし、地元警察と協力して原因究明に当たっている。専門家は「現場は起伏のある場所ではなく、地崩れも起こっていない」と分析。事故以前に現場付近で線路の補修工事をしていたとの情報があり、当局は詳細を調査しているもようだ。
ただ、鉄道会社は「工事と事故は全く無関係」と主張している。一方、地元紙はこの数日は寒暖の差が激しく、気温の急激な変動でレールにゆがみが生じた可能性を指摘した。
氷河特急は運行開始から80年の歴史を持ち、年間25万人の乗客を運ぶが、これまで大規模な事故は起きていない。地元紙は車軸が破損した可能性にも言及しているが、鉄道会社は「脱線・転覆した列車は2~3年前に製造されたもの」と反論。老朽化が原因とは考えにくいとの見解を示している。
地元警察は24日午前(日本時間同日夜)の会見で「列車はスピードを上げずに走っていた」と断定し、速度超過は原因ではないと説明した。ただ、「事故原因は数週間かけて調査する」と述べ、短時間で結論は出ないとの認識を示した。
日本政府のジュネーブ出張駐在官事務所によると、日本人の負傷者は38人で、うち10人は現場で治療を受け、残りの28人が病院に搬送されたという。
事故現場は小さな橋の手前で、脱線しなかった前の車両は橋を渡りきって停止した。橋の上で脱線していたら、車両ごと谷に転落し、さらに大きな被害が出ていた公算が大きい。
スイスは九州ほどの国土に総延長3万キロメートルの線路が敷かれている「鉄道王国」。ダイヤは日本並みに正確で、トラブルも比較的少ない。