「鯨歯工芸」が存続の危機 捕鯨禁止で材料入手できず
国際捕鯨委員会(IWC)で日本の沿岸捕鯨再開などが焦点となる中、捕鯨基地の鮎川(宮城県石巻市)では、日本に数少ない伝統の「鯨歯工芸」が存続の危機にひんしている。材料のマッコウクジラの歯が入手できないためで、父親の代から続く職人の千々松行隆さん(81)は「このままでは技術が途絶えてしまう」と嘆いている。
「ほら、きれいなつやが出るでしょ」。千々松さんが五百円玉ほどの大きさに切った歯を機械で磨くと、クリーム色の光沢が現れた。
鯨歯は、たばこのパイプや印鑑、アクセサリーなどに加工され、長寿を呼ぶ縁起物として珍重される。象牙より硬く、加工には高度な技術が必要だ。「大戦中に朝鮮半島へ出荷したり、芸能人がお忍びで買いに来たり。良い時代もあった」と千々松さん。
マッコウクジラの歯は水産会社などから購入できたが、1988年にほかの鯨とともに商業捕鯨が禁止され、供給がストップ。千々松さんの店も、20年以上前にそろえた材料を小出しに使うが、在庫は減るばかり。
今も全国から寄せられる購入希望を次男とともにこなすが「材料は息子の代までしか持たない。店はおしまいだ」と無念さをにじませる。
今回のIWCはミンククジラの取り扱いが議論の焦点で、議長・副議長提案ではマッコウクジラの捕獲枠はゼロ。千々松さんは「沿岸捕鯨の再開で、まずは鮎川に活気が戻ってほしい。そしていつかマッコウを捕れる日が来れば」と望みをつないでいる。〔共同〕