鎖国状態に近いところも 学生段階で海外へ 杉本慶子・理化学研究所 細胞機能研究チームリーダー
大学開国インタビュー(7)

2013/1/22 2:00
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 グローバル化が加速する時代に、大学はどう変わるべきなのか――。日本経済新聞朝刊1面の連載企画「大学開国」は、東京大学の秋入学構想をきっかけに本格化した大学改革のうねりとその深層をとらえてきた。第6部「改革への提言」の連載に合わせて、大学のトップや各界の有識者にインタビューし、改革のキーポイントを指摘してもらった。

理化学研究所で植物細胞の研究チームを率いる杉本慶子氏は、大学院時代にオーストラリアに留学して博士号を取得し、英国の研究所でキャリアを積んだ。海外経験を通して見た日本の大学の問題点を聞いた。

――日本の大学をどうみるか

杉本慶子・理研植物科学研究センター細胞機能研究チームリーダー

杉本慶子・理研植物科学研究センター細胞機能研究チームリーダー

「頑張っている大学もあるが、鎖国状態に近いところもあると思う。国内トップクラスの大学でも、グローバルなセンスを持った学生が育ちにくい教育になっている。研究室が教員の城になり、代々の伝統を守ることが目的になっていることすらあるのではないか」

「欧米には一人前の研究者を育てるためのカリキュラムができている大学が多い。博士課程の学生は、プレゼンテーションや論文執筆のトレーニングを研究室の指導教官以外の専任教員から受けている。日本の大学は多くの場合、配属された研究室で研究に専念することが求められ、こうしたスキルを習得する機会が十分にない。学生が海外との研究交流を進めるプログラムもあるが、まだ十分とは言えない」

――どこに問題があるのか

「この数十年で大学に求められるものは大きく変わり、著しく多様化しているが、事務などのサポート体制はまだまだ乏しい。今は世界から学生を受け入れ、先端レベルの研究をし、一般の人に成果を分かりやすく伝えるなど、いろんなことが必要だ。しかし留学生のアパート探しから研究成果を売り込む記事の執筆、特許の出願や管理、研究室の掃除当番決めまで教授がしている」

「それにもかかわらず規則でがんじがらめで、世界スタンダードを目指してシステムを変えるのは難しい。結局、教員が全てを抱え込んでいるのが現状ではないか。大学教員は非常に頑張っているが、限界がある。研究にも教育にもしわ寄せが来ていると思う」

――若手研究者にそうした感覚はあるか

「ほとんど持っていないのが問題だ。それは外を見たことがないのが一因だと思う。一流を目指すなら学生の段階で海外に出るべきだ。効率良く動いているシステムを見てこないと、どうしたらいいか分からない。足りないのは流動性だ。伝統ある国立大などは自校出身者でないと教授になれないことが今でもある。それでは若手が海外に出たいとは思わないだろう。サイエンスは今、巨大化、複雑化している。自国、他国を問わず、異分野の人と一緒に研究を進めないと面白いことが見つからなくなってきている。また世界的な研究のネットワークに加わって最先端の動向を把握していかないと、日本のサイエンスは今後通用しなくなるのではないか」

――教え子の留学を嫌がる教員もいる

「ボーダーレスな世の中で一流を目指すなら舞台は世界になる。私のチームでも、全員を海外の大学や研究所に少なくとも数カ月、出来れば数年は行かせようとしている。直近の研究はスローダウンすることもあるが、彼らの将来を考える。効果はてきめんだ。ダイバーシティー(多様性)を理解するのが大きい。日本にいると均一な思考になりがちだが、多様な考え方があり、自分はその一つと理解することで、柔軟な発想ができる。自分で考え、自分を持つようにもなる。海外では自分の意見、さらに日本人を代表しての意見を求められる」

――女性が大学の研究の場で活躍できるようにするには

「もっと効率的に仕事をする職場環境が必要だ。私は英国で産休中にパートを雇い、研究を続けられる資金も出た。理研には既にこういうプログラムが動いているが、大学でも是非始めてほしい。出産を機に辞めるという選択肢は全くない。欧米で一般的なパートナープログラムもあれば良いと思う。夫婦が研究者で、1人が大学などに採用されると、もう1人も採用するという仕組みだ。日本は単身赴任の比率が高いが、家族の負担も大きい。子育てにも響くし、海外出張がままならないといったことで研究にも支障が出る」

――国はどんな役割を果たすべきか

「大学は自分からなかなか変われない。資金面でも、国の支援は重要なカギだ。日本人は研究者としての資質は非常に高い。留学の促進や女性研究者の登用など、政府主導で資金を投じれば一気に状況が改善する可能性がある」

 杉本慶子氏(すぎもと・けいこ)1993年国際基督教大卒、大阪大大学院で修士号。オーストラリア国立大大学院に留学し、2000年に同大で博士号を取得。同年から英国の研究所ジョンイネスセンターに移り、植物細胞のサイズ制御に関する遺伝学的研究に従事した。07年7月から現職。41歳。
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「大学開国」インタビュー

1面企画「大学開国」

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