2019年9月22日(日)

元枚方市長名誉毀損訴訟 本社の考え方 「取材源秘匿」は一貫

2012/9/27付
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大阪府枚方市の中司宏元市長(56)が談合事件に関する記事で名誉を傷つけられたとして、日本経済新聞社に損害賠償を求めた訴訟の控訴審弁論が26日、大阪高裁で開かれ、審理は終結しました。この訴訟で、本社は大阪地検検事正、次席検事の取材メモを証拠として提出しました。一審・大阪地裁判決がこの証拠に言及したのを受けて「日経が取材源を秘匿しなかった」など様々な意見が表明されています。本社は今回の訴訟を巡るメモの提出は適切だったと考えています。

その理由を説明します。

取材源の秘匿は、正確な情報を入手し国民の知る権利を実現するために、取材協力者や情報提供者を保護する報道機関が守るべき職業倫理であることは言うまでもありません。その重要性について本社は十分に認識しています。

その一方で、名誉毀損訴訟などで記事の内容に疑問が投げかけられた際、記事を掲載するに当たりどのような取材をし、記事にできると確信するに至ったのか、その過程を明らかにすることは報道機関の果たすべき役割だと考えています。

実際に訴訟になった場合、報道機関は秘匿すべき取材源を不利益から守るとともに、記事が公共の利害に関することであって(公共性)、公益を図ることが目的で(公益性)、真実であること、または真実であると信じるに足りる相当の理由があること(真実性、真実相当性)を立証することが求められます。

とりわけ真実性、真実相当性の立証では、問題となった記事をどう取材、執筆したのか説明しなければなりません。取材源の秘匿と真実性の証明について、どう折り合いをつけるかが課題となるのです。

本社は取材源の秘匿の原則を堅持しながらも、その範囲については個別に判断すべきだと考えます。

今回の訴訟で真実性の証明に当たり、本社は取材源についてどこまでを明らかにし、また秘匿するのかを検討しました。明らかにすることで取材源がどのような不利益を被るのか、取材源から得た情報の重要性、機密性はどの程度かなどを考慮しました。

その結果、(1)取材メモにあるやり取りは、本社が独自入手した情報の確認にとどまり、これとは別の新事実が明かされたものではない(2)記事掲載から3年が経過し、捜査はすでに終結している(3)本社は地検幹部2人について、夜回りなどすべての取材に対応する窓口あるいは広報責任者と認識している――ことから、開示によって取材源が不利益を被ったり、将来的な取材活動に影響したりすることはないと判断しました。

他方、地検幹部に確認した独自情報の取材源は保護が必要と判断し、開示しませんでした。

本社は今後も、名誉毀損訴訟における真実性の証明についてはその都度、社内で検討し、判断していきます。

元東京高裁判事で名誉毀損訴訟に詳しい鬼頭季郎弁護士の話 名誉毀損訴訟では、記者・報道機関に情報源の秘匿が認められても、真実性や真実相当性の立証責任は軽減されない。こうした裁判実務に照らすと、情報源の秘密を守ることと報道の信頼性を守ることを比較考量し、説明責任を果たすために情報源を開示することは、報道機関の判断としてあり得る。

取材源の秘匿は、取材者と情報提供者との一対一の関係において報道機関が守る倫理であり、秘匿するかどうかは、情報提供者の社会的立場、情報提供のされ方、提供された情報の内容など個別的事情に応じて、それぞれの報道機関が自主的に判断すべきだ。国民の知る権利に資する各社共通のルールとして論ずると、法的義務論につながりかねず、報道機関の自主性を損ねるおそれがある。

日欧のメディア法制に詳しい曽我部真裕・京都大大学院准教授(憲法)の話 日本の名誉毀損訴訟では、真実相当性の立証責任はメディアにあり、メディアは取材源の秘匿の原則を守りつつ立証を行うという困難を抱えている。しかし、真実相当性に対する裁判所の認定基準は厳しく、裁判所が取材源の秘匿の意義や報道の自由に配慮することも必要だ。

名誉毀損訴訟で取材源を秘匿すべきかどうかは、取材源が被る不利益と報道機関側が受ける中長期的な取材活動への影響を併せて考える必要がある。ただし開示に際しては本人の許諾が必ず要るわけではない。日経新聞が今回、取材メモを開示した検事正と次席は、秘匿すべき内部告発者などとは異なる。

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