2018年5月21日(月)

宮城沿岸、海岸林再生へ農家奔走 10年がかりで苗木作り

2012/1/5 13:40
保存
共有
印刷
その他

 東日本大震災の津波で失われた海岸林を数十年かけても再生しようと、宮城県沿岸部の農家がクロマツの苗木作りの準備を進めている。海岸林は海からの潮風や砂を防ぐ重要な役割を担うが、同県内全域での再生には約600万本が必要とされる苗木が圧倒的に足りないためだ。1~3年かかる苗木生産に少しでも早く取りかかり、農業の再建につなげようと意気込んでいる。

津波で横倒しになった海岸の松林(昨年12月10日、仙台市宮城野区)

 「時間がかかっても松林を復活させたい」。宮城県名取市の農家、高梨仁さん(62)は力を込める。海岸線と平行する幅約200メートルの松林は津波でほぼ全滅。海から数百メートルの農地に潮風が吹き付ける。

 高梨さんは津波で自宅を流され、チンゲンサイなどをハウス栽培していた農地も海水に浸り使えなくなった。近所の農家2人と市内の内陸部の土地を借りて農業を再開するとともに、環境保全活動などを行う非政府組織(NGO)のオイスカ(東京)から資金援助などを受け、クロマツの苗木を生産することを決めた。

 松食い虫にも強い苗木の育て方を学ぶため県の生産施設の視察のほか、生産事業者として県への登録に必要な講習も受講した。種まきから苗木を育てるまで1~3年はかかるが、農地を借りるなどして計約1.2ヘクタールの畑を確保する見通しも立てた。今年は5千本を育て、10年がかりで、以後は年間1万~3万本を生産する計画だ。

 高梨さんが自ら生産することを決めた背景には松の苗木の不足がある。松食い虫の対策を施したクロマツやアカマツの苗木の生産量は西日本を中心に2008年度、全国で計約83万本。東北では唯一、宮城県林業技術総合センター(大衡村)が12年度からの生産体制を整えたばかりだ。

 県によると、県内で失われた約1750ヘクタールの松林の再生には約600万本が必要。一方、同センターの供給量は今後10年間で最大320万本にすぎない。このほか県内で林業種苗法に基づき登録された生産者は17人だけで、同センターの担当者は「絶対的に苗木が足りず、民間で育成が進むのはありがたい」と話す。

 ただ海岸林としての機能を発揮する高さ15~20メートルに育つには20~30年かかるといい、沿岸部の住民の心配は大きい。

 海から約3キロの名取市の農家、大友英雄さん(62)は「風が強くなり、以前はなかった潮のにおいが時折する。塩害で野菜の生育に影響が出るかもしれない」と危惧。仙台市若林区の海岸から約100メートルの自宅を流された会社員、中島京子さん(44)も「元の場所では家や車もさびてしまうのではないか」と、海岸林の必要性を訴える。

 松林の土盛りが津波の襲来をわずかに遅らせたために間一髪で逃げ切ったという高梨さん。「農作物や命を守ってきた松林。子供や孫のためにも何とかしたい」と強調している。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ

関連キーワード



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報