映画館、音楽家と被災者結ぶ(震災取材ブログ)
@福島・南相馬

2012/7/27 7:00
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福島県南相馬市の中心部に「朝日座」という古い映画館の建物がある。1923年に建てられ、ピーク時は年間20万人を動員したが、映画産業の斜陽化とともに91年閉館。東日本大震災の揺れにも耐え、震災後は不定期のイベントに利用されている。

七尾旅人さん(右)の弾き語りは手が届きそうな親密な距離で行われた(7月1日、朝日座)

七尾旅人さん(右)の弾き語りは手が届きそうな親密な距離で行われた(7月1日、朝日座)

今月上旬、ドキュメンタリー映画「プロジェクトFUKUSHIMA!」の上映会が開かれた。県内外の音楽家たちが昨年8月、福島を元気づけようと福島市で野外イベントをゼロから作り上げた。その過程を丹念に記録したフィルムだ。

上映後、1本のギターを手に、シンガーソングライターの七尾旅人さん(32)がステージに上がった。福島第1原子力発電所の事故直後に福島を訪れ、作ったという「圏内の歌」。声高に反原発を主張するでも、ことさらに悲惨さを訴えるでもなく、放射能とともに生きるということについて淡々と歌う。透き通った七尾さんの声が天井の高い館内に響き渡った。

七尾さんは震災後、南相馬を4回訪れた。何人かの友人ができた南相馬を「福島市ともいわき市とも違う特別な場所」と説明する。「それなのに東京から見ていると放置されている気がする。南相馬を発信するために手伝えることがあれば手伝いたい」

告知の遅れからか、この日の観客はわずか20人余り。手を伸ばせば届く距離での弾き語りは、2時間余りがあっという間に感じられるぜいたくな時間だった。観客がパートに分かれて発声し、七尾さんが即興でメロディーを付ける一幕も。不思議な温かみのあるライブになった。

この日を楽しみにしていたという市内在住の平井洋介さん(31)は「こんなに近くで見られるとは思わなかった」と笑顔を見せながらも「行列ができるかと思っていたのに、この町に若い人が減っているからかな……」と、観客の少なさを気にかけた。

震災後、市民の大半は一時避難を余儀なくされ、かつての同級生の多くはそのまま町を去った。自身も妻の裕実(26)さんの実家がある広島に移り住もうか迷っている。

「人生はおまえが見た映画とは違う。人生はもっと困難なものだ」。朝日座の館内に、映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のセリフを引用した張り紙がある。確かに人生は映画より困難だ。特に南相馬の人たちにとって、この1年4カ月余りは。

だが、ときに映画や音楽は、人生に前向きな力をくれる。人と人を自然に結びつける力も。この古い小さな映画館が、これからも立ち上がろうとする南相馬の人たちを元気づけ、遠方に住む人たちの目を南相馬に向けさせる「装置」として機能していくことを願う。

もし興味と機会があれば、朝日座を訪れてみてほしい。過去には映画のロケも行われた映画館で、手作りのぬくもりにあふれたイベントを味わえるはずだ。(山田薫)

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