「書聖」王羲之の写し、国内で発見
唐代に制作か
「書聖」と呼ばれる4世紀の中国・東晋時代の書家、王羲之(おうぎし)の書の精巧な写しが8日までに見つかった。東京都台東区の東京国立博物館が鑑定した。筆遣いや文面などから、7~8世紀の唐代に宮中で制作されたものの一部とみられる。王羲之の真筆は発見されていないため、その書風の解明に役立つ貴重な資料となりそうだ。
王羲之の字姿を伝える精巧な写しの発見は「妹至帖(まいしじょう)」以来、40年ぶり。縦25.7センチ、横10.1センチの紙に、3行にわたり24文字で書かれ、手紙の一部とみられる。国内で個人が所蔵していることが分かり、昨秋から中国書道史が専門の富田淳・同館列品管理課長が鑑定していた。冒頭の文字を取り、富田課長らが「大報帖(たいほうじょう)」と命名した。
王羲之の写しと判断した根拠は(1)写した文字の輪郭の内側を墨でうめる「双鉤填墨(そうこうてんぼく)」という高度な手法で書かれている(2)王羲之の息子「期」らの名前や、よく用いた表現「日弊」がある(3)「妹至帖」などに字姿がよく似ている――としている。
内容は「(便)大報期転呈也 知/不快 当由情感如佳 吾/日弊 為爾解日耳」と読み取れる。これは「大(親類の名)に関する知らせは期が連絡してきました。ご不快のご様子。心の赴くまま情感に従うのがよろしいかと存じます。私は日々疲れております。あなたのために日々を過ごしているだけです」と解釈できる。
紙は、縦に線のある縦簾紙(じゅうれんし)。幕末から明治にかけての古筆鑑定の権威、古筆了仲(こひつりょうちゅう)が「小野道風朝臣(おののみちかぜあそん)」筆と鑑定した紙が付されていた。同館によると、遣唐使らがもたらしたとみられるという。
22日から同館で開かれる特別展「書聖 王羲之」で初公開される。
▼王羲之(303~361年、諸説あり) 中国・東晋の書家。楷書、行書、草書を芸術的な書体へと完成させ、古今第一の書家として「書聖」と称された。優雅で力強い書風は、唐の太宗皇帝など歴代皇帝が愛好。353年に揮毫(きごう)した詩集の序文「蘭亭序」が最高傑作とされる。作品の多くは宮中に収集された後、戦乱などで失われ、真跡は残っていない。貴族出身で地方長官なども務めた。子の献之も書家で父と並び「二王」と呼ばれた。日本には奈良時代に伝わり、和様の書風に影響を与えた。〔共同〕
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