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みかんを食べるブリ 「養殖魚の王」新時代

立春を過ぎたとはいえ、寒さが厳しいこの時期、脂ののった寒ブリがおいしい。魚は産卵に備えて栄養を蓄える。ブリの産卵期は2月から。主産卵場の東シナ海を目指して南下してくる。大きく成長するほど、そして北に回遊するほど、脂がのるといい、北海道まで回遊してたっぷり餌を食べた4、5歳のブリの脂肪含有量はマグロのトロ並みの25%にもなる。

ブリの養殖は80年前から

ブリの群泳=魚津水族館提供

ブリは養殖のもっとも盛んな魚で、海面養殖される魚類のほぼ3分の2を占め、「養殖魚の王」といえる。養殖の歴史も古く、80年余り前に香川県で始まった。養殖は、春先から初夏にかけて、海面を漂う海藻につく稚魚のモジャコを捕まえて、網イケスの中で育てる。

私の学生時代、モジャコの餌付けを実習したことがある。鹿児島湾の南端に近い山川港で、採捕されて間もないモジャコに餌をやるのだ。毎朝6時前には最初の餌を与え、夕方までに数回給餌する。朝寝・夜更かしが身に染みた学生にはつらい実習であったが、海で魚を育てるには人間の都合でなく、魚の都合に合わせるのが肝心だと学んだ貴重な体験であった。

水族館でマグロやカツオがまだ飼育できなかった時代、ブリは遊泳性魚類の代表であった。1964年に大分マリーンパレスに登場した水路型の回遊水槽は、それまでの小型水槽では目にすることのできなかった、ブリが流れるように泳ぐ姿を見ることができ、多くの人を魅了した。

魚津漁協でセリにかけられるブリ。紙の数字は体重キログラム=魚津水族館提供

その後、魚類の飼育技術が発展し、寿司屋や割烹(かっぽう)料理店の店先に備え付けられたアクリル水槽で海水魚が飼育されるようになると、飼育が比較的容易なブリ(ハマチ)はどこでも見られるようになり、水族館でブリを見る機会は減っていった。

最近、世界的に魚の消費量が増加し、魚類資源の減少が心配されている。環境の悪化と魚のとりすぎが原因といわれているが、ブリはこの10年間、資源状態は健全で、漁獲量は1割ほど伸びている。マグロやサケなど主要な水産対象魚の中で、資源が増加しているのはブリだけだという。

大水槽を遊泳するブリ=魚津水族館提供

また最近は、環境に配慮して生産された商品を選ぶのに、消費者が見てすぐに分かる「エコラベル」が設定され、さまざまな分野で採用されるようになった。水産養殖においても水産養殖管理協議会(ASC)の認証制度が国際的にスタートし、サケやティラピアの養殖で実施されている。これらは日本での養殖があまり盛んでない魚種だが、今はブリについての認証制度が検討されている。養殖場所の自然環境や生物多様性に悪影響を与えない、薬物を過剰に投与しない、餌を過剰に利用しないなどの基準案が作成されつつある。

アメリカでもブリは人気に

ブリ養殖は高度成長時代に増えて、水質汚染や抗生物質の使い過ぎなどマイナスイメージが続いたが、最近は養殖ブリを巡る明るい話題が出てきた。愛媛県のみかんブリ、徳島県のスダチブリ、大分県のカボスブリなど、かんきつ類を餌に混ぜて与えたブリは、抗酸化作用のあるビタミンEが増えて、刺し身にした時の色の劣化が防げるうえ、さっぱりした味になるというので評判だ。

また、国内だけでなく、アメリカでもブリの人気が高まっている。冷凍切り身の脂ののった食感がアメリカ人に好評で、和食ブームにも乗ってすしネタや刺し身として好まれている。最近の5年間で輸出量は5倍近く増加したという。

ウナギやマグロなど種苗生産がまだ難しい魚種と違って、ブリは人工的に種苗生産することもできる。このため、寄生虫に強い魚を選抜して養殖に適した家系を作る育種研究や、飼育条件をコントロールして自然環境よりも早い時期に産卵させ、良い条件のもとで成長させる研究などが行われている。ブリは先端技術が試される養殖魚のトップランナーだ。

船底に暴れ太鼓か鰤(ぶり)大漁(正比古)

(葛西臨海水族園園長 西 源二郎)

 西 源二郎(にし・げんじろう) 1943年生まれ。専門は水族館学、魚類行動生態学。70年、東海大学の海洋科学博物館水族課学芸員となり、2004~09年に同博物館館長。同大学教授として全国の水族館で活躍する人材を育成した。11年から現職。著書に「水族館の仕事」など

※「生きものがたり」では日本経済新聞土曜夕刊の連載「野のしらべ」(社会面)と連動し、様々な生きものの四季折々の表情や人の暮らしとのかかわりを紹介します。

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