川端康成の未発表原稿を確認 鶴見大図書館が所蔵
日本人で初めてノーベル文学賞を受けた作家、川端康成(1899~1972年)が若き日に書いた未発表小説「勤王の神」の自筆原稿を、鶴見大図書館(横浜市)が所蔵していることが4日、分かった。川端文学の研究者で同大文学部の片山倫太郎教授が確認した。生活苦の中で執筆した様子がうかがえるという。
作品は400字詰め原稿用紙21枚にペンで書かれている。筆跡や原稿用紙から川端の直筆とみられ、片隅に「3年12月26日」と記されていることから、1928年(昭和3年)ごろに執筆されたらしい。図書館が2010年、古書店から購入した。
片山さんによると、川端は29年、大衆向けの読み物誌「講談倶楽部」に道徳的なテーマを扱った6作品を掲載。江戸後期の神道家・井上正鉄の反体制的な生涯を描いた「勤王の神」はそれらの作品群と作風が似ており、同誌向けに書いた可能性が高い。
「勤王の神」は、26年に矢橋三子雄が出版した偉人伝「忍ぶ面影」の冒頭と内容がほぼ同じで、題材探しに苦心していた様子がうかがえるという。
片山さんは「このころの川端は、熱海の別荘の家賃が払えなくなって東京に戻った後。インク代にも困っていたほどで、生活するために雑誌に合わせて書いた様子が伝わってくる」としている。
鶴見大図書館は18日から3月2日まで、この自筆原稿を一般公開する。問い合わせは同図書館(電)045・580・8269。〔共同〕