2018年12月11日(火)

「絆」口にする前に(震災取材ブログ)
@宮城・亘理

2012/6/7 7:00
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東日本大震災で沿岸部が甚大な被害を受けた宮城県亘理(わたり)町で、すてきな女性たちに出会った。とにかく明るいし、よくしゃべるし。ドアを開けた瞬間から、そのパワーにのまれた。

地元伝統の巾着袋を作る「WATALIS」のメンバー(宮城県亘理町)

地元伝統の巾着袋を作る「WATALIS」のメンバー(宮城県亘理町)

彼女らは地元に古くから伝わる、布の端切れを再利用した「ふぐろ」と呼ばれる巾着袋を現代風にアレンジして製作、販売する「WATALIS(ワタリス)」のメンバーだ。メンバーは亘理町や仙台市の主婦ら20人超。津波で自宅を失った人もいる。

「小豆3粒包める布は捨てるな」。かつては養蚕業で栄えた亘理町は、古くから布を大切にする土地柄。各家庭では半端な余った布などを大切にとっておいて、時間のあるときにチクチクと縫い合わせ、ふぐろを作っていたという。

何かのお礼や頂き物のお返しに米や小豆をそのふぐろに入れて渡していた。農作業をちょっと手伝ってくれた、お裾分けに何かをくれた、そんなちょっとしたお礼の気持ちを形にして渡すときのツールがふぐろだったわけだ。

人と物への感謝を大切にする、地元の美徳。それをふぐろという形で、多くの人に伝えたい。そして震災を機に傷ついた地元を何とか元気づかせたい。それがWATALISの活動の根幹だ。

町内外の支援者から寄せられる古くなった着物や布を各家庭で袋を縫い、同町内の店舗兼工房に持ち寄る。毎週月曜の定例会では、メンバーが集まり、裁縫の先生に縫い方の教えを受けたり、商品作りの意見を交わす。

「縫い方を教え合ったり、布の組み合わせの意見を交わしたり。楽しくて仕方がないの。ねっ?」と、同町の主婦、斎藤真奈美さん(40)が言うと、皆が笑顔でうなずく。仙台市の主婦、橋元あゆみさん(44)も「ここで過ごす時間はすごく大切」とほほ笑む。

「この布、めんこいっちゃー」「この布の裏地にはやっぱりピンクでしょ」。30代から70代のメンバーたちが集まれば、休む間もなくしゃべって、笑って。初対面だった人も多いのに、1つのチームになっている。

斎藤さんがふと、真剣な表情に。「みんなで一緒に、地元のために何か一生懸命やっている。同じ目的の仲間ってのがいいんだよね」

皆が同じ方を向いて、同じ気持ちでいるからこそ生まれる一体感、仲間意識。そこに生まれるものこそが「絆」ってものなんじゃないか、と感じた。

がれきの広域処理は遅れがちで、原発事故に伴う風評被害も収まりきらない。それでもそこかしこで乱舞する「絆」という言葉。まずはせめて同じ方を向いてから……。(堅田哲)

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