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匠の技 ソフトでつなぐ 浜松が目指す次世代ものづくり

国内から新興国へと大手企業が生産拠点を移す中で、日本のものづくりの街はどんな未来図を描けばいいのか。スズキやヤマハを育てた浜松でその答えを探る取り組みが動き出している。目指すのは新たな価値の創造。地域を挙げてソフトウエア技術者を育成し、匠の技といわれる「ハード」の力に「ソフト」の力を融合することを狙う。

浜名湖の湖畔にある第三セクターの人材育成拠点「浜名湖国際頭脳センター」(浜松市)。同センターの研修所では地元企業の技術者が週末集まり、車や機械の動きを制御する「組み込みソフトウエア」の研修を受けている。静岡大学が2008年度から国の補助金を得て始めた試み。4年半で130人以上の「アーキテクト」とよばれるシステム設計者を育てた。

静岡大学のソフト開発者育成講座には多くのものづくり企業が技術者を派遣している

技術者を派遣する企業の多くは部品加工などを手掛ける製造業だ。狙いはハードとソフトの融合。「駆動系製品の頭脳である組み込みソフトも作れれば、大手企業の開発パートナーになれる」(二輪車部品加工業)。大手メーカーが主要拠点を海外に移しても、中小企業は付いていく資金や人手がない。国内で生き残るには次世代のものづくりを提案できる存在になる必要がある。

今年度で教育プログラムが終了するが、地域の企業からは継続を望む声が大きいという。そこで静岡大学は地域企業と共同でコンソーシアムを作り、補助金が切れた後も活動を続ける方針を打ち出した。「今後5年で延べ300人の技術者を育てたい。そうすれば一応の役割は果たせたことになるだろう」と、企業に参加を呼びかけている。

もともと浜松地域は早くから、ソフト開発力の重要性を認識してきた地域だ。だからこそスズキやヤマハ、ホンダといった世界的な企業を生み出すことができた。実際に浜松には規模は小さいが、高い技術を持つソフト関連企業も多く育っている。こうした企業が今後、ものづくりの街のソフト化をあらゆる意味でけん引していくことになるだろう。

例えばエリジオン。1999年に大手メーカーの技術者だった小寺敏正氏が創業したベンチャーで、3次元CAD(コンピューターによる設計)関連ソフトを自動車メーカーなどに供給している。種類の異なるCADソフトのデータを正確に相互変換できるソフトを開発したことで、世界中から注目を集めた。

小寺氏は「日本企業の多くは技術者を大切にしてこなかった」と訴える

注目すべきは7割が東京大学出身という技術陣。東大生でもほとんど解けないという採用試験で選ばれた頭脳集団だ。優秀な人材をひき付けるのは徹底した成果主義。業績に貢献する技術を開発すれば、20歳代でも年収1000万円を超える。「能力を評価してくれる会社を若い世代は求めている。そういう企業が日本には少ないのだろう」(小寺氏)

大手企業からは買収の誘いもあるが小寺氏は断り、7月には持ち株会社への移行による自主独立路線を打ち出した。浜松で「技術者の理想郷」を完成させる決心をしたということだろう。若い優秀な人材を引き寄せる同社の存在は、これから浜松という地域に大きな意味を持ってくるに違いない。

アバンセシステム(浜松市)も浜松で産声を挙げたシステム開発会社。ヤマハや浜松ホトニクスの開発パートナーとして実力をつけてきた企業だ。同社は今、新たな事業戦略としてクラウドコンピューティング事業に力を入れている。

手始めに事業化したのがクラウドを使った災害時の安否確認システム。静岡大学などと組み、同大学が学内システムとして確立した仕組みを応用し、低価格の企業向けシステムを開発した。同業他社の10分の1程度の費用で済むという。

安否確認以外にも企業の情報システムをクラウド化する事業を加速させる計画だ。クラウドは企業の情報関連投資を軽減するメリットがある。同社の低価格のクラウド技術は浜松の中小製造業の情報化を強く後押しする可能性がある。

シーポイントは地元の製造業と共同で新事業を開拓する

サーバーの貸し出しや地域密着型のブログポータルサイト運営を主力とするシーポイント(浜松市)は新規事業としてデジタルサイネージ(電子看板)事業を始めた。浜松の中心市街地に地域の飲食店を紹介するクーポン発券機付きの電子看板を昨年設置。第2弾としてテナントビル向けのシステムも開発し、全国で営業を始めた。

野沢浩樹社長が電子看板事業で重視するのは、地元企業との連携だ。実際に表示機器の開発・生産は地元のメーカーと共同で実施した。「浜松はものづくりが元気にならないと盛り上がらない。一緒に新しい事業を立ち上げ浜松を元気にするのが我々の役割」と野沢氏。ハードとソフトの連携は企業間でも確実に進んでいる。

(浜松支局長 大西穣)

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