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グーグル独占は続くか 劣勢MSにヤフーの"頭脳"

編集委員 小柳建彦

MSのオンライン部門トップのチー・ルー氏は、グーグルに対抗する検索研究開発のカギを握る

日本のヤフーが検索・広告配信エンジンを米ヤフーから米グーグルに切り替える決断を下したことで、日本でも検索市場のグーグルによる独占を懸念する声が高まっている。これはパソコンにたとえればCPU(中央演算処理装置)やOS(基本ソフト)をマイナー供給者から米インテルや米マイクロソフト(MS)に切り替えるような、純粋商取引。ちょうどアップルがCPUをIBM製からインテル製に切り替えたときに似ている。合併や営業権の譲渡など、自動的に公正取引委員会の審査対象になる行為とは異質だ。むしろグーグルが日本の検索件数の95%を処理することで最も懸念されるのは経済的な独占ではなく、ネットに存在する日本語情報の取り出し口のフィルターを米企業であるグーグル1社が握るという、文化的な独占の方なのではないか。

それではグーグルの独占的地位はこれで固定化されてしまうのだろうか。今後のカギはやはり、検索の世界でグーグル最大のライバルであるMSが握っている。

そもそも米ヤフーが昨夏、独自の検索エンジン「YST」の開発から撤退し、検索エンジンをMS「ビング」に切り替える決断を下した背景には、世界で5指に入る天才検索技術者といわれる中国出身のチー・ルー氏(48)の米ヤフーからMSへの移籍があった。同氏は1990年代にIBMを経て米ヤフーに入社。それから米ヤフーが使用検索エンジンをグーグルから自前のものに切り替えた2004年まで、同社の検索エンジン戦略とエンジン開発で主導的な役割を果たした。2000年代に入ってヤフーは検索大手だった米インクトミや元祖検索連動広告のオーバーチュアを買収したが、それらの買収の指揮を執っていたのもルー氏といわれている。

ルー氏は主に買収したインクトミの技術をベースにYSTを開発。04年にようやく本番稼働にこぎつけた。その後はヤフーの開発投資のペースがグーグルに見劣りしていたため、グーグルとの検索能力格差が縮まらず、検索市場でのシェアをグーグルに奪われていく。MSがヤフーに買収提案をし、ヤフーの経営体制が大揺れに揺れた08年に、とうとう中国帰国を視野に入れてヤフーを退社。そこにMSが猛烈なラブコールを送り、ついに09年1月、オンライン・サービシズ・グループのプレジデントとしてMSに入社する。しかも後を追うようにヤフーでルー氏の右腕だった技術者が数人MSに移籍した。ヤフーの検索技術開発チームは"抜け殻"も同然になり、この時点で検索撤退が事実上決定的になったといえる。

MSが09年6月、MSN上で提供する検索のエンジンを従来の「ライブ・サーチ」から「ビング」に衣替えして新技術として売り込み始めたのは、この天才科学者をヘッドとする新開発体制が整ったからだ。ヤフーが「ビング」への切り替えに踏み切ったのも、もともと自社の検索技術を担っていた人材がMS側にいるという安心感があったからこそだとみられている。

つまり従来、グーグル対ヤフーの2強の戦いだった検索エンジンの開発競争は、人材面でみると、そのままヤフーチームが看板をMSに掛け替えて今に続いているといえる。ある検索技術の専門家は、「グーグルもルー氏の実力の高さは十分認識しているはず。だからこそ、MSに対する警戒を怠らない」と解説する。

しかしルー氏はMSでのビング開発開始後も、再三にわたって「検索エンジンの成熟には時間がかかる」と繰り返している。今回日本のヤフーがビングの性能を「不十分」と判断したのも、開発開始からまだ間もないエンジンの「経験不足」と日本語市場への取り組み不足が影響したとみられる。MSの無尽蔵ともいえる資本力を生かしてビングの検索実績を多国語で積み増し、高速の開発ペースを保っていけば、まだグーグルの鼻を明かすチャンスはあるはずだ。

それにしても検索エンジンの改良には膨大な数の検索実績の積み重ねが物を言う。それだけに今回の日本のヤフーの決断は、MSを一層不利な立ち位置に追い込んだのは確かだ。

日本人が日本語の検索市場のグーグル独占を防ぎたいのなら、検索の利用記録情報の部分についてグーグルに開示要求するのが一案ではないだろうか。グーグルが独占的なシェアを確保した後でも「悪にならない」という社是を貫きたいなら、全世界的に検索実績情報を自主公開すれば説得力が増すだろう。MSなど競合他社はその情報を分析することで、単独開発よりも速くエンジンの性能を向上できる。

検索は消費者の行為。その記録は、いわば医者にみてもらったときのカルテ同様、利用者側に真の所有権があるはずだ。消費者がどんな検索キーワードを入れ、出てきた検索結果のどれをクリックしたかという検索利用記録情報は、ネット市民の公共的な情報として公開されるべきだという原則がインターネット上で民間主導で確立できないだろうか。そうすれば政府の規制に頼ることなく、健全な競争を維持できるだろう。

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