農地で育つか「プチソーラー」 エネルギーを地産地消 - 日本経済新聞
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農地で育つか「プチソーラー」 エネルギーを地産地消

農林水産省が3月31日付で、農地に太陽光発電施設を設置するための運用方針を示した。支柱を立ててその上にパネルを取り付ける方式で、支柱の基礎部分を農地の一時転用許可の対象とした。転用期間は3年間で、問題がなければ更新できる。

(1)支柱が簡易な構造で容易に撤去できる、(2)支柱(で区切ったエリア)の面積が必要最小限で適正、(3)パネル下部での営農の継続が確実で農作物生育に適した日射量を保つ、(4)農機を効率的に利用できる空間を確保――などを定め、年に1回の報告を義務付け、農産物生産に支障が出ていないことをチェックすることを転用条件とした。

昨年7月に始まった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度で太陽光は1キロワット時あたり42円という高値が付き、日本中でメガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設ラッシュが起きた。今年1月末までに全国で317万9615キロワット分が設備認定され、そのうち北海道が75万6304キロワット、九州・沖縄地方が82万8313キロワットを占める。メガソーラーの運営主体はソフトバンクや大手商社などの大企業が多い。土地を提供した地元はあまり潤わないのが実情だ。

ところが農地の場合は農家が自分で太陽光を設置するために、買い取ってもらった電気の代金も農家の懐に入る。エネルギーの地産地消につながる利点がある。農水省は農業生産の継続を最重要視しており、農地における太陽光発電を制限してきたが、ここにきてようやく方針を転換した格好だ。

太陽光は植物の生育に不可欠だが、必ずしもさんさんと降り注ぐ必要はない。木漏れ日で育つ植物はたくさんある。植物工場は発光ダイオード(LED)や蛍光灯を用いた人工照明で成立する。太陽光パネルで農地の一部を遮っても農作物は育つという理屈だ。

光学フィルター大手のフジプレアムは2013年度から3年間、兵庫県姫路市が教育などに利用している約1200平方メートルの農地で太陽光発電事業を研究する。事業費は約2000万円。軽量の太陽光パネルに太陽光自動追尾システムを組み合わせる。一般的な固定型の1.4~1.5倍の発電量が期待でき、設置面積は約20分の1で済む。農業収入と発電収入の両立を目指すという。

 いずれは耕作放棄地を使った太陽光発電を検討する必要が出てくるだろう。農水省がまとめた調査「2010年世界農林業センサス」によると耕作放棄地面積は1990年に21万7000ヘクタールだったのが、2010年には39万6000ヘクタールに増加している。内訳をみると、半分近い18万2000ヘクタールは土地持ち非農家(農家以外で耕地および耕作放棄地を5アール以上保有する世帯)によるもの。

これに販売農家(経営耕地面積が30アール以上または農産物販売金額が年間50万円以上の農家)が12万4000ヘクタールで続き、残りが自給的農家(経営耕地面積が30アール未満かつ農産物販売金額が年間50万円未満の農家)の9万ヘクタールだ。

メガソーラーは初期投資が巨額で、広い土地も必要なために農家には手が届かない。ただ、最近、注目を浴びている「プチソーラー」は出力が10キロワット以上、50キロワット未満で費用が安く、土地も1000平方メートル程度で間に合う。パネルを取り付ける架台に建設現場の足場パイプを転用した簡便な構造のものがあり、農水省が求める「簡易な構造で容易に撤去可能」という条件にも合致する。

耕作放棄地を再生する試みは重要。だが、農家の高齢化や戸数減少でてこ入れが難しい土地が存在するのも確か。集約から取り残された耕作放棄地にプチソーラーを設置するという選択肢は一考に値する。

(編集委員 竹田忍)

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