/

「正義のハッカー」養成 サイバー模擬攻防、宮城に施設

サイバー攻撃が急拡大する中、官民が連携してウイルスの侵入から企業や組織を守る「正義のハッカー」の養成に乗り出した。5月28日には宮城県多賀城市に工場や発電所の制御システムを守るハッカー養成施設を開設し、全国の主要都市では400人が参加するハッカーの技術コンテストを開催、千葉でも若手を養成する合宿を実施する。「マイナンバー」制度の導入もあり、ハッカー養成が急務となりそうだ。

工場やプラントも標的

「サイバー攻撃に対抗できる技術を開発し、安心できる防御と認証の仕組みをつくる」。技術研究組合制御システムセキュリティセンターの新誠一理事長は28日の開所式で力強くあいさつした。新設されたのは、日本初のサイバー攻撃の模擬攻防施設だ。技術者は攻撃を体験することでシステムの弱点を知り、防御に生かす。

施設を開いたのは技術研究組合、制御システムセキュリティセンター(CSSC)の「東北多賀城本部」。経済産業省系の産業技術総合研究所などが中心となり日立製作所、東芝など18団体が作った組織だ。開所式には関係者約170人が参加した。1600平方メートルのフロアに約20億円を投じて、7種類の制御装置とシステムをそろえた。実際に火力発電や化学プラント、自動車製造などの工場で使う、ロボットやビルの空調・照明管理などだ。ここに対して別に設けた「レッドチームルーム」から技術者が誤作動や停止を狙うサイバー攻撃をしかける。

 攻撃ソフトには米国防総省が使うサイバー攻防演習システムの中核装置も採用、世界レベルの攻防を可能にした。約300種類の多様な攻撃が可能で実戦さながらの訓練をこなせる。攻防の様子は逐一、施設中央の大型モニターで観察できる。今後の研究には年5億円を投じるという。

東北多賀城本部長の高橋信・東北大学大学院教授によると、プラントや工場ではサイバー攻撃による不具合を識別できないのが現状。しかし、工場などの制御システムへのサイバー攻撃は欧米や中東のみならず、日本にも及んでいるという。

日米欧で連携し防御へ

視察に訪れたオランダのナショナル・サイバー・セキュリティー・センターのジエルストラ国際関係局長は「システムの安全性の認証や人材育成で連携を進めたい」とした。オランダの拠点や米国で既に稼働するアイダホ国立研究所とも連携、日米欧の3極で制御システムの防御を固める人材を育成する。

多賀城だけではない。全国各地で攻撃スキルを防御に転用できる「正義のハッカー」の育成が今年、本格化する。8月、400人の技術者が参加するセキュリティーコンテスト「SECCON(セクコン)」が始まる。参加者はパスワードを解析してサーバーに侵入してファイルを書き換える攻撃技術や自分のサーバーを他チームの攻撃から防ぐ防御技術などを競う。IT企業などが主催し、政府や経団連も同コンテストを支援する。

 「官民連携での育成は初めて。今後も加速させる」。経産省で情報セキュリティー政策をまとめる商務情報政策局情報セキュリティ政策室の上村昌博室長は話す。経産省は昨年、独自にセキュリティーコンテストを開催、予想をはるかに上回る46チーム、166人の社会人と23歳以上の大学生が参加した。

8月には千葉市で経産省管轄の情報処理推進機構が「セキュリティ・キャンプ」を主催。22歳以下の若者40人で4泊5日の合宿を行う。攻撃と防御の技術だけでなく、身につけたサイバー技術を「正義のため」に使うように倫理面も教える。

総務省系の情報通信研究機構(NICT)のサイバー攻撃対策総合研究センターは企業や団体から機密情報を盗み出す標的型攻撃を丸裸にする実験を通し、攻撃者の手法を明らかにして対策に生かす。100億円を投じて石川県能美市に1千人規模の複数の企業の情報ネットワークを再現できるデータセンターを設置、標的型攻撃のウイルスを侵入させる。パソコンやサーバーのすべての動作ログを3カ月から1年間集め、追跡しにくい攻撃の足跡を捉える。

日本のセキュリティー人材は約26万人と言われるが、約6割はスキル不足だ。"悪徳ハッカー"に対抗できるのは「正義のハッカー」しかない。欧米や中国に比べてセキュリティー人材の育成で後れを取っていた日本の姿が変わりそうだ。

 ▼ハッカー コンピューターやインターネット技術にたけ、課題に迅速に対応できる人を指す。高度な知識や優れたプログラミング技術、ネット技術を使って、新たなソフトを作り出したり既存の課題を解決したりする。日本では悪意ある技術者として使われがちだが本来そうした意味はない。悪意ある技術者は「クラッカー」と呼ぶ。ハッカー文化の発祥の地は米マサチューセッツ工科大学(MIT)とされる。米国や中国では数十万人単位でハッカーが存在するとの説もある。

(郡山支局長 佐藤敦、井上英明)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン