CO2を回収し再利用 重工各社、新技術売り込む
二酸化炭素(CO2)が増えれば、重工各社の仕事が増える――。「風が吹けば桶(おけ)屋がもうかる」ような動きが出始めた。地球温暖化を防止するため製造業各社が排出抑制に知恵を絞るCO2を「収益源」に転換しようという取り組みだ。
窒素もCO2も「製品」に

重工各社の最先端を走っているのはIHI。石炭火力発電所が排出するCO2を再利用する技術を開発し、2015年にも米国の電力会社に装置の販売を始める計画を持っている。
仕組みはこうだ。まず空気から窒素を取り除いたうえで、石炭を燃やした後に出る排ガスからCO2を回収する。窒素は肥料工場などに販売できるほか、シェールガスを掘削する際のガスとしても利用できる。CO2は油田の採掘補助などとして、油田開発を手掛ける石油メジャーなどに売り込む。
CO2の回収技術は複数の企業が研究しているが、窒素とCO2を的確に分離し、用途を分けることで「製品価値」を高められるのが長所だ。
IHIによれば、発電能力30万キロワットの発電設備に回収装置を取り付けた場合には200億円程度の建設費が必要となる。それでも取り出したCO2と窒素を他社に販売することで、2~3年で初期投資を回収できる見通しだという。

米国では発電能力の4割以上を石炭火力に頼るとされ、CO2回収装置の需要は大きい。ある重工大手の担当者は「ただ単純にCO2を回収するだけでなく窒素も分離して"製品"としての価値を高められるという点で、IHIの技術は先進性が高い」と評価する。
「CO2で石油が増える」――。そんな事業に踏み出すのは三菱重工業。同社は火力発電所などの排ガスからCO2を効率よく回収し、油田に送り込んで原油の採掘量を増やせる独自技術を生かしたプラントの受注活動に力を入れている。
同社によれば油田では一般に、埋蔵する原油のうち実際に採掘できるのは3割程度という。粘度が高く、吸い上げにくいことなどが原因だ。三菱重工が開発した技術では高い圧力をかけたCO2を原油層に送り込み、原油に溶かして流動性を高める。
どれだけの効果があるのか。「これで採掘の割合を約5割に向上できる」と同社の担当者は語る。油田の運営会社にとっては十分に収益改善の要因になるといえる。
温暖化防止と利益を両立
排ガスを特殊な吸収液と反応させ、CO2を効率的に回収できることなどが同社の技術の利点という。北米や中東などで営業し、今後1~2年以内の受注を目指す。実現すればプラントの総工費は数百億円になる見通しだ。
このほか東芝はグループ会社の福岡県内の火力発電所にCO2分離回収システムを設置し、実証試験を進めている。中国など海外で事業化することも視野に入れており、国内外で着々と準備が進んでいる。
「純粋に温暖化防止というだけの理由で、企業にCO2回収設備を導入してもらうことは難しい」。重工大手の幹部は、事業の実態をこう語る。導入した企業にも利益をもたらす技術を重工各社が実用化することが、結果的に温暖化防止につながる。こんなサイクルを回していくことが、今後は一段と重要になりそうだ。
(産業部 村松進)